CXデザインとは?
はじめまして、リクルートテクノロジーズの間宮と申します。
リクルートグループのIT/ネットマーケティングテクノロジーの開発・提供を行っているリクルートテクノロジーズで、CXデザイングループのマネージャーをしております。
本連載では、CXデザイングループのメンバーがリレー形式で、事例を交えて、われわれが考えるCXデザインの概要を紹介していきます。なお、ここで書かせていただく内容は、個人的な見解や持論であるということを理解いただければ幸いです。
当社のCXデザイングループは顧客体験の向上を最大のミッションとし、「カスタマーにサービスを選んで頂く理由を創り、伝える」ことを主な業務として、2017年4月に立ち上がった組織です。
具体的な業務はサービスのブランディングからサイトなどのプロダクトデザイン、プロモーションなどのコミュニケーションデザインやコンテンツ開発など、多岐にわたります。特定のタッチポイントにとらわれず横断的に課題解決に当たるため、オンライン、オフラインを問わず各タッチポイントの全体最適化、つまりタッチポイント間の相乗効果を生み出すケイパビリティ(組織的能力)があることが特徴だと考えています。また、メンバーがマーケティングやUXに関わるテクノロジーの開発・研究も担っている、テクノロジストであるということも特徴です。
CXデザインというと、世の中では2つの起点から語られることが多いです。1つはCS(顧客満足度)経営の延長線であり、もう1つがUXデザインの延長線です。
前者は主に保険会社など、契約モデル(最近で言うところのサブスクリプションなど)が中心の企業で取り組まれており、顧客満足度よりもさらに上位概念であるNPS(推奨意向)などを目的に置き、顧客の離反率を抑えたり、契約期間を長くしたりすることを目的とした企業活動を指します。一方、後者は当社のようにUXの延長線として捉えているケースです。
どちらも顧客体験を向上するという意味では同じなのですが、前者はコールセンターなどカスタマーサポートを中心とする対策であるのに対し、後者はタッチポイント横断でのブランドマネジメントを含む体験設計を中心としているという点で必要なケイパビリティ が異なります。
当社では、UXとCXの定義を以下のように定めています。
- UI/UX:使い勝手の改善
- UX:単一プロダクトを対象にした体験設計
- CX:複数のプロダクト/人 (=複数のタッチポイント) を対象にした、サービス
CXデザインが求められる背景
ネットの世界では技術がフラット化し、ユーザビリティを含めたサービス機能が同質化しやすいという特徴があります。良い機能はすぐに取り込まれてしまうため、「どのように持続的に優位性を創っていくのか」はネットサービスにおける大きな課題です。
同質化が進んだサービスは、当然ながら集客においてパワーゲームに陥り、投資効率が悪くなっていきます。そのため、カスタマーにどのような体験を提供し、どのようなサービスへの知覚価値をストックするのか、といった顧客体験価値を模倣されづらいブランドエクイティへと昇華させることが、より重要になってきたのだと思います。
そして、それを成し遂げるために、カスタマーにどのような期待値を持ってもらい(期待値をどのように変え)、どのようにプロダクトでその期待に応えるのか(期待値を超えるのか)という一連のシナリオを設計し、それをオンライン、オフラインの垣根を越えて実現していくことが、競争優位の源泉として重要になってきているのだと考えています。
なぜCXデザイン組織を作ったのか
ここで、リクルートの組織の話を少ししましょう。リクルートでは専門性を高めていくためにネットサービスを取り扱う組織が切り出されています。私は前職で日用品や耐久消費財のマーケティングにも関わってきたのですが、ネットの世界ではさまざまな旧来型のマーケティングフレームが通用しなくなっています。
例えば、一般的には認知→興味→購入などのフレームに基づきファネル設計を行いますが、ネットサービスでは、はたして、「最初に認知を取る必要があるのか」ということが争点になります。認知しなくても自然とサービスに触れ、触れた後で認知するというシナリオも考えなければいけません。そのため、ネットにおけるマーケティングやプロダクト設計の専門性を高めていくような組織体系となっています。
