日本では正規輸入が途絶えて久しいイタリアのプレミアムブランド「ランチア」(Lancia)。しかし欧州では、ブランド再興に向けたプロジェクトが進んでいる。第1弾として登場した新型「イプシロン」が並行輸入によって上陸したので、このブランドならではのデザインや走りを実車でチェックした。
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「ストラトス」や「デルタ」でラリーを席巻した名門
現在、正規輸入されているイタリア車のブランドは「アバルト」「アルファ・ロメオ」「フィアット」「フェラーリ」「マセラティ」「ランボルギーニ」となる。スーパーカーから大衆車まで、個性的なラインアップだ。
かつてはここに、ランチアが加わっていた。
ランチアは1906年創業なので、今年で120周年を迎える名門だ。第1号車は「アルファ」で、これ以降、ギリシャ文字のアルファベットを車名に使うことが多くなった。
1922年に発表した「ラムダ」は、現在の乗用車では一般的なモノコックボディや前輪独立懸架サスペンション、4輪ブレーキをいち早く採用し、狭角V型4気筒エンジンを積むなど、昔から独創性や先進性に長けたブランドだった。
モータースポーツへの参戦も積極的で、とりわけラリーでの活躍が有名だ。「世界ラリー選手権」(WRC)では「ストラトス」や「デルタHFインテグラーレ」などによって、10度のタイトルを獲得している。
この頃までは日本にも正規輸入のランチアが入ってきていたが、1990年代後半に終了。その後、欧州ではフィアットとクライスラーの合併に伴い、クライスラーブランドとの統合が図られたが成功せず、コンパクトな「イプシロン」を残して販売を終了してしまった。
ところがその後、フィアット・クライスラーとプジョーやシトロエンなどを擁するグループPSAの合併により生まれたステランティスは、ブランド再生を決断。2024年にイプシロンをモデルチェンジすると、1970年代にフラッグシップだった「ガンマ」、そしてあのデルタの復活に向けた準備を進めている。「HF」の2文字とともに、ラリーにも再挑戦を始めた。
現時点で、ステランティスグループのインポーターであるステランティスジャパンはランチアの正規輸入を行っていない。でも、日本でランチアの新車を買うことはできる。並行輸入車があるからだ。
イプシロンってどんなクルマ?
1987年に愛知県豊橋市で創業し、現在は神奈川県横浜市にも拠点を構える「カーボックス」も、新型イプシロンを取り扱うショップのひとつ。筆者にとっては昔からの知り合いということもあり、カーボックス横浜で車両をお借りした。
新型はイプシロンとしては5代目となる。初代は、日本ではアウトビアンキブランドで販売された「Y10」で、アバルト版が人気を集めた「A112」の後継車だった。
2代目で車名は「イプシロン」となったが、表記は「Y」の一文字だった。3代目で「イプシロン」(Ypsilon)と記されるようになる。この2世代は正規輸入されておらず、4代目は前述のクライスラーブランドとの統合の影響を受けて、わが国ではクライスラー・イプシロンとして売られた。
このうち筆者は、2代目を所有していたことがある。クラシカルなラインをモダンなハッチバックボディに融合させたスタイリング、112色もあったボディカラーなど、独創性にあふれたプレミアムコンパクトだった。
現行型イプシロンの特徴は?
新型イプシロンはプジョー「208」やDSオートモビル「DS3」などと同じプラットフォームを使う。ハイブリッド車と電気自動車(EV)があるところも208と共通。今回取材したのは、1.2リッター直列3気筒エンジンとモーターのコンビニ6速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせたハイブリッド車だった。
ボディサイズは全長4,080mm、全幅1,760mm、全高1,440mmで、歴代イプシロンでは最も長く幅広いが、長さは208より短く、左ハンドルに慣れれば、日本でも取り回しはしやすいだろう。でも、存在感は際立っている。
フロントにはランチア伝統のグリルを継承したT字のライティングを配し、左右にヘッドランプを置いた。黒いスポイラーに丸いランプを組み合わせたリアはストラトスがモチーフだという。どちらもかなり大胆なのに、なぜか落ち着きも感じる。
しかも、前後のランプの中の光り方やホイールのスポークには「Y」の文字が隠されていて、イタリアンデザインの奥深さも教えられる。
ボディサイドはそれに比べるとおとなしいが、サイドウインドー上下とドアパネルのふくらみが、いずれも緩い弧を描いていて、筆者が所有していた2代目を思わせた。
高級家具ブランドとコラボした希少モデルに乗る
取材車は「エディツィオーネ・リミタータ・カッシーナ」と呼ばれる1,906台限定の仕様で、イタリアの高級家具ブランド「カッシーナ」とコラボレーションしたモデルだ。そのためもあり、インテリアの仕立てもコンパクトカーとは思えなかった。
水平基調のインパネは、2枚のデジタルディスプレイを円筒でつなぎ、センターコンソールにも「タヴォリーノ」と呼ばれる円形のトレイを置くなど、自動車離れした造形だ。
カッシーナ仕様ではタヴォリーノの手前にレザーを敷き、奥はスマートフォンの非接触充電が可能。レザーのところに手のひらを置くと、奥のスイッチが扱いやすい。
新型イプシロンにはシートのベルベットをはじめ、リサイクル素材が多用され、環境にも配慮している。その中で、レザーを使うのはこのタヴォリーノだけ。これ見よがしにレザーをアピールするクルマもある中で、真のおしゃれを教えられる。
デジタルメーターは数字の書体をロゴに似せたりして、ランチアらしさを出している。並行輸入車ながら日本語に対応できているのは、デジタル化のメリットだろう。
シートは前後とももっちりした着座感で、ここもクラスを超えている。リアシートは身長170cmの筆者なら、ひざの前も頭上も余裕があり、快適に過ごせる。
ハイブリッドのパワーユニットはステランティスの他の車種で経験済みであり、100psというシステム最高出力は控えめながら、車両重量は約1.3tに抑えられているので加速に不満はなく、遮音性の高さも印象に残った。
歴代イプシロンはすべて、同クラスのフィアットとプラットフォームを共有しながら、ランチアらしいしっとりした乗り味を実現していた。新型は「猫足」のプジョーと共通ということもあり、そのテイストを受け継いでいた。
サスペンションの上下の動きがゆったりしていて、プジョーよりもシトロエンを思わせるほど。それでいて確実な切れ味のステアリングは、ランチアそのものだ。
新型イプシロンの印象をひとことで言えば「豊か」だ。デザインの引き出しは無限にある感じで、ヘリテージとモダンが高度に融合しているし、走りはグループ内のメカニズムを使いながら、ちゃんとランチアらしさが表現できている。
この路線を続けることができれば、数は少ないながら、プレミアムブランドとして独自の立ち位置を確立することはできると思う。今後のランチアに期待したい。











































