編集部注: 本稿は、2012年7月19日にAndorid情報のWeb専門誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。
日本国内ではほとんどみかけないが、海外には、2つ以上のSIMカードを装着して、複数の電話番号で待ち受けが可能な携帯電話がある。俗に「デュアルSIM」などというが、他国と地続きであったり、プリペイド契約が多いなどの理由で、複数のSIMカードを使ったほうが有利な地域がある。
日本では、プリペイド利用はあまり普及しておらず、3Gが急速に普及し、2Gと3Gに対応したデュアルモード端末がほとんど必要なかったことから、デュアルSIM端末がほとんどない状態である。
もともとは、いわゆるフューチャーフォンの機能なのだが、最近では、スマートフォンでもデュアルSIM対応の機種がいくつか存在している。Broadcom社のスマートフォン用チップセットにこの機能があり、これを採用した一部のスマートフォンがデュアルSIM対応しているのである。
ただ、世界的にみるとデュアルSIMスマートフォンは注目されつつあり、Qualcomなどもアジア市場向けにデュアルSIM対応のチップセットを開発中と伝えられている。
ただし、現状でデュアルSIMスマートフォンは、GSMとUTMS(W-CDMA)という2G、3Gの組み合わせにしか存在しない。cdmaOneとCDMA2000は、もともとデュアルモードの仕様であり、それ以外の2G方式を使う日本では、3Gが早期に普及したため、デュアルモードにする必要がなかったため、デバイスも開発されていない。
このため、デュアルSIM端末を使うのは、日本人にとっては海外に限られる。今回、アムステルダムに取材にいったおり、このデュアルSIMマシンを使ってみた。
デュアルSIMマシンは、2つのSIMを装着し、それぞれの電話番号で待ち受けが可能なものだ。携帯電話のネットワークからみれば、2つの端末に見える。
過去には、複数のSIMを入れ、切り替えて利用するものもあったが、待ち受けが一方でしかできず、たとえば隣国へいったときに差し替えの手間を省くといった程度のメリットしかなかった。
複数のSIMで同時に待ち受けできるデュアルSIMマシンは、海外からの旅行者なら、現地のプリペイドSIMで安価な発信を利用しつつ、常に利用している電話番号へもローミングで着信できるというメリットがある。また、隣国と地続きなどで距離が近い場合、隣国側の事業者のプリペイドSIMを使ってどちらでも通信ができるというメリットもある。
UTMS(W-CDMA)とGSM(2G)では、通信プロトコルが似ている部分があるものの、電波型式などが違い、無線部分は別になっているが、それ以外の部分をある程度共有できる。このため、デュアルSIMが利用可能となっている。ただし、このような仕様なので、GSMとUTMSという組み合わせしかないのである。
また、多くの国では、3GのUTMSが普及段階で全国をカバーしておらず、地域によってはGSMがまだ残っているところが多い。3Gのサービスエリアでも、2Gの端末を使い続けているユーザーも多く、同時にGSMサービスも利用可能になっている。このため、GSMが利用できれば、通話という面では基本的に問題ない、というところにデュアルSIMのメリットがある。
多くのデュアルSIM端末は、一方のSIMのみ3Gネットワークに接続でき、片方はGSMネットワークにしか接続できないという構成を取る。そういうわけで、そもそもGSMのネットワークがない日本のような地域では使うことができないのである。
今回評価に使ったのは、Samsung社のGalaxy Y Pro DUOS(以下Galaxy Yと略す)という端末。同社のGalaxy Yシリーズなどには、デュアルSIMを意味するDUOSという名称を持つものがいくつかある。
今回は、このGalaxy Yに、現地のプリペイドSIMカードと、筆者が日本で利用しているドコモのSIMカードを装着して利用した。使い方としては、現地のプリペイドを3G側として、データ通信を可能にしておき、ドコモのSIMで通話の着信をするという使い方だ。
Galaxy Yには、SIMマネージャなる設定項目がある。これは、2つのSIMに関する設定などを行う機能だ。また、キーボード右下には、専用のキーがある。これは、単独で1回押すごとに発信に利用するアクティブなSIMが切り替わり、長押しすることで、設定画面を起動できる。
設定では、2つのSIMに対して、利用の有無や、データ通信のオンオフ、表示名称やアイコンの選択などを行える。
SIMは、バッテリ下のSIMスロットに入るが、こちらには1、2という数字による区別がある。SIMマネージャでは、デフォルト設定で、これにSIM1、SIM2という名前が付けられており、アイコンも数字の1と2がSIMカードの中に書かれたイメージになっている。
設定では、表示の名称や表示のアイコンを選択できる。これにより、たとえば個人用、仕事用、ホームエリア、その他のエリアといった区別が簡単にできるようになる。名前には、事業者名などをいれておけば、区別はよりわかりやすい。
また、Androidのホーム画面上のステータスラインには、2つのアンテナ表示とどちらのSIMがアクティブなのかがSIMアイコンで常に表示される。ダイヤルやSMS送信といったSIMに関係する機能は、常にアクティブなSIMに対して行われる。これに対して、着信やSMS受信、では、どちらのSIMに対してのものなのかをアイコンで表示するようになっている。発信、着信履歴にも、同じくSIMアイコンが表示される。着信時にはどちらの番号宛てなのか表示され、発信者表示には同じAndroidの電話帳が使われる。
筆者は、国内では通話用にドコモのXPERIA Rayを利用している。これまで、海外で滞在する場合、日本からの電話もあるため、ドコモのSIMの入ったXperia Rayをそのまま使っていた。しかし、現地で入手したデータ通信が可能なSIMなどを使うためにもう1台スマートフォンを用意していた。なので、現地では、最低でも2台のスマートフォンを扱わねばならず、充電などの点で面倒だった。デュアルSIMにより、これが1つの端末に集約され、持ち歩きもラクになった。Galaxy Yには、無線LANを使うテザリングの機能もあるため、さらに無線LANルーターの代わりにもなり、PCやタブレットをインターネット接続させることも可能だ。
なお、説明によるとデータ通信中にデュアル待ち受けを行うと、データ通信速度が落ちるらしい。また、Galaxy Yのメインプロセッサは、ARM11系で、最近のプロセッサに比べると高速なものでもない。メモリも少ないし、ストレージ容量も小さく、多数のアプリを入れるような使い方も困難だ。もう少し高性能なら、ほんとうに、これ1台で全部OKとなるのだが、実際には、タブレットぐらいは持ち歩きたくなる。
しかし、海外でプリペイドSIMを使うのに、デュアルSIMのスマートフォンはかなり便利だ。