メルセデス・ベンツは「第46回 東京モーターショー2019」(11月4日まで)において、アジアでは初披露となる電気自動車(EV)のコンセプトカー「ビジョンEQS」を出展した。未来の「Sクラス」を示唆したといわれるその形について、デザイナーの説明を交えながら紹介していこう。

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

「弓」のようなフォルムの理由

今回の東京モーターショーは、海外自動車ブランドの参加が減ったことが一部で話題になっている。これは東京モーターショーに限った話ではなく、ドイツやフランスのモーターショーも同様の傾向だ。そんな中、輸入乗用車販売台数第1位の座に君臨し続けているドイツのメルセデス・ベンツは、今回も日本勢に負けない広いブースを展開している。

最も注目すべき1台は、2019年9月のフランクフルトモーターショーで発表されたばかりで、アジアでは初披露となるコンセプトカー「ビジョンEQS」(VISION EQS)だろう。しかも、今回はクルマだけでなく、デザインを担当したメルセデス・ベンツ アドバンスド・デザイン シニアマネージャーのホルガー・フッツェンラウブ氏も来日し、プレゼンテーションを行ってくれた。

  • メルセデス・ベンツのホルガー・フッツェンラウブ氏

    「ビジョンEQS」のデザインを担当したメルセデス・ベンツのホルガー・フッツェンラウブ氏

車名の「ビジョン」はメルセデスがコンセプトカーに使う言葉だ。「EQ」は、先日日本でも発売となった「EQC」が冠していることからも分かるとおり、ダイムラーグループのEV(電気自動車)であることを示すサブブランドの名称である。そして「S」は、フラッグシップセダンのSクラスの未来形という意味を持つ。

ただし、ビジョンEQSのプロポーションは、Sクラスとは大きく異なる。これには明確な理由があるというのがフッツェンラウブ氏の説明だ。

「私たちは『ワンボウ・デザイン』(ボウは弓の意味)と呼んでいます。弓のように、車体前端から後端までをしなやかな曲線でつなぎました。ビジョンEQSはEVなので、床下に駆動用バッテリーを積む必要があります。全高は現行Sクラスよりも30mm高くなっています。これをできるだけ低く見せるため、ワンボウ・デザインを考えました」

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    車体の前後をしなやかに結ぶ「ワンボウ・デザイン」が印象的だ

高級セダンのもうひとつのかたち

24インチという大径ホイール、ブラック仕上げとしたキャビンなども、低く見せるための工夫だ。ブラックとシルバーの2トーンの間を走る細いストライプは発光式で、通常はブルーだが危険を察知した際などには赤くなり、点滅もするようになっているそうだ。ボディ下端のローズゴールドはメカニズムの表現で、薄くしつらえた電動パワートレインのプレートでボディを移動させているような雰囲気を狙ったという。

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    24インチの大径ホイールが車体を低く見せる

同じEQブランドでひと足先に発売となった「EQC」が、オーセンティックなSUVスタイルを持っているのとは対照的だ。この違いについて同氏は、「SUVはフロアが高いので、バッテリーを積んでもプロポーションを変える必要はない」と解説。「逆にいえば、セダンのEVについてはワンボウ・デザインに進化していくだろう」と予言していた。

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    こちらは先日日本で発売となった「EQC」

歴代Sクラスと比べるとノーズが短く、キャビンが前寄りにあり、リアのオーバーハングが短い「キャブフォワードデザイン」となっていることもビジョンEQSの特徴だ。前輪駆動車ではよく見られるが、Sクラスを含めた多くの後輪駆動セダンは、エンジンの大きさが高級感やスポーティさにつながるという考えから、ノーズを長く取る傾向にあった。ビジョンEQSは前後にモーターを置いた4WDということもあり、それとは対照的なプロポーションを持つ。

これについてフッツェンラウブ氏は、どちらもプレステージセダンとしての表現であり、伝統的な考えを好むユーザーも一定数いることも踏まえ、しばらくは2種類のパッケージングを共存させていくという考えを明かした。

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    伝統的な後輪駆動セダンのデザインと「ビジョンEQS」に象徴されるキャブフォワードデザインは、メルセデス・ベンツの中で共存していくことになるようだ

シームレスはデジタル時代の表現

パネルやトリムの凹凸を極力廃した、シームレスな表面処理も目を引く。こちらについては、スマートフォンのタッチパネルが象徴しているように、立体に頼らずとも多彩なグラフィックが可能なのがデジタル時代であり、トレンドを反映したとのことだ。それを象徴しているのが、無数のスリーポインテッドスターをちりばめたフロント/リアまわりだろう。

「フロントマスクはSクラスのDNAとEQブランドとしてのメッセージを融合しました。940個ものLEDを配したグリルは、コミュニケーションの能力を兼ね備え、予防安全のためのセンサーも内蔵しています。リアは230個のLEDでコンビランプを構成しており、車体を路面に押し付けて走行安定性を高める必要もあり、トランクリッド後端をスポイラー風に造形しています」

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    無数のスリーポインテッドスターがちりばめられた「ビジョンEQS」のフロントマスク

高級ヨットをモチーフにしたというインテリアもまたシームレスで、メーターなどはホワイトのトリムに投影される。操舵系は「ステアリング・バイ・ワイヤ」とすることで小さな半円形とし、視界を広げた。フロアがフラットなのでセンターコンソールはフローティングタイプとする。ディスプレイはジェスチャーでの操作も想定しているという。スケルトンのルーフにはストライプが入っており、幻想的な影がキャビンに映し出されるようになっている。

  • メルセデス・ベンツのコンセプトカー「ビジョンEQS」

    上から光が当たると幻想的な雰囲気になる「ビジョンEQS」の車内

いずれにしても、メルセデスのセダンとしてはかなり大胆なデザインだが、フッツェンラウブ氏によれば原案はもっと過激だったそうで、会社のトップに見せたら行き過ぎだといわれ、修正をした部分もあるそうだ。

逆にいえば、ホイールを小径化するなどの手直しを施せば、量産型への発展は困難ではないとのこと。世界のVIPが愛用する高級セダンがこのフォルムに変貌したら、都市の風景は一気にモダンになるだろう。私たちの手の届くクラスのセダンへの展開も含め、今後の歩みに注目したい。

著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)

1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。