ホンダが「フォーミュラ1」(F1)に復帰する……日本人として、なんとも誇らしいニュースが飛び込んできた。
今回はホンダがチーム(エントラント)としてF1に復帰するわけではなく、PU(パワーユニット、2014年から“エンジン+回生システム”を含む総称としてこう呼ばれる)をサプライヤーとしてアストンマーティンに供給する、という形での復帰である。
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F1で黄金期を築いたホンダの歩み
ここで、『2025年もレッドブルに供給していたのでは?』と疑問に思った方も多いだろう。
たしかに、それはそうなのだ。ただ、レッドブルへのPU提供は2021年で形式的(契約・運用主体の面)には終了し、2022~2025年は技術支援という形になっている。このあたりはなんともスッキリしないが、いろいろと大人の事情があることは確かだ。
さて、本題に入る前に、ホンダとF1の歴史を振り返ってみよう。ホンダが初めてF1に参戦したのは1964年のこと。1968年までの第一期と呼ばれるこの時代は、エンジンもシャーシもホンダ製だった。1965年には初優勝を果たしている。
第二期は1983年から1992年までで、エンジン供給のみを行った。供給したチームはスピリット、ウイリアムズ、マクラーレン、ロータス、ティレル。1986~1987年はコンストラクターズチャンピオン、1988年と1990~91年はアイルトン・セナ、1989年はアラン・プロストがドライバーズチャンピオンとなり、黄金期とも言われた。
1992年をもってワークスとしてはF1から手を引いたが、その後は「無限ホンダ」名義でエンジン供給を実施。無限(現M-TEC)はホンダ系チューナーであり、あくまでホンダがエンジンコンストラクターではなく、無限がコンストラクターという形をとった。無限のエンジン供給は1991年から始まり、フットワーク、ロータス、リジェ、プロスト、ジョーダンと多彩なチームに供給し、2000年にその役目を終えている。
第三期は2000年から2008年まで。2000年からBAR、2001年からはジョーダンにもエンジンを供給し、2006年からはホンダF1チームとしてワークス参戦を果たした。つまり、エンジンだけでなくシャーシもホンダ製となった。
ワークス初年度の2006年は第13戦でジェイソン・バトンが優勝した。なお、2006~2008年はスーパーアグリにもエンジン供給を行っている。
世界金融危機などの外的要因により、2008年をもってF1から撤退したホンダ。以降、2014年いっぱいまで表立った活動はなかった。
2015年、ホンダはマクラーレンにPUを供給する形でF1に復帰。第四期がスタートした。2018年からはトロロッソ(アルファタウリを経て現レーシングブルズ)、2019年からはレッドブルにPUを供給。2021年でいったん活動を休止するが、2025年までレッドブルは、技術提供を受けるという形で、実質的にはホンダPUを使い続けた。そのレッドブルでは、ホンダ系PUマシンを駆るマックス・フェルスタッペンが2021年から2024年までの4年連続でドライバーズチャンピオンを獲得している。
パートナーはアストンマーティン
そしてホンダは、2026年から正式に、アストンマーティンレーシングチームへのPU供給を開始することとなった。ホンダF1第五期のスタートといっていい。
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2026年1月20日の「2026 Honda × Aston Martin Aramco F1 Team ニューパートナーシップ始動発表会」。登壇者は左からFormula One Group President & CEO of Formula 1のステファノ・ドメニカリ氏、Aston Martin Aramco Formula One Team Executive Chairmanのローレンス・ストロール氏、ホンダ 代表執行役社長の三部敏宏氏、ホンダ・レーシング(HRC)代表取締役社長の渡辺康治氏
アストンマーティンは1959年に自社開発のエンジンとシャーシでF1に参戦。翌1960年にF1から撤退し、1991年までF1には関与していなかった。
2020年、カナダ人投資家のローレンス・ストロールがアストンマーティンの大株主となる。ストロールはF1チーム「レーシング・ポイント」のオーナーでもあったため、2021年にレーシング・ポイントを「Aston Martin Cognizant Formula One Team」と名称変更し、アストンマーティンがF1に復帰することとなった。
レーシング・ポイントは1991年に創設された「ジョーダングランプリ」が起源。ジョーダングランプリはその後、ミッドランドF1→スパイカーF1→フォース・インディア→レーシング・ポイントという変遷をたどった。ジョーダン時代の1998年から2002年(2000年までは無限ホンダ)はホンダエンジンのユーザーであった。
2026年のF1は大きく変わる
2026年のF1はレギュレーションが大きく変わる。
2025年モデルのF1のPUは、エンジンと「MGU-H」(Motor Generator Unit-Heat/熱エネルギー回生システム)を組み合わせていたが、2026年からは熱エネルギー回収を行わないシンプルな「MGU-K」(Motor Generator Unit-Kinetic/運動エネルギー回生システム)に変更となる。
2025年モデルではエンジンの出力がモーターの出力を大幅に上回り80%以上となっていたが、2026年モデルは50対50となる。このため、MGU-Kが発生するパワーは2025年モデルでは120kWであったが、2026年モデルでは350kWへ引き上げられる。合計した出力は700kW(約950馬力)だ。使用する燃料は100%カーボンニュートラルの合成燃料となる。
ホンダがF1に復帰する背景は?
