セイコーエプソンが大判インクジェットプリンタ新商品発表会を開催、従来機比3.8倍の高速印刷を実現したモデルや、サイン&ディスプレイ業界向けエコソルベントインク搭載製品などの新製品を発表した。

セイコーエプソンが10日に発表した大判インクジェットプリンタ

発表された製品を見ると、それはもう、同社が培ってきたモノづくりの粋を活かした集大成的なものとなっているのがわかる。同社独自のマイクロピエゾ技術をさらに昇華させ、新たなプリンティング領域を開拓するインクジェットイノベーションを起こすことが同社のもくろみだ。だが、重要なポイントはそこではない。

「印刷産業のデジタル化」を予測するエプソン

同社では約10年後の成長の方向性のひとつとして、特に、プロフェッショナルプリンティングの分野に注力する。そこを成長市場としてとらえ、印刷産業のデジタル化を促進するというのだ。つまり、サイネージやテキスタイル、ラベルといった領域だ。フォト・グラフィックスの領域が安定的に推移するのに対して、これらの分野は今もアナログ印刷が主流で、データから直接印刷するデジタル市場が順調に拡大していくと同社では予測している。

5年後、東京オリンピックが開催される。昨今の騒動でそれがどうなるのか、ちょっと心配になってはきているが、エプソンではその特需も十分に考えられるとしている。

その一方で、個人的には印刷物というメディアが5年後、10年後の社会の中で、まだ十分の活力を保てているのかどうかには、ちょっとした疑問も持っている。つまり、紙に印刷されたものが、その時点で今と同じような市民権を持っているのかどうか。電車の車両の社内吊り広告でさえデジタルサイネージになろうとしているのが今という時代だ。スマートフォンのスクリーンが消費者の手元にあり、街にデジタルサイネージを投影するモニタスクリーンがあふれている。

おそらくコスト的にも、そして、炎天下での視認性など、デバイスとしての特性も、今よりずっと優れたものが登場しているだろう。それらのデバイスに投影されるサイネージ等に対して、紙に印刷されたものが、いつまで優位性を保ち続けていられるか。

紙の印刷物は生き残るのか?

セイコーエプソンとしては、デジタルサイネージは、統合システム的なコストを勘案すると割高になる点や、紙のサイネージは絶対に残ると考えているそうだが、本当にそうなのかどうかが気になるところだ。

最終メディアが紙であろうが、モニタであろうが、その制作プロセスは大きく違わなくなってきている今、最後の砦を守るべく、紙への印刷にこだわり、それをビジネスの柱に据えようとしているセイコーエプソン。今回はちょっとした疑問符が頭に浮かんだ。でも、その行方に注目すればITの未来が見えてくるのだろう。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)