パソコン周辺機器大手のアイ・オー・データ機器が本社ビルの一室を改装し、動画配信のスタジオを開設した。従来は従業員の休憩ラウンジスペースとして利用されていた部屋をスタジオに改装したという。

  • アイ・オー・データ機器は、動画配信専用のスタジオを社内に開設した

同社は、自社製品を中心に配信機材を整え、今後、製品の使い方に関するハウツー動画を制作したり、YouTubeライブなどの配信サービスを活用することで、同社情報の発信によるプロモーションや営業支援活動を行っていく。このスタジオは、同社のプロモーション活動の拠点であると同時に、同社製品をフル活用するためのショールームとしても機能する。

伝わるコンテンツ、伝わらないコンテンツ

コロナ禍のもと、オンラインで開催される会議が増えた。さらに、かつてはリアルで行われてきたイベントなどもオンラインに移行している。そこで明確になってきているのが、オンラインコンテンツを作る姿勢の違いだ。

主催者によってコンテンツの品質はまるで違う。手作り感あふれるイベントといえば聞こえはいいが、音は途切れ、カメラワークもたどたどしく、さらには進行についても不手際が目立つイベントは、そこで紹介される製品やサービスがどんなに素晴らしかったとしても、そのことが伝わりにくい。

アップルやGoogleなど、海外ベンダーのオンラインイベントを見ると、そのあたりはさすがにうまくまとまっている。30分未満といったコンパクトな時間での配信で、あらかじめ周到に用意されたビデオ素材を組み合わせ、巧妙な演出で製品の魅力を伝えようとしている。

画質も良好だし、それにあわせて奏でられる音楽などの効果も抜群だ。まるで良質なドキュメンタリーやバラエティ番組を見ているような錯覚に陥ってしまう。そこから本質にたどりつくのがジャーナリストの仕事だが、彼らが作るコンテンツには相当のアドバンテージがあるのは確かだ。

意外と高い動画配信のハードル

アイ・オー・データ機器によれば、2020年になって同社のHDMIキャプチャー商品の出荷数が急速に加速したという。5月はいったん落ち込んだが、これは売れすぎで欠品を起こしてしまった結果だ。

ここでHDMIキャプチャーって何だという疑問が起こるかもしれない。これはHDMIで映像出力ができる機器の映像をパソコンに取り込むためのデバイスだ。それを使って各種カメラやパソコン、AV機器等の映像を取り込んでオンラインコンテンツを作ることができる。それがどうして売れているのかわからない人は少なくないだろう。

つまり、オンラインイベントの質を向上させたい気持ちはあっても、そもそも何を揃えたらいいのかわからないし、小規模なイベントごとに、その都度、機材をセットアップするのが難しかったり、慣れないことからコンテンツをどう作ればいいのか、そのコツがわからないといった声があるとアイ・オー・データ機器はいう。だからこそ、同社自身の手でスタジオを作り、そこでコンテンツを作り、そこで得られたノウハウを還元したいということだ。

  • 自社のスタジオでコンテンツを作り、そこで得られた動画配信のノウハウを還元したいという

見えない部分の準備が活きる

このスタジオの構築にあたり、アイ・オー・データ機器では「プロ仕様になりすぎない環境」をめざしたという。

テレビでニュースショーなどを見ればわかるが、見えている部分は立派に見えるが、実際にはオフィスの片隅にスペースを確保しただけのものは少なくない。どんな場所にもスタジオは作れるのだ。映像コンテンツは見えているところだけが勝負で、見えない部分、見えてはならない部分は見ている側に関係ないし、存在しないのと同義だ。

数多くのオンラインイベントに参加するわれわれにとっても、それらの質が向上することは歓迎したい。そもそも、質の高いオンラインイベントには、よどみない進行とわかりやすいスピーチが不可欠だ。これは決してプロのアナウンサーやタレントを呼んで構成すればよいというわけではない。本番前の周到な準備、スピーカーのトレーニング、そしてリハーサルなど地味な部分での成果が本番にあらわれる。その努力は目には見えないが、コンテンツの説得力を高める。

  • iPadと連動し、PC不要で配信できるストリーミングBOXも活用

動画は「いかに高品質か」が新しい当たり前

個人的には、わかりやすく伝えるためには、イベントコンテンツはライブである必要はないと思う。ライブは始まったら終わる。だからある意味でカンタンだ。でも、途中の失敗をなかったことにはできない。だからその完成度を高めるのはたいへんだ。

録画コンテンツなら、失敗は編集でリカバリーできるし、やり直しもきく。その代わり、制作に時間がかかるし、質の高いパッケージにするにはライブ以上の時間を要するだろう。でも、受け手はその方が内容をしっかりと把握できる。質疑応答などが必要なら、録画コンテンツを配信したあとに、別セッションをライブで開催すればいい。

増える一方のオンラインイベント、やればいいという時代から、いかに高品質なものを届けるかという新しい当たり前が問われているようだ。