大規模なイベント会場では、その来場者の携行する膨大な数のモバイルデバイスが想像を超えたトラフィックを発生させる。Wi-Fiは使いものにならないといった話もまことしやかにつぶやかれている。その状況を抜本的に解決する方法はないのだろうか。

イベント会場でのWi-Fi事情

世界最大のモバイル関連イベントといった枕詞で語られることが多いMobile World Congress(MWC)。当初はフランス・カンヌでGSM World Congress、3GSM World Congressとして開催されていたが、2007年からスペイン・バルセロナで開催されるようになり、この会場は2018年まで使われることが決定している。

世界最大といっても会場規模は98,000平方メートルで今年の来場者数は約8万人だったと報告されている。ざっくりいって東京ドーム2個分のスペースが満席になるイメージだと考えればいい。これは、米国イベントであればCESの半分の規模、日本のイベントなら幕張メッセでのCEATECより来場者数はずっと少ないし、会期中の人口密度も比べものにならないといえる。

その開幕前夜、会場を運営する組織から「Fira de Barcelona deploys one of the world's biggest Wi-Fi networks for the GSMA Mobile World Congress」という件名のメールが届いた。あまたのスマホ、タブレット、PC、ガジェット類がMWC期間中に快適なネットワークコネクションが得られるように、24,000平方メートルの展示スペースに12,000個のWi-Fiアクセスポイントを用意したというのだ。いってみれば畳一畳にアクセスポイント1個というイメージか。

Mobile World Congress(MWC) 2014の展示会場前

総延長14Kmの光ファイバーと52Kmのイーサネットケーブルが敷設され10Gbps分の帯域が確保されたらしい。ちなみに主催のGSMAによって、会場内での2.4GHz帯Wi-Fiアクセスポイントの利用は禁止されていたので、これらは5GHz帯を使っていた。

実際に、会場でのWi-Fiがうまく機能していたかというと、個人的な感想としては特に不満を感じなかった。混雑しているときには、いわゆるパケ詰まりのような状態に陥ることはあっても、接続しようとしたときにIPアドレスも割り当てられないといったことは経験しなかった。また、会期中には異なるキャリアのSIMを装着したスマホを2台携行していたが、圏外になるエリアでなければ、どちらのキャリアネットワークもそれなりに機能していた。結果として、会期中のモバイルネットワークは、それなりに実用域にあったといえるだろう。

会場全域をカバーするWi-Fi環境を用意していた

Wi-FiとLTEネットワーク

ご存じの通り、モバイルキャリアは今、増え続けるトラフィックを、Wi-Fiにオフロードすることに懸命だ。電波を電波にオフロードするわけで、有限の資源である電波を効率的に利用する方法とはいえない。

しかも移動体通信事業は免許を受けて運営されている。だが、Wi-Fiアクセスポイントの運営には免許はいらない。かくして、街中にはW-iFiアクセスポイントがあふれ、どうにも混乱した状況になっていることは否めない。

一定の空間にWi-Fiアクセスポイントが林立し、膨大な数のデバイスがそれらを利用しようとすると、さまざまな問題が起こる。Wi-Fiには、ネットワーク側からトラフィックをコントロールし、同じネットワークの別のアクセスポイントに再接続させるといったことができないからだ。

それに対して、LTEなどのネットワークでは、基地局間のオーバーラップによる干渉を回避したり、基地局のグルーピングや、その上位における基地局連携コントロールなどの仕組みが利用できる。広域で多数の基地局の扱う通信をまとめてサーバーが管理するセントラルスケジューリングといったインテリジェントな仕組みがあるのだ。

それなら余計に、Wi-Fiになどトラフィックを逃さずに、LTEでまかなえばいいと考えがちだが、それができないくらいにモバイルネットワークは逼迫した状態だということだ。

LTEの技術をWi-Fiで使う

それならWi-Fiの周波数でLTEを使えばいい。そう提案しているのがQualcommだ。モバイルデバイスのチップセットベンダーとしてトップシェアを誇る同社は、MWCの展示ブースで「LTE in Unlicensed」と呼ばれる技術のデモを行っていた。

Qualcommが「LTE in Unlicensed」の技術デモンストレーションを公開

文字通り、LTEの技術を免許なしで使えるWi-Fiの周波数帯で活用しようという提案だ。同じ周波数を使う既存Wi-Fiネットワークのことも考慮され、うまく機能すれば、両方のネットワークの効率を高めることができるという。今、既存テクノロジーのWi-Fiアクセスポイントを林立させているキャリアが、それらを「LTE in Unlicensed」に切り替えれば、状況は大きく改善されるというわけだ。

割り当てられた電波を使って事業を展開している移動体通信事業者が、パブリックで自由に使えるWi-Fiの領域を侵犯していることに対して、あまり、いい気持ちでは見ていなかった。それでもエンドユーザーは、通信量上限を気にしなければ帯域制限を受けるため、Wi-Fiにつなぐことができる場所ではそちらを使うようにしてきただろうし、SIM認証で自動的にWi-Fiに切り替えさせることで、そんなことをゆめゆめ意識もしていないカジュアルユーザも、キャリア御用達のWi-Fiを知らないうちに使っているといったことも当たり前になりつつある。

日常的にモバイルルータを持ち歩いているようなユーザーにとっては、これらWi-Fiの存在は邪魔なだけという気持ちもあるだろう。いってみれば素人の遊び場がプロに荒らされているような状態で、アマチュアロックバンドが微弱電波のワイヤレスマイクでライブをやっていたら、その同じ周波数を使って商用放送局が演歌番組を流し始めたくらいのインパクトともいえる。

有限の資源としての電波を秩序正しく使うために

繰り返すが電波は有限の資源だ。だからこそ、誰もが勝手に使えば、大混乱に陥ってしまう。そこに秩序を加味することができるのがテクノロジーでもある。この先、まだまだモバイルのトラフィックは増え続けるだろう。それらが破綻する前に何とかしなければ、コンシューマーの通信コストは高止まりどころか、もっと高いものになってしまうかもしれない。昨今言われているような、MNPによる高額キャッシュバックの問題など、キャリアが抱える問題は山積みだ。誰もが納得できる健全なビジネスをテクノロジーで解決していくという当たり前のことに努力をすることをキャリアに望みたい。