地デジ化で、テレビが大きくなったり、画面がきれいになったりするのはうれしいことだが、約1億台のアナログテレビが2005年から2012年にかけて廃棄されることも忘れてはいけない。家電リサイクル法により、テレビは完全リサイクルされなければいけないのだから、普通のゴミのように燃やしてしまうとか、粉砕して埋め立てに使うというわけにはいかない。いったいリサイクル処理は間に合うのか。電子情報技術産業協会(JEITA)は総務省情報通信審議会に「2011年の排出量予測は1300万台。一方でリサイクル処理の最大能力は1700万台。問題なし」という内容の報告書を提出した。しかし、その内容にいくつか疑問があるという話を前回した。今回は、私個人で推測値を計算してみたい。そのプロセスを細かくお伝えするので、みなさんもいっしょに計算してみたいだきたい。

JEITAの計算は、前回示したが、簡単に復習しておこう。2011年時点でアナログテレビは2741万台が家庭内に残る。このうちデジタルチューナーに接続される423万台は排出されない。また、ケーブルテレビ用デジタルSTBとデジタルレコーダーの累積普及台数(現在までに売れた総数)の半数はアナログテレビに接続される。これも排出されない(この前提に納得がいかないと前回触れた)。これらを引き算すると、排出されるアナログテレビは616万台。このうち6割の370万台が11年に、4割の246万台が12年に排出される(ここもちょっと異論あり)。結局、買い替えによる排出1177万台と合わせて、2011年には1550万台程度が排出されることになる。メーカーリサイクル率は85%程度なので、メーカーが処理する分は1300万台。メーカーのリサイクル処理能力は850万台だが、2交代制にしてフル稼働することで倍の1700万台までは処理できる。だから問題ないという理屈だ。

まず納得がいかないのが、「STBとレコーダーの累積普及台数の半数がアナログテレビに接続される」という推測だ。なぜなら、普通は、デジタルテレビに買い替えたから、ケーブルテレビをデジタルSTBにし、デジタルレコーダーを購入するだろう。もちろん、アナログ停波直前になって「テレビはまだ使えるので買い替えたくはない。しかし、停波で観れなくなってしまうので、とりあえずケーブルテレビをデジタルに切り替える、レコーダーをデジタルに買い替えて、それをアナログテレビで視聴する。テレビの買い替えは後でじっくりと考える」という人も出てくるかもしれない。であるなら"累積"普及台数の半数ではなく、"2011年"普及台数の半数で計算すべきではないだろうか。昨年、一昨年レコーダーを購入した人で、アナログテレビに接続している人は、いないわけではないが、極めて少数だと思われる。正確な数値はわからないが、感覚的には10%以下だろう。

JEITA自身が公表している「日本の地上デジタルテレビ放送用受信機器の需要動向」(2010年2月)によると、2011年のSTB需要は153.8万台、レコーダー需要は485.1万台である。このうちの半数がアナログテレビで使うと仮定すると(実際は半分以下だと思うが)、319.45万台のアナログテレビが排出されずに活用されることになる。

ここまでを計算してみよう。2011年にアナログテレビは2741万台が残っている。そのうちデジタルチューナーに接続されるのが423万台。残りは2318万台。このうち320万台がSTB、レコーダーに接続される。残りは1998万台。

JEITAはこの後「6割が11年に、4割が12年に排出される」と仮定しているが、この仮定も少し納得がいかない。なぜなら、この1998万台は使い道のないテレビだからだ。だれだって早いところ捨ててしまいたいだろう。ただし、買い替えもしないテレビなので、すぐにそのスペースを新しいテレビ用に空けたいというわけでもない。にしても、11年中に6割の人しか捨てないだろうか。4割の人は1年以上、そのまま放置しておくのだろうか。納得はいかないが、人の行動であるだけに反論のしようもない。そこで、ここではJEITAの推測通り、6割が11年に廃棄すると仮定してみよう。すると、11年に廃棄されるテレビは、1998万台の6割=1200万台となる。

そして、もともと11年には買い替えによるテレビの排出が1177万台ある。合計で、11年のテレビ排出量はなんと2377万台になってしまうのだ。JEITAは「メーカーのリサイクル率は85%だから」という理由で、さらに0.85を掛けて数値を計算している。この数値にも納得がいかないが(家電リサイクル法が遵守されていれば100%でなければおかしいからだ)、この実績数値をそのまま使ってみよう。2377万台×85%=2020万台が、私の計算した2011年に排出されるテレビゴミの台数だ。

JEITAの試算によると、メーカーリサイクルの現在の処理能力は850万台だが、2交代制フル稼働することで、倍の1700万台まで処理できるとしている。しかし、それでも私が計算してみた2020万台はどうやっても処理ができないのだ。もちろん、設備投資をして処理能力を拡張すれば可能だ。しかし、テレビリサイクル量は11年がピークで、12年からはどんどん減少していく。減少していくことが明らかなのに、メーカーは莫大な設備投資をする決定をできるだろうか。

