テレビを地デジ化することにより、約1億台といわれるアナログテレビがゴミとなる。このゴミと化したテレビをきちんと処理できるのかという疑問は、以前から囁かれていた。なにしろ1億台のテレビゴミなのだから、処理に追われることは目に見えている。しかも、アナログテレビには有害な物質も含まれており、なおかつレアメタルも含まれているので、リサイクルしなければならない。ただ捨てればいいというものではないのだ。現在では、家電リサイクル法が施行され、廃棄するときは購入した販売店か、あるいは買い替えのテレビを購入した販売店に持込み、リサイクルしてもらうのが原則だ。ただし、リサイクル料金(メーカー、機種によって異なる)と販売店までの運搬は消費者が負担することが原則になっている。量販店などでは、運搬を無料で引き受けたり、リサイクル料金分販売価格を値引きするなどさまざまなサービスを行っているところもある。この他、街中をトラックで回りながら、無料回収と称して、テレビを回収している業者もいるが、これは中古テレビとして国内外に転売するものだと思われる。それ自体は立派なビジネスだが、中には中古転売するのにリサイクル料金を徴収したり(立派な詐欺だ)、無料回収ではあるが運搬代金が数万円かかるといいだしたりというトラブルも報告されている。さらに、レアメタルを取り除いた後の残骸を不法投棄するなど、悪質な業者もいるようだ。もちろん、リサイクルショップなどが真面目に回収している例もあるので、利用する場合は、あなたのテレビが犯罪や環境汚染につながらないよう、業者をきちんと見極めよう。
ところで、このアナログテレビゴミ問題については、電機メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)が、このほど「だいじょうぶです。問題ありません」という報告書を、総務省情報通信審議会の地上デジタル放送推進に関する検討委員会に提出した。この報告書によると、テレビのリサイクルはまったく問題がないという結論になっている。
テレビのリサイクル料金はメーカーによって異なる。この他、販売店までの運搬料金も消費者が負担しなければならない。販売店によっては、運搬料金はサービスしている例もある。リサイクル排出は「買い替え品を購入した販売店」「その商品を購入した販売店」で、販売店が分からない場合、遠隔地である場合などは自治体に相談するのが基本だ。詳しいことは家電リサイクル券センターのサイトに詳しい |
すこし煩雑になるが、具体的な数値を紹介しよう。問題になるのは2011年以降。2011年までは販売されたテレビと同数のテレビが排出されると予測している。いわゆる買い替え需要で、09年、10年をピークに次第に減少していくと考えられる。これは納得のいく推測だ。問題は、家庭内の2台目、3台目のテレビで、買い替えをせずに、直接ゴミとして排出される分。もともと家庭内には1億台のテレビがあると言われている。これを毎年、デジタルテレビが売れた分が置き換えられたと推定していっても、2011年の段階で2741万台のアナログテレビが家庭内に残ったままになる。このアナログテレビの運命は6つある。(1)ゴミとして捨ててしまう。(2)チューナーを接続して使う。(3)デジタルレコーダーに接続して使う。(4)ケーブルテレビ用STBに接続して使う。(5)ゲーム機に接続して使う。(6)使わないがそのまま残しておく。
(2)(3)(4)はいずれデジタルテレビに買い替えられるだろうが、すぐにはゴミとはならない。また、(6)はいずれ廃棄されるが、引っ越しやリフォームを機になど廃棄時期は数年後になるだろう。問題となるのは(1)がどのくらいあるかだ。(6)の台数はそう多くはないだろうから、2741万台から(2)(3)(4)の数値を引き算してやれば、ゴミとして排出されるアナログテレビの台数が計算できる。
JEITAの試算ではこうなる。まず(2)はデジタルチューナーの需要予測423万台という数字があるので、これがそのまま推測値として使用できる。また、(3)(4)については2011年時点での累計普及台数がケーブルTV用STB1116万台、レコーダー2287万台という数値があるので、この半数がアナログテレビに接続されると推測して(この推測について異議あり。後で触れる)1702万台のアナログテレビが活用される。(2)(3)(4)の合計は2125万台になる。
これを2741万台から引き算すると616万台となり、これが2011年に排出されるアナログテレビの数となる。
この616万台は2011年に6割が、翌2012年に4割が排出されると仮定して、結局2011年の排出量は370万台となる。もともとの買い替え分の排出量が1177万台あるので、結局2011年の総排出量は1550万台となる。ところが、家電リサイクル法で定められた通りにメーカーにリサイクルされているのは85%なので、実質メーカーが対応するのは1300万台。
現在のリサイクル処理能力は年間850万台だが、これは1交代制での数値であるので、2交代制にすれば倍の1700万台までの処理が可能。1300万台であれば、残業、人員増、休日操業、一部2交代制導入でじゅうぶん対応できるというものだ。ほんとうにこの皮算用でうまくいくだろうか?
まずだれもが気になるのが「STB、レコーダーの累積普及台数の半数がアナログテレビに接続される」という仮定だ。私は(というかだれも)正確な統計はもっていないが、STBやレコーダー購入者の半分がアナログテレビに接続するというのは、ちょっと常識からは考えづらい。一般にはまずデジタルテレビに買い替えたから、ケーブルの契約をデジタルに切り替え、デジタルレコーダーを購入するというのが普通であるように思う。もちろん、停波ぎりぎりになって「どうする?」と焦り始めた人が、「テレビはまだ使えるから、まずはケーブルをデジタル契約に切り替えよう、あるいはデジタルレコーダーだけ買って、テレビは後からじっくり考えよう」ということはあるかもしれない。であるなら、「累積普及台数の半数がアナログ使用」ではなくて、「2011年の販売台数の半数がアナログ使用」という仮定に立つべきではないだろうか。06年から09年にデジタルレコーダーを買った人の半数がアナログテレビで使っているとは考えづらいのだ。もし、そういう人がいても、かなりの人がもうテレビを買い替えているだろう。
ということで、JEITAとは別の推測値を計算してみたいのだが、誌面がつきてしまった。次回で、私なりの推測値を計算してみたい。
なお、誤解していただきたくないのは、JEITAの推測値のあら探しをしたいわけではないということだ。JEITAにしても「この数値が絶対正確だ」と言っているわけではない。一般的にこのような推測値は、ほんとうのことを言えば「だれにもわからない」というのが正確なところなのだ。しかし、わからないものをわからないといっていたのでは、仕事は進まない。そこで、多少の問題はあっても、全体の推測値を計算し、これを年度ごと、月ごとと分割していき、実績数値と比較することによって、以後の数値を修正していく。JEITAとしては、テレビ排出問題という大きな問題の最初のとっかかりとなる数値を示したまでで、これに対して重箱の隅をつつくようにあら探ししても意味のないことだ。
私がみなさんに伝えたいのは、できるだけリアルな数値を示して、2011年にどのようなことが起きるかをみなさんに考えてもらい、テレビを買い替える、テレビを捨てるという行動をどのタイミングですべきなのかを考えてもらいたいのだ。ということで、次回は、個人的な推測値を計算してみたい。
このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。