ソフトバンクは、ライカが全面的に監修したスマホ「Leitz Phone 1(ライツフォン ワン)」を7月以降に独占販売すると発表した。すでに予約受付も開始されている。1インチのイメージセンサーを搭載したスマホで、製造はシャープが担当するという。

  • ライカが全面監修したというLeitz Phone 1(ライツフォン ワン)。ソフトバンクから7月下旬、187,920円で登場予定だ

    ライカが全面監修したというLeitz Phone 1(ライツフォン ワン)。ソフトバンクから7月下旬、187,920円で登場予定だ
    [撮影:小山安博]

スマホはカメラ機能が重視されてきた

シャープはシャープで、同様にライカが監修したスマホ「AQUOS R6」を発表済みだ。こちらもすでに予約の受付をスタート、「Leitz Phone 1」より早い6月25日にドコモが発売を予定しているほか、ソフトバンクからも発売されることになっている。

「ライカが監修」というのと、「ライカが全面的に監修」というのとの違いについて、その詳細はまだよくわからない。少なくとも工業デザイン的には外観が異なるボディなので、仮に中身がまったく同じだったとしても違う製品ともいえる。

  • こちらはAQUOS R6(ドコモ版)。6月25日に、ドコモが115,632円で販売する

日本の場合、スマホハードウェアの開発や製造を、たとえハードウェアベンダー各社が担っていたとしても、キャリアが開発元を名乗るのがこれまでの慣習だ。キャリアにとってスマホメーカーは協力企業のひとつにすぎないという位置づけだ。

そういう意味では、名目上としても、モノとしてのスマホを自らは作らないスマホベンダーがひとつ誕生したと断言するのは難しい。

ライカの無茶振りにシャープが応える

この数年間、スマホの発表に立ち会うたびに、あまりにもカメラ機能ばかりが大きく取り上げられてアピールされ、通信のことにはほとんどふれられず、スマホの発表会なのか、カメラの発表なのかよくわからないような状況が続いていた。スマホは電話機であり、コンピューターでもあるのにだ。

そのくらいカメラ機能が重視されてきたということでもあるし、それが時代のニーズでもあった。もっとも、電話機としてのスマホがコンピューターとしてのスマホをアピールするようになったのと同じ理屈とも考えられる。

フィルムカメラの時代、カメラはそれがどんなに優れた製品であったとしても、レンズとフィルムが同じなら、カメラボディが違っても同じ写真が撮れた。でも、デジタルの時代、そこが変わった。フィルムの時代は光学系と機構系、そしてフィルムが分業され、エンドユーザーはそれを選んだ。デジタルカメラの時代になって、光の入り口から出口までのすべてをカメラがまかなうようになってきたからだ。

とはいえ、スマホメーカーのすべてがイメージセンサーのメーカーであるわけではないのはデジタルカメラと同様だし、画像処理に長けているわけでもない。いわゆるスマートデバイスの多くと同様に、さまざまなメーカーの叡智が集結してエンドユーザー製品に仕上がっている。そこにライカの意向が強く反映されたのが今回の製品だと考えるのが妥当だろう。シャープの製品については、写真という面だけに絞ってライカの意向(いや、威光かもしれない)を仰いだ結果、「全面監修」とはならなかったと想像できる。

シャープ「AQUOS R6」の発表時には、開発に携わった技術陣の話も聞くことができた。協業スタート時にはライカの無茶振りに驚いたが、次第に納得できるようになり、ものすごく勉強になったという話だった。ここまでやるかという驚きの連続だったともいう。百戦錬磨でスマホを作ってきたシャープ、2000年に「写メール」をスマホ写真の代名詞にしてしまったJ-SH04ほどの影響力のある製品を作ったメーカーがこういう。彼らにとってみれば、本歌取りにあったようなものではないのか。

  • 中央がシャープ初のカメラ付きケータイ「J-SH04」。写真を撮って保存したり、メールで送信したりできるなど、エポックメイキングな機種だった

スマホが「カメラの付加価値」になる日

あれから20年余、オスカー・バルナック(ライカの開発者)が映画用フィルムを使う小型カメラを試作したのが1912年のことだから100年を超える歴史があるわけで、写真のことはライカのいうことをとにかくきくというスタンスでの製品企画は「監修」という呼び方のにふさわしいものだったのだろう。

ライカは古くはミノルタ、昨今ではパナソニックやファーウェイとの協業が知られているが、今回はシャープとの協業だ。シャープは2019年頃からライカとの協業を目指して水面下で交渉を続けてきたそうだ。その製品をさらにライカ色の強いものにしたのがソフトバンクの迅速な企画力なのだろう。

結果として、今、スマホはカメラの付加価値となったようにも見える。下剋上といってもいいかもしれない。かつては明らかにカメラは携帯電話の付加価値だった。数年前からその気配はあったものの、今回のライカスマホでは、明らかに主従が逆転している。

ただ、すでにコモディティ化しているカメラのテクノロジーは、スマホのテクノロジーよりも寿命が長い。カメラとしてはまだまだ現役で使えるのに、コンピューターとしてのスマホの能力が物足りなくなる日が先にやってくる。その部分をどう考えるかだ。

今風のスマホでは珍しいともいえる焦点距離19ミリ相当の単焦点レンズで、ズームなどという野暮なものはなしという割り切りには哲学のようなムードさえ感じられる。その世界観がどのような受け取られ方をするのかは、今後のスマホのあり方に大きな影響を与えることになるだろう。個人的には、こうしたデジカメ、もといスマホが、回線契約などとは関係なく、まさに普通に、そして平等に購入できるようになってほしいと思う。