スマートフォンをレジとして使う「Tap to Pay」は、これまで各社からAndroid向けには提供されていましたが、いよいよAppleが「iPhoneのタッチ決済」としてこれに対応。手持ちのiPhoneをそのまま決済端末として使うことができるようになります。
決済サービスとしてはSquare、リクルートの「Airペイ」、三井住友カードらの「stera tap」が最初の事業者として参画。例えばSquareでは、同じ既存のアカウントがあればそのままアプリをダウンロードすることでiPhoneでもTap to Payを利用できます。
本連載ではSquareのTap to Pay on Androidについて第21回と第32回で取り上げたほか、Visaのレポートやsteraの戦略をまとめたレポートなどでそれぞれ取り上げてきましたが、新たにiPhoneをレジにできるようになった、というのが今回のお話です。
iPhoneをレジとして使うTap to Pay
スマートフォンをPOSレジとして利用するサービスを「Tap to Pay」または「Tap to Phone」などと呼びます。iPhone向けのTap to Payは、Squareでは米国において2022年から提供を開始していました。2年近くの遅れとなりましたが、ようやくAppleの準備が整ったのか、これが日本でも解禁されました。
日本でもこれまでAndroid向けには同様のサービスが提供されています。具体的にはフライトソリューションズの「Tapion」などが存在しており、他にSquareもTap to Pay on Androidを2023年から提供しています。
とはいえ、やはりiPhoneの対応は待望だったようです。Squareのジャパンエグゼクティブ・ディレクター野村亮輔氏は、「iPhoneが対応したことでTap to Payがより広がるのでは」と期待します。特に日本ではiPhoneの販売台数が多く、利用率が高いことで、「手元で使っているスマートフォンを決済端末にできる」というTap to Payの特徴がより伝わりやすいと野村氏は判断しています。
具体的なAndroid向けTap to Payの利用数は明らかにされませんでしたが、すでに安定的には使われているそうで、iPhoneの対応によってさらに拡大することを期待しています。「iPhoneならば手元に余っている」という店舗経営者にとっても、Android端末を別途導入しなくてもTap to Payに対応できるのはメリットです。
iPhoneのAPIを利用してNFCにアクセスすることでサービスを実現しているため、今回サービスに対応した各社とも、ハードウェア的な機能に差異は特にありません。いずれもVisa/Mastercard/JCB/アメリカン・エキスプレスの4大国際ブランドに対応している点も変わりません。ただし、SquareはAndroid版も4大ブランドに対応しているのに対し、stera tapはAndroid版においてVisaとMastercardのみの対応なのにもかかわらず、iPhone版ではJCBとアメックスにも対応しているという違いはあります。
Squareの場合、据え置き型のSquareレジスターやSquareターミナルを含めて、Square POSアプリが共通しており、併用するのも快適というのが他社に対するアドバンテージ。Square POSアプリだと、PayPayのQRコードを生成して利用客が読み込むMPM方式に対応しており、Android版のTap to Payでもこれをサポートしていました。iPhone版でも同様にQRコードを生成できるので、iPhoneでもPayPayが利用可能になっています。
Airペイの場合は、「Airペイ タッチ」アプリが必要で、iPadなどにインストールする通常の「Airペイ」アプリとは異なるアプリになっています。ただ、IDは共通化されているため、同じアカウントでそれぞれを管理できるそうです。
Airペイで面白いのが、Airペイの契約時にiPhoneのみを契約しようとしても、Airペイのカードリーダーも自動的に送られてくるという点。送られてきたリーダーを使う必要はないのですが、iPhoneで手軽にキャッシュレス対応して、のちに本格的なPOSレジを導入したいと思った場合にも、そのままiPhoneとリーダーを繋げば、POSレジ機能を簡単に試せます。iPadを別途購入しなくても、ひとまずリーダーと接続して電子マネーにも対応したPOSレジとしては使えるわけです。
また、Airペイ QRにも対応するので、クレジットカードの場合はAirペイ タッチ、QRコード決済の場合はAirペイ QRを立ち上げて支払いを受け付けることも可能です。そのため、今回で言えば最も幅広い決済手段に対応しているのがAirペイと言えるでしょう。
stera tapの場合、1つの契約で複数のスマートフォンを登録することは想定していないそうで、「1つの店舗で複数の従業員にハンディ端末としてスマホを持たせる」といった使い方はできないとのこと(複数契約に分ければ可能)。例えば既存のstera terminalを導入している場合も、stera tapは別契約になるため、売り上げなども別管理になるそうです。
このあたり、stera tapは基本的には今までキャッシュレス化をためらっていた個人店で試しにキャッシュレス対応する、といった使い方を想定しているようです。それ以上の使い方であれば、ハンディ端末としてstera mobileもあるので、同社は用途に応じた使い分けを推奨しています。
Airペイも現時点では同時に複数の端末でのログインはできないようですが、利便性向上のため、夏ごろをめどとして、1つのIDで複数端末に同時ログインできるようにする計画だそうです。これによって、複数のスタッフが同時にスマホで会計をして、管理画面でまとめて売り上げを管理する、といったことが可能になります。
こうしたTap to Payの仕組みは、スマートフォン単体で完結し、ネットワークも無線LANだけでなく携帯通信が使えるので、移動販売車や訪問販売などでも使える点もメリットです。
修理サービスなど、現地での支払いが必要なシーンでも活躍できますし、ポップアップストアのような短期出店で固定ネットワーク不要ですぐに決済端末を用意できる点も便利な点。さらに、普段は固定のPOSレジを使いつつ、繁忙期だけハンディの決済端末として行列をさばくために使う、という利用方法もできます。
例えば固定POSレジがある飲食店でも、ランチタイムに限り注文を受け付けたり料理を配膳したりした段階で店員のスマートフォンを使ってその場で決済してもらえば、会計もスムーズになりそうです。現金払いでも、レシートの印刷を除けば手入力はできますが、クレジットカードに限定して現金だけレジで会計してもらう、というだけでもいいかもしれません。
日本はハンディの決済端末があまり普及していませんが、これによってレストランのテーブル会計だけでなく、顧客対応の中でそのまま決済もできるため、スタッフの稼働率も高められそうです。
今回、これまでのAndroidに加えてiPhoneがレジとして使えるようになったことで、話題性も含めてTap to Payの市場が広がるのではないかと野村氏は言います。今までキャッシュレス対応が難しかった小規模店/移動販売車などへの拡大に加え、気軽にキャッシュレス対応ができるようになり、そこから本格的なPOSレジへの移行に繋がる可能性もあるとしています。
Airペイも、そうした動きを見越してAirペイのリーダーを送付することにしており、各社とも単なる「決済端末の多様化」だけでなく、キャッシュレス決済の拡大にも繋がることを期待しているようです。
なお、今回の仕組みをAppleは「iPhoneのタッチ決済」と表現しています。クレジットカードを使ってタッチ決済で支払うことに対して、各ブランドまとめて「クレジットカードのタッチ決済」と表現するのが一般的です。iPhoneのApple Payもクレジットカードのタッチ決済で支払いができるのですが、今回の「iPhoneのタッチ決済」はその逆で、「タッチ決済を受け付ける」という意味での「iPhoneのタッチ決済」というわけです。