MWCでは、ソニーモバイルが次期フラグシップスマートフォンの「Xperia Z2」と10.1型スクリーンAndroidタブレット「Xperia Z2 Tablet」を発表した。冬のMWCと夏のIFAという周期の短いタイミングで積極的に市場を攻めるという公言を果たした結果だ。いずれも日本での発売は未定だが、おそらくは各キャリアの夏モデルとして発売されることが期待される。

ソニーモバイルコミニュケーションズの鈴木国正社長。Mobile World Congress(MWC) 2014でXperia Z2などXperiaの新製品を発表

多様化する市場のニーズと開発周期

Xperia Z2 Tabletについては非常に魅力的なデバイスに仕上がっている。10.1型スクリーンでありながら439g(LTE版、WiFi版は426g)という重量は、手にしてみると「軽っ」という言葉が出てしまうほどだ。iPad Airを初めて手にしたときにも同じような感想を持ったが、それよりもさらに1割弱軽いのだ。その薄さといい、これはもう、10型カテゴリのタブレットの概念を塗り替えてしまうといってもいいほどだ。世界最軽量の実績を、たった半年で自己更新してしまうのは、底力なのか、それともうがった味方をすれば戦略なのか。

その一方で、フラグシップスマホのZ2はどうかというと、正直なところZ1のユーザーが買い換えたいと思う製品にはなっていない。もちろん、あらゆる点でブラッシュアップはされているにせよ決定打に欠ける。初めてのXperiaとしては十分な魅力を持っているには違いないが、XperiaからXperiaへの買い換え対象としては食指をそそらない。Xperiaのユーザーは、半年しか使っていないデバイスを、まわりから、もったいないと言われようが気にせずに、新しいXperiaを手にしたとたん乗り換えを決意するようなタイプではないか。

ちなみに、Z2は先代のZ1から約半年、Z2 Tabletは先代のZ Tabletから約1年でのモデルチェンジだ。1年周期では多様化する市場のニーズを満たせないという戦略によるものだが、開発プロセスのことを考えると、やはり、相当無理があるようにも感じる。

1BMと×Peria

MWCの会期中にインタビューに応じた黒住吉郎氏(Vice President, Head of UX Product Planning、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社商品企画部門・UX商品企画部 統括部長)によれば、Oneソニーを象徴したZ1の後継をどうすればいいかを考えるのは本当にたいへんだったという。できのいい兄がいると弟はたいへんだという言い方で、その苦労を振り返る。

ソニーモバイルコミュニケーションズの黒住吉郎氏がインタビューに応じてくれた

Z1という原型があるのだから、それを踏襲し、同じフットプリントでスクリーンを大きく、そして美しくすることにチャレンジし、さらにカメラの強いZ1に4Kの要素を加える。さらに、オーディオ的にスピーカー出力が弱かった点を改善し、デジタルノイズキャンセリング機能を搭載した。そしてできあがったのがZ2だという(黒住氏)。

メジャーチェンジとマイナーチェンジを繰り返しながら昇華していくスタイルの開発プロセスであるとすれば、今回のZ2はマイナーチェンジとみられても仕方があるまい。しかも、今回のMWCは新興市場を視野にいれた低価格スマートフォンが大きな話題になっている。そのための魅力的な製品を投入できなければ、今後、この業界ではやっていけないと言われるくらいの状況だ。もちろん、その市場のために、Xperia M2が同時に発表されている。だが、インパクトに乏しく、かつてIBMが廉価版のThinkPadを出したときに1(数字の1)BMと陰口を叩かれたときのように、Xperiaではなく×(ペケ)periaという声がそのあたりから聞こえてきそうだ。

VAIOがあったからできたこと、できなかったこと

ソニーはスマホの市場でいったいどんな立ち位置を確保したいのか。アップルになりたいのか、それともサムスンなのかレノボなのか。そして、どの方向を目指せば彼らの願いがかなうのか。個人的には、彼ら自身は迷っているのではなく、見えていないんじゃないかとも思うのだ。

ご存じの通り、ソニーはPC事業としてのVAIOを捨てようとしているが、Xperiaがそれに続いてしまわないためには、どうすればいいのだろう。黒住氏自身も、今回のZ2までの製品は、VAIOがあるという前提で開発が進められたものであると吐露する。逆の言い方をすれば、VAIOがあるからXperiaでできなかったこともあるということだ。

彼らは、いろんなステージでいっしょに戦い、同じテクノロジーには同じ名称を使うなど、ブランドとしてのソニー、そして、そのサブブランドとしてのVAIO、Xperiaを大事にしてきた。

黒住氏は影響はあるだろうともいう。今の時点では、XperiaブランドでPCをやるかどうかもわからないともいう。だが、ありえないという話でもなかった。今はAndroidフォーカスが現実的であるとしながらも、将来については暗中模索の状態だ。黒住氏の胸の内はわからないが、すでに、いろいろな可能性を考えているにちがいない。

たぶん、Xperiaのブランドで、Windows PCが出てきたら、世の中は「ソニー、PC事業に再参入」といった大きな見出しで報じられることになるだろう。だが、そのころ、本当にPCは今のPCのカタチをしているのかどうか。あるとすれば、Xperiaが提示したい世界観に、どうしてもWindowsのフル機能とそれに見合ったIAプロセッサが必要だったという結果論に過ぎないんじゃないだろうか。

狭義のPC。つまり、パーソナルコンピューターではなく、Windowsがプリインストールされているような工業製品としてのPCのいいところは、世界中、どのベンダーのハードウェアを買っても、ほとんど同じ手順で使い始めることができて、操作性も統一されている点だ。そこを否定すると、PCがPCとして成り立たなくなってしまう。

ソニーの覚悟

VAIOを手放せば、Xperiaが迷い始めることはわかっていたはずで、それがXperiaがせっかく気づき始めていた方向性を散漫なものにしてしまう。Xperiaは、VAIOのように切り捨てられることに怯えながらビジネスを進めていくしかないのだろうか。

できる兄がいると弟は困る。確かにそうなんだろう。でも、兄がいたからこそ弟は自由でいられたということもあるかもしれない。それを奪われたXperiaの将来を、本当にソニー本体は考えていたのだろうか。