日本におけるキャッシュレス比率が3割を超え、世界に遅れながらも少しずつ増加しています。その原動力となったのは、PayPayをはじめとしたQRコード決済サービスですが、海外に目を向けると、欧米ではクレジットカードがキャッシュレスを牽引しています。

  • ソニーの説明会におけるFeliCaのデモ

    筆者の手元にある最古のモバイル決済の画像はこれでしょうか。2003年10月28日、ソニーの説明会におけるFeliCaのデモです

日本でもクレジットカードのタッチ決済が広まり始めていますが、欧米でもクレジットカードのタッチ決済広まったのはここ10年ほど。それまでは、日本ではFeliCaを使った電子マネーが普及していて、むしろ先進的でした。

  • iモードFeliCaプレビューサービス

    2003年12月15日には、「iモードFeliCaプレビューサービス」が発表されました。まだ、おサイフケータイという名称はありませんでした。当時からクレジットカード(JCB)での支払が想定されていました

  • Edyでのタッチ決済

    Suica、Edyなども発表されていました

ただ、それでも日本のキャッシュレス比率は伸び悩み、ドイツと並ぶ現金大国だったのですが、コード決済/タッチ決済の登場、コロナ禍といった複数の要因でキャッシュレス比率は拡大しています。

  • ドコモ「900i」シリーズ発表会

    2004年6月16日、ドコモがおサイフケータイを発表。この時発表されたのは「900i」シリーズでした

  • 携帯電話をタッチしておサイフケータイを利用

    携帯電話で決済ができるという時代がここから始まりました

筆者がこの業界の取材を開始して10年ほどになります。モバイル業界を取材していたため、おサイフケータイのスタートも目にはしていましたが、決済を主軸に据えた取材を始めたのは最近。海外取材の中で、欧米と日本の違いを見て興味を持ったのが最初です。その当時、海外で決済に使うのはクレジットカードと現金で、特に公共交通機関はほぼ100%現金で切符を買っていました。

2011年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)では、「GALAXY S II」がNFC決済機能を内蔵。NTTドコモのブースでは、モバイルNFCに関する出展もありました。

  • 2011年MWCに展示されていた「GALAXY S II」

    2011年のMWC会場ではNFCによるモバイル決済に対応した「GALAXY S II」が展示されていました。グローバルでは最初期の端末です

  • 2011年のMWCにおけるNTTドコモの展示

    ドコモはMWC会場でおサイフケータイを紹介

この頃、例えばフランスOrangeが、ニースでモバイル非接触決済サービスを展開していました。Cityziと名付けられたサービスで、NFCを使ったクレジットカードの決済を可能にしています。日本では、EdyとSuicaのスタートが2001年、おサイフケータイのスタートが前述の通り2004年、クレジットカードを使うQUICPay/iDも2005年に登場しており、先行していました。しかもCityziは限定したエリアでしか使えませんでした。

  • 2011年11月、Mobile Asia Congressでの発表から

    2011年11月、Mobile Asia Congress(香港)での発表スライドから。この頃は携帯事業者を中心にSIMにNFCを内蔵したモバイル決済の方向性でした

2006年1月にはモバイルSuicaサービスが開始。2012年には、KDDIが日本で「モバイルNFCサービス」を発表。その後は今ひとつ声を聞きませんでしたが、2013年にはドコモが韓国でNFC決済に対応。2014年にはiD/PayPassとして、国内ではiD、海外ではNFCというサービスを開始。のちにAppleがiPhoneのApple PayでiDに対応するまで、唯一のサービスでした。筆者も海外ではお世話になったものです。のちにサービスの利用動向をドコモに確認したところ、かなり利用率の高いユーザーだったようです。

