調査会社のガートナーが、2020年11月17~19日にバーチャルで開催する「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」において紹介される、「すべてをリセットする」上でのテクノロジーの役割について見解を解説した。9月に米国で開催された「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」において発表された戦略的展望だが、そのトップ10が列挙されている。
挙げられた中に、興味深い項目が2つある。
2025年までに、物理的なエクスペリエンスをベースとしたビジネスの40%は、有償の仮想エクスペリエンスを広く取り入れることで業績を改善し、競合他社を上回るパフォーマンスを挙げる。
2025年までに、世界の製品や農産物の20%以上は、顧客が実際に手に取るまで人間に触れられることはなくなる。
世の中のデジタルトランスフォーメーションが進む中で、あとわずか5年で大きな変化を体験することになるというのだ。
京都や奈良の名所をVRで巡る修学旅行
先日、テレビのニュースで、コロナ禍の影響で修学旅行ができなくなった中学生たちが、バーチャル修学旅行を楽しんだという映像を見た。教室に用意されたゴーグルをスマホに接続し、京都や奈良の名所を疑似体験するというもので、それなりに盛り上がっている映像が流れていた。JTBが提供するリアル×VR 新感覚体験型旅行「バーチャル修学旅行360」によるもので、かけがえのない思い出作りや学びの機会を創出するプログラムだ。
また、自動化のテクノロジーが今回のコロナ禍によって大きく推進され、エンドユーザーが最初に製品または生産品にふれる人間となるとガートナーでは予測している。これもまた、現実になりそうな事象だ。
世の中には、絶対にデジタル化が無理な領域があると信じている人もいる。修学旅行の例は、本当にそれでいいのかという印象も強いのだが、実際に体験している子どもたちの表情は楽しげだった。デジタルネイティブな年代には、その枠組みの中で、十二分に楽しみを見出す力があるのかもしれない。その一方で、旅先で、リアルな修学旅行を体験している中高生を見かけると、それもまたやはり楽しそうだ。どちらが優れているというわけではない。
実質観光、実質グルメ、実質授業
巷では「実質××」という言い方をよく見かける。たとえばかつての携帯電話端末は「実質ゼロ円」で売られてきたりした。
今、デジタルの世界で起こっている仮想化のトレンドは、この「実質××」に近い。実質的なコンピューターなら仮想マシン、実質的なデスクトップが仮想デスクトップといった具合だ。これを当てはめると、「実質観光」、「実質グルメ」、「実質授業」といったところか。それを仮想現実や拡張現実とすると話がややこしくなる。
だが、仮想化の過程ではどうしても欠けているものが出てくる。それを最小限にするか、それを補って余りあるほど豊かな体験を提供することができない限り、「実質××」とはならない。
自分自身の修学旅行体験を思い出してみても、京都・奈良の寺社仏閣を訪ねてバスガイドさんから説明してもらった史実などはまるで記憶になく、鹿に追いかけられたとか、大仏の巨大さに驚愕したとか、大広間で枕投げとか、そんなことばかりが思い出される。あれを超える体験を、どうすれば実質的な体験として提供できるのか。それをこれから周到に考えていかなければならない。
デジタルならではの体験とは何か
デジタル化はアナログをデジタルにトランスフォーメーションすることだけではない。変換すれば必ず劣化する面が生じる。
だからこそ、デジタルにしかできない付加価値を創出することが大事なポイントだ。アナログではできないこともデジタルならできるかもしれない。枕投げはできなくても、自宅のベッドに寝転びながら、夜通し話し続けても先生に怒られることはない。デジタルならではの体験とは何なのか。
少なくとも、コンピューターのスクリーンは、社会を見るまなざしのために、今後、ますます重要な役割を果たすようになるだろう。まずは、6畳間に100型など、これまでの当たり前では考えられなかったほど高精細で大きな画面が求められるようになると思っているが、さて、どうなりますか。