ホンダがF1への本格復帰を決断した背景には、単なるモータースポーツへの回帰という言葉では語り尽くせない、明確な技術的意義がある。三部敏宏社長はその理由について、「F1で培われる最先端技術が、次世代のモビリティ開発と強く結びついている」と語る。
「現在のF1は、高効率燃焼技術や高度な熱マネジメント、高出力モーターや大型ターボに代表される高速回転領域の技術、さらにはサステナブル燃料など、極めて先進的な技術の集合体だ。これらは次世代ハイブリッド車やEV(電気自動車)のみならず、eVTOLや航空機エンジンといった“空のモビリティ”にも応用されている。たとえば、F1で蓄積されたサステナブル燃料の知見は、持続可能な航空燃料(SAF)や研究が進むeVTOL用燃料へと展開されている。バッテリー技術についても同様で、高効率化の知見はすでにeVTOLへの転用が始まっている。さらに、モーターやターボの高速回転技術に関しては、F1と航空機エンジンの間で技術が相互に行き交い、実戦の中で鍛えられながら双方を進化させる好循環が生まれている」(三部社長)
また三部社長は、F1という舞台そのものの価値についても強調する。
「電動化と脱炭素、その両立に挑む現在のF1は、ホンダにとって『挑戦と先進性の象徴』だ。加えて、厳格なコストキャップ制度の存在も見逃せない。限られた資源と開発予算の中で最大限の成果を求められるF1は、単なる速さを競う場ではなく、知恵と技術を極限まで研ぎ澄ます戦いの場だ」
さらに、「常識を打ち破り、限界を超える発想と技術力が求められる。ここはホンダの技術者の真価が試される舞台だ。世界の強豪がひしめくF1では、複雑なレギュレーションのもと、一切の妥協が許されない。簡単な道は存在しない。それこそがF1の厳しさであり、同時に最大の魅力なのだ。F1の技術開発環境は、数日単位で結果がフィードバックされる極めてシビアな世界でもある。このスピード感の中で鍛え上げられた人材が、再び量産車や商品開発に戻ることで、より高い次元の“喜びと感動”をユーザーに届けられる」と語った。
高効率燃焼、熱マネジメント、軽量化、高出力かつ高効率なバッテリー、そしてサステナブル燃料など、F1で磨かれる技術の多くは、陸・海・空と多様なモビリティを手がけるホンダにとって極めて親和性が高い。部門の垣根を越えた技術者同士の連携が、ホンダ全体の技術基盤をより強固なものへと押し上げているというわけだ。
ホンダはF1で勝てるのか!
さて、アストンマーティンとホンダという組み合わせはどのような効果を生むのだろう。2020年代の成績をPUとシャーシに分けてみる。
まずはPU。ホンダ系PUを積むレッドブルのシリーズでの成績は1位、2位、3位がそれぞれ2回ずつ。続いてシャーシ。アストンマーティンは4位が1回(2020年のレーシングポイント時代)、5位と7位が2回ずつだ。
2025年のコンストラクターズ順位を見るとアストンマーティンは7位。ホンダ系PUのレッドブルは3位。1位のマクラーレンと2位のメルセデスはいずれもメルセデスPUだ。
アストンマーティンのドライバーはフェルナンド・アロンソとランス・ストロール(オーナーの息子)。ストロールはシリーズ10位が最高位だが、アロンソは優勝32回、シリーズチャンピオン2回のベテランドライバー。そのアロンソをもってしても2025年は5位が最高位。こうしてみると、やはりシャーシや空力などのパフォーマンス不足を疑ってしまう。ホンダPUを手に入れたからといって、アストンマーティンが一気に速くなるとは思えない。
しかし、2026年に行われるレギュレーション変更はPU関係だけではなく、ホイールベースや全幅の短縮、タイヤサイズの縮小、DRS(Drag Reduction System/ドラッグリダクションシステム)を廃止し、前後ウイングを可動式として直線ではダウンフォースを減らし速度アップ、コーナーではダウンフォースを増し安定性を向上するなどシャーシまわりの変更点も大きい。従来モデルの性能だけでは予測できないことも多く、大きく化けることにも期待が膨らむ。
そして、ホンダが従来行ってきたように、エンジン(PU)供給からスタートし、やがてはシャーシも自社製として、オールホンダでF1を戦うという流れにも期待してしまう。ホンダがホンダらしく感じるのは、やはりF1で戦う姿だからだ。












































