夏休みも中盤を迎えた猛暑の休日の午後、PCN(プログラミングクラブネットワーク)山形米沢(ボランティア・サークル活動PCNの米沢支部)の主催による「こどもパソコンIchigoJamで電子工作ワークショップ」が米沢市内で開催された。

  • こどもパソコンIchigoJamで電子工作ワークショップ

    「こどもパソコンIchigoJamで電子工作ワークショップ」が開催された

10行のプログラムでクルマが走る

米沢は、NECパーソナルコンピュータのお膝元としても知られる。PCNは「すべてのこどもたちにプログラミングの機会を提供する」を理念におくサークル活動として、様々な教材やコンピュータを活用してこどもたちにプログラミングを体験する場を提供、ICTリテラシーの向上を図るとともにものづくりへの関心を高め、地域人材の育成に寄与するべく活動を続けている。

この日のワークショップには、近隣から上は6年生、下は3年生まで小学生の親子10組が参加、IchigoJamでクルマを走らせるプログラミングにチャレンジした。女の子の姿が目立つのも興味深かった。中学生、高校生対象となると男子が多くなるそうだが、小学生対象のセミナーでは女の子の比率が高まるそうだ。

最終的に入力するプログラムは10行に満たない簡単なもので、障害物をセンサーが検知したらクルマがストップし、バックに切り替え、片輪のみを回転させて方向を変え、再び走り出すというものだ。

  • IchigoJamでプログラムを組んでいく

参加したこどもたちは、まず、身の回りにコンピュータがとてもたくさんあることを教わる。暑い夏に快適な室温を保つエアコンもコンピュータで動いていることを、こどもたちは知っている。

そして、プログラミングってなんだろうという疑問に対して、コンピュータにわかる言葉で話をすることだと理解し、コンピュータはともだちだと認識。この「ともだち」と実際に話をしようということで、むき出し基板のボードコンピュータであるIchigoJamのスイッチをオンにし、テレビやキーボード、電源をつないで対話を始める。

おもむろにHELLOと入れてみる。エンターキーを押すと、「syntax error」。当たり前だ。これで、コンピュータと話すときにはコンピュータのわかる言葉で話さないとダメだということを知る。

最初はLEDの点灯をプログラミングしてみる。プログラミングで点いたり消えたりするLED、5,000回点滅させるにはどうすればいいか。同じコマンドラインを5,000行書けばいいのだが、「goto」を使って繰り返させればよい。夏休みが終わってしまうような5,000行のプログラムが2行で終わる。コンピュータは繰り返しが得意ということがわかるのだ。

いよいよクルマを作ってみようということで、モーターを動かすためにサブボードのMapleSugarと合体させ、プログラムでモーターを動かしてみる。回転、逆回転をプログラムで制御する。

さらに目の役割をするセンサーを接続、手をかざして距離によってセンサーからの戻り値が違うことを確認し、ある程度手が近づいたら音を鳴らすようにプログラミングする……。といった具合にクルマを自動運転するプログラムとハードウェアができあがっていく。

  • 実際に動かす2輪のクルマ。必要な設定を終わらせたら……

  • 実際に走らせてみる

  • うまく進むよう“カイゼン”も

ITスキルは「そろばん」と同じ基本スキル

今、将来の日本のための重要なテーマとして、地方創生が掲げられることが多い。このワークショップのような試みは、実は、10年後、20年後の未来のための投資に近いものがある。

PCN山形米沢代表の小俣伸二氏は「われわれの世代がこんな日本にしてしまったことの贖罪のようなものかもしれません」と。「最低限必要なICTリテラシーと、ものづくりの基本スキルを、かつての“そろばん”のようにすべてのこどもたちが身に付け、誰でも自分で地域の課題解決策を具現化できるような、地域人材の育成に寄与することができればと思っています」(小俣氏)。

小学生のうちからプログラミングや電子工作といったテクノロジーに触れさせることで、将来の起業を目指すように仕向けるといっては大げさかもしれないが、今のこどもたちを取り巻く状況を考えるとうなずける話でもある。

というのも、中学生や高校生になってから、理系のテクノロジーに興味を持ったとしても、受験のことを考えるともはや軌道修正は不可能で、こども自身も自分の適性や興味を自分自身で制限してしまう傾向にある。だからこそ、小学生の早いうちに、いろいろな経験をさせることで、潜在的に自分自身の中にある気持ちを確認させる必要があるというわけだ。

3時間程度のプログラミングワークショップでも、自分で作ったプログラムがクルマを動かし、ちょっと修正するだけで、走りの振る舞いが変わるということを体験できる。デジタルネイティブ世代が、ゲームなどでコンピュータに慣れ親しむのとは、またちょっと違う新鮮な体験だろう。理想的には、こうした体験をしたこどもたちが、将来、地方在住のまま起業してビジネスを成功させてほしいと小俣氏はいう。まさに壮大な青田買いである。

こどもたちにとっては、画面ですべてが完結するプログラミングよりも、簡単なものであっても光や音、回転といったハードウェアの要素がプログラミングで思い通りになることがおもしろく感じられるようだ。確かに日本のものづくりにも通じるものがある。知恵と工夫で新しいチャレンジが生まれ、それがこれからの日本を背負っていく。今の小学生も、あと10年すれば大人になる。10年は長いようで短い。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)