  • 「GALAXY S II」を使ったauのNFCサービス

    「GALAXY S II」を使ったauのNFCサービス。マスターカードのPayPassに対応していました

  • ハワイでスタートしたiD/PayPass

    ハワイでスタートしたiD/PayPass(のちのiD/NFC)。筆者はこれを2013年末にハワイで試しており、その様子はマイナビニュースでもご紹介しました

  • 2012年のMWCにおけるGoogle Walletのデモ

    2012年のMWCでは、2011年に米国で開始されたGoogle Wallet(現在のそれではなく、Google Payの前身)のデモも行われてました

2013年になると、MWC会場でNFC決済機能を内蔵したスマホケースが配布され、バルセロナの街中でモバイルNFC決済を試せるようになりました。ただ、現地でも試せる店舗は限られており、クレジットカードのタッチ決済(コンタクトレス)は、店員に通じなかったこともありました。

  • MWC参加者向けに配布されていた交通チケット

    これはMWC参加者向けに配布されていた交通チケットですが、こうした1週間チケットのようなものを買うのが普段の鉄道の乗り方

  • 2013年MWCのVisaブースにおける、NFCを使ったモバイル決済に関する出展

    MWCのVisaブースではNFCを使ったモバイル決済に関する出展も。NFC対応のハンディPOS端末も用意されていました

  • バルセロナ支柱のタッチ決済対応自販機

    バルセロナの街中の店舗ではこうしたタッチ決済対応の自販機がありました

  • バルセロナのボケリア市場の精肉店の決済端末

    バルセロナのボケリア市場の精肉店でコンタクトレス決済をしようとした際、いまいち店員に伝わらなかった思い出のある決済端末。POS端末はしっかりタッチ決済に対応していました

  • 現地の無印良品店舗でモバイル決済

    バルセロナ市内で明確に対応店舗というのが分からず、MWC側から指定され店舗のひとつである、現地の無印良品店舗でモバイル決済を試していました

Apple Payのスタートは2014年10月。米国でのスタートだったので、国内に入ってくるまでは2年の月日が必要でした。その間、欧州ではクレジットカードのタッチ決済が普及していきました。

  • 2015年、屋台でのApple Payの支払い

    スペイン・モンセラットの大聖堂前の屋台でもApple Payでの支払いができて、だいぶ広まってきていました。2015年でした

英国がロンドン五輪のために交通系のタッチ決済対応に力を入れたのも手伝って、2012年以降、タッチ決済対応は欧州でかなり進展していました。特に、ハンディ型のPOS端末を使うことの多い小型店舗では、POSベンダーが端末をばらまくため、「実は対応している」という例が多かったのです。

  • 2016年、ロンドンで見かけたコンタクトレス支払いのPOP

    英ロンドンに行く機会がなく、ようやく行けたのが2016年。コンタクトレスをアピールするPOPが掲載されていたのが少し意外でした

  • タッチ決済に対応するロンドンのバス

    同じくロンドンのバスにて。タッチ決済に対応しています

  • ロンドンの地下鉄もタッチ決済に対応
  • 改札機の反応はイマイチ

    地下鉄もタッチ決済対応で、モバイル決済で入出場ができました。ただ、日本の改札機に比べてかなり反応は悪いものでした

  • 教会の寄付でもタッチ決済に対応

    これは2018年10月のロンドン。教会の寄付でもタッチ決済対応

  • ロンドンのパブ。タップオンの支払もタッチ決済で楽々

    ロンドンのパブだと、カウンターでビールを1杯ごとに注文して都度支払いをしますが、タッチ決済で支払えるので非常に手軽

ちなみに、2022年5月にはドイツで特定のPOS端末に不具合が発生して多くの店で決済ができなくなる事態が発生しました。恐らく、多くの店舗が同じ頃に配布された同じ端末を使っていたせいでしょう。かなり大規模にキャッシュレス決済ができないという問題が発生したようです。

