前回は速度の話だけでいっぱいになってしまったので、今回はその続きで、高度と針路にまつわる話を。機体の姿勢を知る方法についても書こうと思ったが、字数が多くなりすぎたので、その話は次回に。
気圧高度と対地高度
高度が上がると大気の密度が下がり、気圧が低くなる。だから、気圧の変化を調べれば高度を計算できる。その原理に基づいて高度を表示するのが、いわゆる気圧高度計である。
と言いたいところだが、低気圧が来ている時と高気圧が来ている時とでは、同じ場所でも気圧が違うから、離陸前に地上の気圧を測定して補正する必要がある。また、補正を行う場所の標高によっても影響が生じる。海面スレスレにある羽田空港と、標高が高い、例えばアフガニスタンのカブール空港辺りでは、駐機場にいる時点ですでに周囲の気圧が違う。
そこで、高度計規正値という話が出てくる。高度計には気圧の設定を変えるためのノブが付いていて、それを回して適正値に合わせてから飛び立たなければならない。離陸後に変更しなければならない場合もある。
まずQNH。これの定義は「飛行場標高における気圧高度計の示度が正しい海抜標高を指すよう規正されているとき、高度ゼロに対応する気圧」。
と書かれると、何のことだかわからないが、要は「事前にわかっている飛行場の標高が高度計に表示されるように修正する」というもの。例えば、標高1000フィートの空港だったら、QNHを修正して高度計が1000フィートを指すようにする。この設定に使うためだろうか、飛行場によっては管制塔の側壁などに「ここの標高は○○フィート」と大書していることがある。
次がQNE。これは国際標準大気に合わせて1013.2hPaの気圧で高度計が0フィートを指すようにするもの。洋上、あるいは国によって異なる規定値より高い高度を飛行する場合にこれを使う。
最後がQFE。これは、飛行場にいる時点で高度計が0になるように修正するというもの。例えば、標高1000フィートの空港でも、QFEを修正して高度計が0フィートを指すようにする。
航空の世界では高度はフィート単位なので、ここでもフィート単位で書いた。1フィート=0.3048mである。ついでに余談を書くと、高度は「altitude」だが標高は「elevation」である。飛行機の高度計には、高度計であることを示すために「ALT」と書いてある。
対地高度
ここまでは気圧高度の話だが、さらに対地高度もある。読んで字のごとく、機体と地面の間の距離だ。洋上なら海面を基準とする気圧高度と対地高度は同じと考えてよいが、地上では地形によって違ってくる。気圧高度計が同じ数字でも、東京湾の真上と富士山頂の真上では3776メートル(12388.5フィート)の違いが生じる。
機体の側面に静圧口を開けておけば、外部の気圧を知ることができるので、高度の測定に利用できる。しかし、それで作動させられるのは気圧高度計であって、対地高度はわからない。
船だと、水深を知るために錘を付けたワイヤーを海中に放り込むことがあるが、飛行機でそんな手は使えない。そこで電波高度計が登場する。機体から真下の地面に向けて電波を発信して、反射波が戻ってくるまでの時間で距離(すなわち対地高度)を計測する。
電波高度計の場合、真下に電波を送信することが重要だ。斜め方向に向けて電波を送信したら、対地高度が水増しされてしまって危ない。
なお、前回も触れたが、GPS(Global Positioning System)は緯度・経度に加えて高度も把握できる。この高度は海面を基準とする高度だから、対地高度ではない。もっとも、地上の地形データを加味すれば対地高度もわかるが、事前に用意すべきデータ量が膨大になってしまう。それに地形は常に一定ではないから、やはり対地高度を知るには電波高度計が確実だ。
針路や方位を知る方法
針路(機体がどちらを向いて飛んでいるか)と方位(どちらが東西南北か)がわからなければ、航法のやりようがない。
わかりやすいのは磁気コンパス(方位磁石)だが、御存じの通り、方位磁石が指す北(磁北)と北極点は同じではない。また、機体が水平直線飛行している時は問題なくても、旋回した時に誤差を引き起こすこともあるそうだ。
もちろん、どんな飛行機でも万一の備えとして磁気コンパスは備えているが、普段はもっと信頼性の高い手段を使う。というわけでジャイロコンパスが登場する。
高速回転するコマを中核とするジャイロスコープには、回転軸の方向を保とうとする性質がある。そして、自転する地球の表面で回転軸を水平に保つと、回転軸が南北を向く作用がある。これを利用すると、回転軸が向いている向きがすなわち南北方向だから、それによって方位がわかるし、機体の向きとの差分から針路を知ることもできる理屈である。
最近ではAHRS(Attitude and Heading Reference System)といって、ジャイロで割り出した基準線を使って、方位・針路だけでなく機体の姿勢まで把握できるメカがある。ジャイロスコープを活用するところは共通しているから、ワンセットにしてしまうわけだ。
先日、マイナビニュースに「ADI、タクティカルグレードの最上位IMUを発表」という記事が掲載された。IMU(Inertial Measurement Unit)といわれても、航空機やミサイルに興味がある方でなければ、何のことだかわからなかったかもしれない。
IMUは、日本語では慣性計測ユニットといい、ジャイロスコープを使って姿勢・方位の計測を行うメカである。実は、精確な航法や姿勢制御のためには重要なデバイスである。ちなみに、目下の主流は物理的にコマが回転する機械式ジャイロスコープではなく、三角形の光路にレーザー光を流すリング・レーザー・ジャイロである。