さらに問題なのは、リサイクルに回されない15%分だ。JEITAの推測値では232万台だが、私の推測では356万台となる。2009年にリサイクルに回されなかったテレビは177万台程度と推測され、11年には2倍になってしまうのだ。このリサイクルに回されなかったというのは、修繕して中古品として販売されるものがほとんどで、09年であれば国内でも価格によっては売れるだろうが、11年にはアナログテレビはまったく売れないと考えるのが常識だ。海外向けに改造して販売することもできるが、それも量は限られる。数万台規模の不法投棄問題が起こるのは確実である。

このような数値をみなさんはどう見るだろうか。もちろん、今の段階で、JEITAが正しい、私が正しいと議論をしてもあまり意味のないことだ。将来のことなど、だれにもわからないのだから。しかし、計算する過程をよく見比べていただければ、どちらが納得のいく計算かは、みなさんご自身で判断できるのではないだろうか。

しかし、11年、12年になってみると、きっと実績数値はJEITAの予測に近い数値で推移し、私の2020万台が排出されるといった事態は、まず起こらないと思う。なぜなら、その頃には捨てる方法そのものがなくなってしまうからだ。現在は、新しいテレビを購入すれば、販売店が古いテレビを引き取ってくれるし、「もう1台いらないテレビがあるんだけど」と相談すれば「じゃあついでに引き取りますよ」と引き取ってくれるケースも多い。もちろん、この場合もリサイクル料金と運搬費用は消費者負担だが、運搬費用は無料、リサイクル料金分は本体価格を値引きしますなどというサービスを行っている販売店もある。しかし、11年には買替排出の1177万台のみでも現在のリサイクル能力850万台を越えてしまう。販売店やリサイクル工場のストックヤードに一時保管することになるが、すぐにいっぱいになってしまうだろう。すると、販売店は買替はともかく、単なる排出に関しては引き取らなくなってくる可能性がある。販売店としては、買い替えによる排出は絶対に断れない。そんなことをしたら「じゃあ、別の店で新しいテレビは買うよ」と言われてしまうからで、こちらは最優先だ。しかし、買い替えなしの単なる排出は、その商品そのものを販売した販売店に引き取りの義務がある。言い換えれば、よその店で販売したテレビの引き取り義務はないのだ。販売店にしてみれば、自分のところでテレビを買ってくれるならともかく、よその店のテレビまで引き受けたくはないだろうし、引き受けるならコストをきちんと請求するだろう。大型テレビなら、人を2人は派遣しないと搬出ができない。運搬費を5000円もらっても赤字なのではないだろうか。

自分のところで販売したものには引き取りの義務があるが、その場合は領収書か保証書で確かにその販売店で購入したことを証明してほしいということになるだろう。あなたは、10年前に買ったテレビの領収書や保証書を保存しているだろうか。また、購入した店が遠方である、あるいはすでになくなってしまったという例もある。販売店に引き取ってもらえない場合は、自治体に相談し、引き取りをしてもらうか、指定するセンターまで自分で持ち込むことになるが、どの自治体も「原則は販売店で」ということになっており、回収枠に制限を設けていることも多い。11年には、連絡をしても数ヶ月待ちなどという事態も想定できる。第一、大型ブラウン管テレビを運びだすのは、大人一人では難しい。

つまり私の推測値とJEITAの推測値の差470万台程度は「ゴミとして出したくても、出しようがない」という理由で、家庭内で死蔵されるのではないかと思うのだ。「販売店では引き取らないという。自治体に連絡したら引き取りは何ヶ月も先だという。センターに自分で持ち込もうと思っても、テレビが重くて運び出せない」という理由で、家庭内にしかたなく死蔵され、実際に排出される量はJEITAの予測値通りになるのではないかと思うのだ。

しかし、その裏では、悪徳リサイクル業者が横行するだろう。出したくても出せない470万台のテレビゴミに目をつけて、リサイクル料金と高額の運搬費を徴収しておきながら、海外に転売できるものはして、その他は不法投棄するという業者が続出する気がしてならない。消費者も、この業者は怪しいなと思っても、いつまでもテレビを置いておくわけにもいかず、そんな業者に依頼してしまうかもしれない。

私の想像は単なる杞憂かもしれない。しかし、みなさんにこうアドバイスしておきたい。来年の7月ギリギリまで地デジ対策をしないと意地を張らずに、遅くても春前にはテレビの買い替えをしておいた方がいいと思う。テレビはいつでも買えるが、捨てることができなくなる、あるいは捨てづらくなる可能性があるからだ。特に、2台、3台テレビを持っていて、買い替えをせずに捨てる予定でいる人は早めに処理をしておくことをお薦めする。

何度も言うようだが、私の推測値は机の上で計算しただけのことで、裏付けのある信頼性のある統計というわけではない。信頼性という点では、JEITAの方がはるかに裏付け情報をもっており、信頼に足る数値であることは間違いない。しかし、素人がちょっと計算しただけでも、こんな驚くべき数値がでてくるということは知っておいていただきたい。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。