公共交通機関のキャッシュレスでは、Suicaなどの交通系ICカードが一般的でした。ただ、コストの問題もあって特に地方路線では採用が遅れているのも事実。
その中で三井住友カードやVisaらが進めるクレジットカードのタッチ決済を使ったstera transitが勢いを増してきていました。少子高齢化で鉄道の維持にも課題がある中、公共交通機関としてはバスの存在感も高まっています。そんなバスのキャッシュレス対応について、新たなプレイヤーが登場しています。それがネットスターズの「StarPay」、リクルートの「AirペイQR」です。
QRコードもクレジットカードも対応して持ち歩けるStarPay
このたび東急トランセが導入を決めたStarPayは、ネットスターズが提供する決済ゲートウェイです。WeChat Payを皮切りにQRコード決済を中心とした決済サービスを提供します。StarPayの場合、ハンディ型の決済端末が利用されており、SUNMIのオレンジ色の端末が使われます。
StarPayは、日本のPayPay/楽天ペイ/d払い/au PAY/メルペイ/ゆうちょPay/Bank Payをサポートするだけでなく、中国WeChat Pay/Alipay+/銀聯QR、台湾JKOPAY、韓国GLN、タイPromptPayというアジア各国のQRコード決済をサポートしている点も強みです。
今回導入を決めた東急トランセは、渋谷・原宿・神宮外苑・表参道エリアを周遊する定期観光バス「SHIBUYA STREET RIDE」を運行。車両は2階建てオープントップバスを利用し、多言語音声ガイドシステムや車内モニターでガイドするということで、海外からの観光客が期待されています。この点からも、観光客が多い中国、韓国、台湾などをカバーするというのはメリットがあります。
ネットスターズでは、今回の東急トランセでの導入に合わせて新決済端末「P2 PRO」を発表し、東急トランセに提供しています。新端末は、QRコード決済に加えてクレジットカード/電子マネー/共通ポイントに対応したのが特徴です。サービスとしてはLINE PayやFamiPayなど、海外ではベトナムMB Bankも対応しています。
クレジットカードはVisa/MasterCardの2ブランド、電子マネーはSuicaをはじめとした交通系IC(いわゆる10カードのうちPiTaPa以外)、共通ポイントはdポイントをカバーします。
今回は利用できるサービス全てに対応しているのではなく、この中から東急トランセ側が利用可能な決済サービスをチョイスした形ですが、QRコード決済とクレジットカードをカバーし、インバウンドや国内旅行者に対応します。オンラインでの予約購入も可能ですが、予定をきっちり決めずに旅行している人も多いため、現場でも手軽に購入できるようにハンディでの対応を決めたといいます。
ハンディ端末が重要なのは、SHIBUYA STREET RIDEのバスの構造上、運賃箱を設置できないためです。運転手がいる前方から乗り込むタイプであれば運賃箱に据え置き端末を設置することもできますが、今回のSHIBUYA STREET RIDEの場合は車体中央部から乗降して2階に上がる仕組みのため、乗車口に運転手が移動して予約を確認しています。予約がなければその場で決済を行うということになるため、ハンディ端末が必須だったそうです。
その上、複数のQRコード決済をサポートしなければならないことから、運転手がどの決済かを選択/指定するのではなく、自動で判別することが重視されました。その点も考慮し、今回のStarPayの導入が決まったのだそうです。
前述のとおり、公共交通機関での導入においてはstera transitに勢いがあります。実際東急トランセも、羽田空港への空港連絡バスにおいては、共同運行する京浜急行バスと合わせる形でstera transitを試験導入しています。しかし乗り継ぎや乗り換え、乗車距離による料金体系のないバス路線の場合、そこまでの機能は必要ないという判断もあるでしょう。
SHIBUYA STREET RIDEは料金固定で途中の乗車や下車はありません。最初に料金を徴収するだけですが、料金を徴収するには運転手が移動する必要があります。こうしたことから、基本的には決済機器を設置して固定する現状のstera transitは不向きといえます(stera用端末のハンディタイプも開発中ではあります)。こういったバス路線の性質によって決済サービスを切り替えることで対応しているわけです。
キャッシュレス決済に対応すると決済手数料というコストが発生します。交通機関向けのメニューがないStarPayなので、手数料自体は一般加盟店と同じように設定されます。加えて東急トランセでは2台のP2 PRO端末を導入。現在は予備としており、今後2台目のSHIBUYA STREET RIDEバスを導入した際に利用したいとしていますが、いずれにしてもその端末代も発生しています。
こうしたコストはあるものの、そもそも固定の運賃箱が設置しづらいという前提があり、仮にそれを設置するとしても交通系ICへの対応のための機材コストがあることなどを考えれば、キャッシュレス導入の相対的な追加コストは小さいといえます。手数料自体は利用者メリットによって乗客が増えることを期待しているとしています。
バスにおけるキャッシュレス決済の導入は、電車とはまた違った観点からの対応が必要で、今後も複数のソリューションが並立しそうです。もう1つのソリューションとして、次回はJR東海バスとリクルートを取上げたいと思います。