Microsoftはスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress2014(MWC)では、ブース出展等は行っていない。それでも、会場の片隅にはプレス向けのミーティングルームを設けて、さまざまなブリーフィングやミーティングを行うなど、モバイルシーンへのアプローチについては、あいかわらずやる気満々という印象だ。

Microsoftのプレスイベントの会場となったHotel Rey Juan Carlos I。壁面にはWindowsの大きな広告を掲げていた

そのMicrosoftが、MWC会場から少し離れたホテルで、プレスイベントを開催、WindowsとWindows Phoneに関するアップデートを行った。

すべてのデバイスでWindowsを

ここのところのMicrosoftがデバイス&サービスカンパニーへの変革を進めているのは周知の事実だが、そのための重要な役割を果たすのがWindowsであることにはかわりはない。共通のコアですべてのデバイスにWindowsを提供するというのが彼らのもくろみだ。

それによって、スマホ、タブレット、ラップトップ、デスクトップ、テレビ、ゲーム機まで、あらゆるデバイスを同じUXで快適に使えるようにする。そのために大きなコアチームが一丸となって作業を進めているのが今のMicrosoftであり、One Microsoftの所以だ。

米Microsoft Operating Systems部門 バイスプレジデント Joe Belfiore氏。すべてのデバイスにWindowsを提供すると語った

当然、それに欠かせないのがクラウドサービスだ。もはや、パーソナルコンピューターと呼ばれるデバイスは、机の上はもちろん、リビングのテーブル、キッチン、ポケットの中、バッグの中など、いろいろなところに設置され、収納され、ところかまわず取り出して使われる。そのときに求められるのは、スケーラブルなアプリケーションであり、それをシームレスにすることを支援するのがクラウドサービスだ。旧称SkyDriveがOneDriveに名称を変更した背景には、いろいろな事情があるようだが、それはそれ、ネーミング的には、うまく今の同社の姿勢を反映したものとなっている。

変わることと変えること

そのMicrosoftが、Windows 8.1をこの春アップデートする。ポイントは大きく次の3点となっている。

  1. ノンタッチ環境との整合性向上
  2. より多くのハードウェアオプション
  3. 教育、企業向けの最適化

細かい部分については4月頭に米・サンフランシスコで開催される開発者向けイベント Build 2014 をお楽しみにといったところだが、特に、1. のノンタッチ環境への適応というのが、実際、どの程度のものになるのかが気になるところだ。

それまでにも、どんなリークがあったのか、いろいろな情報が流通しているようだが、この日に明らかにされたのは、スタート画面にサーチ、パワー、セッティングに関するボタン等を設置し、さらに、新しくマウス用の右クリックUIを導入、また、アプリの起動やスイッチをデスクトップタスクバーでできるようにするというものだ。つまり、旧来のデスクトップLoverにそっぽを向かれないWindows 8.1をめざそうとしているようにみえる。

Windows 8.1のよさは、実際に使い込んでみないとなかなか実感できないだけに、食わずギライ、使わずギライにさせないように、いろんな配慮で和解案を提示しようということかもしれない。木に竹を接ぐしかなかった苦渋を知って欲しいということだ。

Windowsは、もはや、コモディティ的存在だといってもいい。変えたくても変えられないというジレンマの中で進化を続ける宿命を背負ってきた。そんな中でもIEに大きな変更を加えたり、Officeに新たなUIを導入するなど、野心的なチャレンジを続けてきた。そのたびに、保守的になりがちな旧来のユーザーからの非難の声に苦しむこともあったはずだ。

進化と退化の合わせ技

今回のWindows 8.1 Updateは、その詳細については蓋をあけてみないとなんともいえないが、表面的にはある種の後戻りであり、妥協であるともいえる。今回、アナウンスされたInternet Explorer 11にIE8コンパチブルモードを搭載するというのもその一環だ。こうした配慮は、切り捨てることによって前に進む一歩を小さなものにしてしまう可能性もあるだけに、大きな賭けだともいえる。

さらに、この先、1GB RAMや16GBストレージのサポートも予定されているという。Windows PCは、今後、低価格製品を中心に、ますますバリエーションに富んでいくことになりそうだ。

そして、今回のアナウンスの目玉は、Windows Phoneについて、Qalcommチップセットのサポートが加わったことだろう。Qualcommのリファレンスデザインをじめとする既存のAndroidハードウェアと完全な互換性が確保され、OEM各社は、より簡単にWindows Phoneが作れるようになる。しかも、ソフトウェアキーが認められ、必須だったカメラボタンもオプションになる。4GBストレージや512MB RAMなどの製品構成が可能になり、いわゆる低価格路線での製品展開を担保する。

OEMは急増するはずだとMicrosoftはいう。実際、新たなOEMが続々と参入しているともいう。デバイス&サービスカンパニーとなりたがっていたMicrosoftが、今、OEMこそが自分たちの本当に重要な顧客であることを再確認したかたちだ。

Windows 8.1のUpdateとハードウェア要件の緩和、Windows Phoneの新たな展開によって、2014年のWindowsシーンにはさまざまな変化が訪れるだろう。OEMがMicrosoftデバイスを作りやすくなり、そして、売りやすくなるということは、OEMのみならず、われわれエンドユーザーにとっても選択肢が増えるということでもあり、歓迎すべきことでもあるだろう。

もちろん懸念もある。Androidが悩んでいるような、環境のフラグメンテーションが、この先のエコシステムにどのような影響を与えるかも考える必要がある。そういう点でも大きな賭けなのだ。