今回は単発として、以前から温めていたテーマについて書いてみたい。メカニズムというよりも、経営の話になってしまうのだが。

機種統一は合理化の基本

鉄道趣味の世界では、「同じタイプの車両しか来ない」といって人気が上がらない路線や会社がある。実は空の上でも、同一機種、あるいは同一シリーズの機種でフリートを統一している事例は少なくない。

趣味的見地からすると面白みに欠けるが、経営的見地からすれば、同じタイプで統一することの利点は大きい。乗務員の訓練、機体の保守整備、不具合発生時の予備機との交換。いずれをとっても、同一機種で揃えておく方がメリットが大きい。それに、すべて同一仕様の同型機で揃えておけば、予備機や予備品の在庫も抑制できる。

可能であれば、客室の座席配置までそろえたい。座席配置が何種類もあると、「機材変更に伴う座席指定の強制変更」がかかることがあるからだ。これは筆者も何回か経験があって、国内線なのに、国際線仕様の737や767がアサインされたこともある。しかし座席配置が全機同一なら、そういう問題は起きない。

陸の上にも同様の事例がある。いわずと知れた東海道新幹線のことだ。系列に関係なく基本性能もハコごとの定員も同じだから、共通性は極めて高く、柔軟な運用を可能にしている。故障が発生した時の運用差し替えもやりやすい。

エアラインにおけるフリートの機種統一で、以前から有名なのは、737シリーズで統一しているアメリカのサウスウエスト航空。ただし「シリーズ」だから、737の複数サブタイプが混在してはいるが。

  • アメリカのサウスウエスト航空は、フリートを737シリーズで統一している 撮影:井上孝司

    アメリカのサウスウエスト航空は、フリートを737シリーズで統一している

サウスウエスト航空と比べると知られていないが、アラスカ航空も737シリーズを主力としている。例外として、2016年にヴァージン・アメリカから中古のA320を10機購入しているが、これは売却して737MAXに置き換える話が決まっている。

アラスカ航空の737MAXは、737MAX 9でそろえている。まず、2012年10月に確定32機、オプション37機の発注を決定。続いて2020年11月に13機をリースで導入すると発表、これが前述したA320の代替用となる。そして2020年12月に確定23機、オプション15機の発注を決定。オプション契約分まで含めたトータルで120機となる。

経費抑制についてシビアなLCC(Low Cost Carrier)でも、フリートの機種統一は一般的な手法だ。面白いことに、LCC業界では737シリーズよりもA320シリーズに人気があるように見受けられる。

しかし現実には、複数機種を併用している事例も多い。明らかに需要が少ないのに大型機を飛ばせば無駄が出るし、航続距離が短い機材で長距離路線は運航できない。また、ETOPS(Extended Twin Engine Operations)の認証が降りていない機体で長距離洋上飛行を行うわけにも行かない。

どうしても「適材適所」という場面は出てくるので、それは結果として機種を増やす方向に働いてしまう。また、同一シリーズの機体でフリートを統一すると、それが機種更新の足かせになる可能性につながりかねないのは、悩ましいところではある。

合併はフリートを複雑化する

特に合併を重ねて規模を拡大してきたエアラインでは、同じカテゴリーで複数の機種、それもメーカーまで異なる機材が混在してしまう傾向にある。それでは効率がよろしくないから、何かきっかけがあればフリートの整理統合に出る場面も生じるというもの。

例えば、アメリカン航空は「COVID-19の影響」と「過去の合併によって複雑化した機種を整理する」という事情から、一部機種の退役を決めた。俎上にのぼったのは、757-200(旧アメリカウエスト航空と自社で発注)、A330-300(旧USエアウェイズで発注)、エンブラエル190(同)、767-300ER(自社で発注)、CRJ200(旧パシフィック・サウスウェストで発注)といった顔ぶれ。

  • アメリカン航空の子会社、アメリカン・イーグルのCRJ。アメリカ国内の短距離路線を担当している 撮影:井上孝司

    アメリカン航空の子会社、アメリカン・イーグルのCRJ。アメリカ国内の短距離路線を担当している

実際、アメリカン航空の機内誌には保有機材の側面図を並べた紹介ページがあるのだが、それを見て「なんでこんなに機種が多いんだ」とビックリしたものだ。もちろん、米国内外に路線網を広げている大手ゆえに、機材のラインナップが豊富になるのは致し方ない部分もあるのだが、それも程度問題である。

合併によって、それまでなじみがなかったメーカーの機材がフリートに加わる事例も、ままある。また、同じ系列の機種でも仕様が違う機材が混在してしまうこともある。日本航空と日本エアシステムが合併した時にフリートに加わった、MD-80/90シリーズやA300シリーズは前者の例。777-200は後者の例といえるだろう。

今でも、旧・日本エアシステムの777-200には現役の機体がいる。外部塗装が統一され、後日に機内仕様も「SKY NEXT」仕様で統一されたが、以前は違っていた。一度、那覇から羽田まで旧・日本エアシステムの777-200(JA8978)に乗ったことがあり、仕様の違いは体験済み。

経済性の高い機種に統合する

フリートの整理統合は、単に機種をそろえるというだけの話ではない。経済性が高い新型機を残して、古い機材や不経済な機材を退役させる、というやり方もある。それは結果として、運航経費を抑制して企業体力を強化することになる。また、新型機のほうが設備面で優れているのが普通だから、サービス水準の底上げにもなる。

COVID-19の影響を被りつつも、日本航空がA350の受領を続けている理由がそれ。A350で古い777を置き換えることで、結果的に経済的な運航が可能になる。デルタ航空も、18機ある777-200を退役させて、A350に集約する方針を打ち出した。MD-88やMD-90の退役は以前から予定していたが、これも前倒しするという。

また、COVID-19のトバッチリをもろに受けた機種としてエアバスA380とボーイング747がある。2020年以降、あちこちのエアラインで「A380が退役」「747が退役」というニュースが出てきているのは、民航機に興味がある方なら御存じの通りだ。これも、経済性が高い機体に統一する流れに沿った動きである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。