アナログも無事(?)停波して、このコラムの読者はすでにテレビは買い替えられていることだろう。しかし、テレビ周りの機器はどうだろうか? もちろん、多くの方がBD+HDDレコーダーをチョイスしたことだろう。しかし、ずいぶんと迷ったのではないだろうか。あるいは、いまだに迷っているという人も多いのではないか。その悩みの最大の理由は、「ブルーレイディスク(BD)が思ったほど普及している感じがしない」ということにあるだろう。いったいBDは普及しているのだろうか? そして、今後普及するのだろうか。

「BDは普及するか?」という問いに答えるとしたら、「間違いなく普及する。すでにほぼ普及している」といって間違いないと思う。いずれDVDは自然減少し、BDの時代になることに異論をはさむ人はいないだろう。ビデオテープからDVDの時代になったように、DVDからBDの時代になるのは間違いのないことだ。しかし、だれもが感じているのが、いまひとつ普及の勢いが感じられないことだ。

確かに数字的には、BD再生機器は順調に普及している。特にこのアナログ停波直前の7月の出荷実績は、前年同月比の221.8%と好調なセールスを記録した。それでも、感覚的には勢いが感じられないのだ。

実際の出荷台数のグラフを見てみよう。これは電子情報技術産業協会(JEITA)が発表しているDVD再生機器とBD再生機器の出荷実績をグラフにしたものだ。1年ごとにピークがでているのが一目で分かるだろう。このピークは年末にやってくる。冬のボーナス商戦だ。ほとんどの商品は、夏のボーナス商戦と冬のボーナス商戦の時期に売れ行きが伸びるが、家電製品は年末に特によく売れる。夏のボーナスは、旅行などの外向き消費に使われる傾向があるが、冬のボーナスは家電製品などの内向き消費に使われる傾向があるからだ。

DVDはこの法則通り、毎年末にピークが現れ、しかもそのピークが年々高くなっていた。そして2004年年末に最高の売れ行きを示したあと、ゆるやかに下降し始める。家庭用DVDプレイヤーの発売は1996年から始まっていて、2001年年末にはVTR販売台数を抜いた。つまり、発売後4年でレガシー規格を抜き、7年後にピークを迎えている。一方で、家庭用BDプレイヤーの発売は2003年4月。DVDを抜くのが2009年末だから5年後で1年遅れ、ピークを迎えるのが7年後だとすると2010年末でなくてはならず、確かに過去最高の売れ行きを示したものの、規模はDVDのピークにはるかに及ばない。

今年の7月は、アナログ停波直前ということもあって、過去にないセールスチャンスになるはずだった。これも確かに需要は大きかったものの、昨年末の売れ行きにも及ばず、単に今年の末の需要を先食いしただけのようにも見える。

つまり、BD機器の売れ行きは決して悪くないし、順調に普及は進んでいるものの、DVDのときのような爆発力が見られないのだ。DVDの際は「テープからディスクへ」という外観上の変化が大きく、利便性も大きく改善されたことで、世の中がDVD時代になったという変化を誰もがはっきりと感じることができた。いちばんわかりやすいのは、レンタルビデオ店でDVDのレンタルが始まってしばらくした頃に、DVDが前面にズラリと並び、テープが片隅に追いやられたという光景だ。

しかし、BDはいまだにレンタルビデオ店で主役になりきれていない。確かに目立つところにBDの青いジャケットがずらりと並んではいるものの、まだまだ旧作はほとんどがDVDだ。BD作品でもDVDとのハイブリッド形式のパッケージになっているものが多い。

もっともよくわかるのが、セルビデオの品揃えだろう。amazonで「DVD」のコーナーを見ると、DVDは459,969作品が販売されているが、BDは10,141作品にすぎない。全体の2%程度なのだ。この傾向がもっとよくわかるのがアダルトビデオだ。一般の映画やドラマなどは、販売会社などが「BDを普及させる」という意図をもって、当初は無理にでもBD作品を発売する傾向がある。しかしアダルトビデオの世界は、売れるか売れないかの勝負がシビアな世界なので、売れないものは発売しない。逆に売れるものは発売する。このような規格の普及を見るには、非常にわかりやすいバローメーターとなるのだ。amazonで「アダルト」の品揃えを見てみると、DVDは163,819作品だがBDは724作品にすぎない。0.4%でしかないのだ。

これを、「BDは普及している」と見るか、「普及が危ぶまれている」と見るか……。専門家の間では両方の意見が共存しているようだ。しかし、「ディスクメディアとしてBDが普及をすること」は間違いないという点では一致している。しかし、「ディスクメディアが映像供給源として主要なものであり続けるか」という風に問いを変えると、意見は急に割れてしまう。つまり、ネット配信に移行することも考えられるし、たとえばUSBメモリやメモリーカードのような小さなメディアで配信されることも考えられる。

だとしたら、テレビにいちばん適した周辺機器は、BDレコーダーではなくなるかもしれない。では、どんな姿になるのだろうか。今、買うのであればBDレコーダーが正解かもしれないが、2年後に買うのだったら実は別の機器が正解になっているかもしれない。 この問題を次回も考えてみよう。

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JEITAの統計資料を元に作成したDVD機器、BD機器の国内出荷台数の推移(単位は千台。青色の線がDVD機器、緑色の線がBD機器)。BDの立ち上がりは決して悪くない順調なものだが、DVDのときのような爆発力はまだ感じられない