今回のお題も民航機である。実は、民航機におけるグラスコックピットの普及について語ろうとすれば、ボーイング757とボーイング767は外せない。ボーイング757は国際線でたまに飛来する程度で、日本ではなじみが薄い機体だが、この両者はワンセットで扱うべきであろう。その理由はこの後で述べる。

機種は違うが操縦席は共通

今でこそ日常的なものになり、航空以外の分野にも広まってきているグラスコックピット。しかし、この言葉が広く用いられるきっかけとなった機体は何かと歴史をさかのぼると、行き着くのはボーイング757とボーイング767である。

ボーイング757

ボーイング767。757との胴体太さの違いに注意

ボーイング757はナローボディの単通路機、ボーイング767はセミワイドボディの2通路機という違いがあるが、実はこの両機種、コックピットが共通化されている。だから、操縦席に座っている分には、どちらも同じように見える。エンジンの数も同じだ。

そもそもこの両機種は、同時並行開発である。メーカーからすれば1機種に集約したかったところかもしれないが、ナローボディ機を求めるエアラインもあったことから、別々に開発することになった。

しかし、同時並行で開発するのであれば、共通化できるところは共通化するほうがよい。設計・開発の負担軽減やパーツの共通化というメリットも考えられるが、ことにコックピットの共通化について言えば、別のメリットにつながる。

それが操縦資格の共通化だ。通常、民航機の操縦資格は機種ごとに個別に取得するので、例えばAという機種の資格を持っていてもBという機種の操縦はできず、あらためて訓練を受けて資格を取得し直さなければならない。

ところが、異なる機種同士で取り扱いを共通化して操縦資格を共通化すれば、エアラインにとっては訓練の負担軽減だけでなく、乗務割り当ての柔軟性が増す利点もある。同じパイロットが複数の機種に乗れるのであれば、ある時はAという機種に、別の時はBという機種に、というアサインができる。乗務できる機種が1つしかないと、こうはいかない。

なお、757と767はコックピットは共通だし、エンジンの数も同じだが、エンジンの機種ラインナップは同じではない。だから整備のほうは資格が別々になるはずだ。

元祖・グラスコックピットの正体は?

さて。その757と767で共通化した元祖・グラスコックピットの内容とは、いかなるものだったのか。

まず、グラスコックピットではないコックピットがどうか、という話から始めなければならないが、基本的には以下のような陣容である。

  • 姿勢指示計(ADI : Attitude Director Indicator) : 機体の姿勢を表示する
  • 水平状況指示計(HSI : Horizontal Situation Indicator) : 機の針路に関わる情報を表示する
  • 速度計 : 言わずもがな
  • 高度計 : 海面からの高度を表示する
  • 電波高度計 : 地面からの高度を表示する
  • エンジン関連計器 : 回転数、排気温、油温、油圧などを表示する

グラスコックピット化した757や767では6基のCRT(Cathode Ray Tube)を設置して、以下のように使い分ける。

  • PFD(Primary Flight Display) : 姿勢・速度・高度などの操縦関連情報を表示する
  • ND(Navigation Display) : 針路や航法支援施設など、航法関連情報を表示する
  • EICAS (Engine Indication and Crew Alerting System) : エンジンをはじめとするシステム関連情報を表示する

PFDとNDは正副操縦士席の前にそれぞれ1面ずつ設置して、ADI・HSI・速度計・高度計を置き換える。対してEICASは正副操縦士席の間に2面設置して、そこにあったエンジン関連計器を置き換える。

また、757や767は航空機関士を乗せないことになったので、航空機関士が担当していたシステム関連の操作や動作状況のモニターも、画面の切り替えによって対応できるようになっている。

これで合計6面のディスプレイということになり、これはその後の民航機の多くが引き継いでいる。ただし、縦に並べるか、横に並べるかといったところは機種ごとに違うし、時代が下るとサイズの大型化や液晶化といった変化は生じている。

パイオニアは苦労する

また、757や767では機械式計器をまだ残していた部分があったし、バックアップ用の機械式計器もあった。そして、CRTのサイズはさほど大きくない。だから「一部がCRTに置き換わった」という印象であり、機械式計器の大半が姿を消した今の機体を見慣れた目からすると、いささか古めかしい。

しかし、最も使用頻度が高い部分がCRT化されたことの意味は大きい。それに、変化というのは漸進的に進められることが多いものである。いきなりガラッと変えると現場が混乱するし、グラスコックピットをどこまで信頼できるのか、という疑問を持たれることもあるからだ。

757や767における実績があるからこそ、その後にグラスコックピット化が進んだり、既存の機体をグラスコックピットに改修したり、グラスコックピットの利用拡大や高機能化が進んだり、異なる機種の間で資格を共通化する方式が広まったり、航空機関士を省略する2マン・クルー化が普通になったり、といった話につながった。何事も最初が一番大変で、パイオニアは苦労するものである。

ちなみに、同じ767でも後から登場したモデルではコックピットが改良されており、より現代的なスタイルになっている。最初に登場した時と同じコックピットを後生大事に使い続けているわけではない。