上記のようにネット最適化と合わせて、各職能の専門性もより求められるようになり、職能もマスプロモーション、オフライン集客、オンライン集客、UXデザイナー、Web系アートディレクター、オフライン系のアートディレクター、webアナリスト、リサーチャーといった具合にオンライン、オフラインという軸と職能の軸でマトリクス化され職能が細分化されていきました。
このように、専門性を高め機能の細分化/複雑化せざるを得ない状況下だからこそ、各タッチポイントを横断して体験価値することの難易度が極めて高く、こうしたケイパビリティを保有すること自体が競争優位に結びつきやすくなっているのでないだろうか、と考えたのが組織を作った最も大きな理由です。
しかし、CXデザインの必要性、つまり顧客ロイヤルティなど短期的には目に見えない、かつ、中長期的にも可視化しづらい価値を数字で示すのは困難を極めました。
例えば、環境変化の不確実性が高まっている中、いつ自社サービスが危機的なリスクに直面してもおかしくありません。そのような中で、「たとえ機能劣位に陥っても、顧客ロイヤルティが高いほどサービスは対処できる猶予を獲得でき、完全にディスラプトされるリスクは軽減する」「指名検索やSEOの順位に依存しないCTRの底上げにより、安定的な集客基盤を構築でき、コンテンツアグリゲーターなどの集客面を抑えられる脅威に対しても有効である」ということを数字で示しながら、CXの価値を証明してきました。
しかし、机上の空論による説得はなかなか難しいため、まずは、そんな信念に共感してくれるサービスで実績を持って証明しようということになりました。それがカーセンサーでした。
カーセンサーは、中古車業界でおとり広告の撤廃や不透明な情報の是正など、業界の不に向き合い続けて成長してきた事業です。売上を落としてでも、業界の進歩のため、カスタマーのためにすべき事をしようという信念が事業DNAとして社員ひとりひとりに浸透しています。
カーセンサーでは、まずサービスとしてのあるべき姿、提供すべき価値を定めたブランド定義書を策定し、VISION実現に向けたCX起点でのKPI設計を行いました。そして、KPIを向上させるためのプロダクトロードマップ、コミュニケーションロードマップを策定し、プロダクトとコミュニケーションを連動させながら施策をリリースしています。
一方で、ネットサービスの特徴であるグロースハックの勢いは殺さず、日々サービス改善活動を行っています。3年間プロジェクトを推進する中で、この中長期施策と短期施策とのバランシングがサービスマネジメントの肝だと感じています。
効果の一端にはなりますが、これらの活動によりカーセンサーの指名検索数は3年間で約3倍まで増加しました。しかも、短期KPIもそれまで以上に伸長させ短期戦略と中長期戦略の両立を証明しました。
特筆すべきは、ブランドストック効果によりアクション指標はベースラインを押し上げながら伸長していることです。データサイエンスという点も当社のCXデザインの特徴で、回帰分析や決定木などの判別分析、共分散構造分析やグレンジャー因果性検定など様々な統計手法を使い分けながら意思決定を行っています。
今ではカーセンサーのみではなく、他のサービスでもCXプロジェクトが立ち上がるなど、リクルートでもCXデザインの重要性が注目をされつつあります。
テクノロジーを活用し、顧客に愛され、選ばれるサービスへ―― これが、われわれの目指すCXデザインの目指すべき目標であり、サービスデザイナーとしての活躍機会をリクルートにもっと増やしたい。これが私の想いでもあり、組織を立ち上げた理由です。では次回以降、志をともにするCXデザイナーと、その業務を紹介していきます。
著者プロフィール
間宮 浩平
株式会社リクルートテクノロジーズ ITマーケティング本部 サービスデザイン4部 CXデザイングループ マネジャー
大学卒業後、シンクタンクやマーケティングリサーチベンダーで経営およびマーケティングコンサルティング業務に従事。
2014年にリクルートテクノロジーズ入社。マクロからミクロまで分析業務をコアスキルとして、事業企画、マーケティング、UXなど幅広く業務担当を担う。
リクルートテクノロジーズでは2014年にアナリティクス組織を立ち上げた後、2017年にCXデザイングループを立ち上げ、リクルートグループ横断でCXデザイン業務やブランドマネジメント業務の高度化を推進している。