  • ケルンのビアホールFruh

    ドイツ・ケルンで有名なビアホールFruh。筆者が最後に訪問した2018年の時点ではまだ現金のみというドイツらしさでしたが、最近はもうカード対応したのでしょうか

  • 障害を起こしたVerifoneのH5000端末

    ドイツ・デュッセルドルフで撮影していたVerifoneのH5000端末(2020年2月)。障害を起こしたのはこの端末で、町中の端末が一斉に使えなくなったそうです

いずれにしても、クレジットカード自体のタッチ決済対応より先にPOS側の準備が整っていたというのが欧州の状況でした。次第にカードもタッチ対応になり、欧州ではクレジットカードのタッチ決済が普及しました。気付けばコンタクトレスも普通に通じるようになり、最初は注目されたスマホでのタッチ決済も、Apple Pay効果で普通の光景になりました。

欧州では、鉄道のような公共交通機関でも、少しずつタッチ決済対応が増えてきました。タッチ決済だけで考えれば、Suica登場から10年以上という日本に軍配が上がりますが、クレジットカードでそのまま乗車できるというのがメリットです。

  • 2005年2月のモバイルSuica発表時のスライド

    日本でのモバイルSuicaスタートは2006年1月。これは2005年2月のモバイルSuica発表時のスライド

  • おなじみのモバイルSuica

    日本では早くから携帯で電車に乗れるようになりました

欧州でも特にキャッシュレス化が進展している北欧は、2018年に訪問しました。バーガースタンドでもキャッシュレス、個人のフリーマーケットでもキャッシュレス。キャッシュレスオンリーの店も普通にあり、進んでいることは分かりました。スウェーデンでは国の独自決済であるSwishが中心で、各国の事情が異なれば、キャッシュレス決済の広がりも異なることが分かります。

  • スウェーデンの鰊フライのバーガースタンド

    スウェーデンの鰊フライのバーガースタンド。もちろんクレジットカード対応

  • デンマークのアイスクリーム屋

    デンマークのアイスクリーム屋。移動販売ですが、こちらもクレジットカード対応

  • スウェーデンのフリーマーケット

    道の左右に露店が建ち並ぶスウェーデンのフリーマーケット

  • 携帯番号宛に送金できるSwishで支払をしているところ

    携帯番号宛に送金できるSwishで支払をしているところ。スウェーデンでは携帯番号は公開情報とのことで、店先には普通に電話番号が掲示されていました

実際、米国はクレジットカードのタッチ決済対応が遅れていました。そもそもIC化が遅れていたので当然なのですが、Apple Payも登場するなど、サービスだけは充実。交通機関のApple Pay/Google Pay対応も進んでおり、急速に拡大している印象です。

こうしていくつかの国でキャッシュレス決済事情を取材してきたのですが、コロナ禍でそうした取材にも制限が出て、2020年2月以降、海外に行けていません。その間は、国内の取材を中心に進めてきました。

コロナ禍と国のキャッシュレス施策によって、日本でもキャッシュレスが進展しています。三井住友カードやVisaらが、交通機関のクレジットカード対応に力を入れていて、その関係で京都や福岡を訪問したり、ルパン三世Payを求めて北海道に渡ったり、ゆいレールのSuica対応を確認しに沖縄に向かったり、国内でも各地を取材しました。

  • ルパン三世Pay

    北海道浜中町の地域電子マネー「ルパン三世Pay」。2021年7月取材

  • 沖縄市のゆいレール

    沖縄市のゆいレールがSuicaに対応。2020年7月取材

  • 京都丹後鉄道

    雪の京都丹後鉄道でVisaのタッチ決済による公共交通機関の取材。2020年12月取材

  • 鹿児島市電のタッチ決済対応

    直近の取材は鹿児島市電のタッチ決済対応でした。2022年10月取材

東奔西走、日本の様々な場所で取材をしてきましたが、今後も日本各地、そして来年こそは世界のキャッシュレス事情を再び取材したいと考えています。そんな情報を、この連載でお届けできればと考えています。