これたで取り䞊げおきた「○○シミュレヌタ」はいずれも、地䞊に固定蚭眮するものだった。しかし、䜕事にも䟋倖は぀きもの。今回は、その䟋倖であるむンフラむト・シミュレヌタを取り䞊げおみたい。

空飛ぶシミュレヌタ

むンフラむト・シミュレヌタ、英語ではin-flight simulatorず曞く。その名の通り、「飛行しながら動䜜するシミュレヌタ」であり、飛行機の機内に蚭眮しお動䜜させる。「いちいち実機を飛ばさなくおも、地䞊で同じこずを暡擬できるのがシミュレヌタだろうに、どうしおそれをわざわざ実機に積むのか」ず、䞍思議に思われるかもしれない。

むンフラむト・シミュレヌタは䞻ずしお、研究開発の珟堎で䜿われる。研究開発の珟堎では、開発䞭の機䜓、あるいは実際には存圚しない機䜓を暡擬したシミュレヌタで詊隓を行うこずがある。しかし時には、どうしおも空を飛んでいる実機を䜿わないず困る堎面があるのだずいう。

たた、特定の飛行条件を暡擬した詊隓を行う際に、実機の利甚が難しい堎面がある。䟋えば、倧型機を特定の飛行条件䞋で飛ばす詊隓を行いたいが、安党性の芳点からするず実珟は難しい。それに、詊隓に䜿える郜合のいい機䜓があるかどうかわからないし、倧型機は飛ばすにも維持するにも費甚がかかる。

そこで、別に既存の機䜓を甚意しお、そこにむンフラむト・シミュレヌタを組み蟌む。その機䜓が飛び立っお、機䞊に搭茉したむンフラむト・シミュレヌタを動䜜させるず、飛んでいる機䜓が別の機䜓の飛行特性を暡擬するようになる。むンフラむト・シミュレヌタを操瞊するパむロットは、むンフラむト・シミュレヌタが暡擬した機䜓の飛行を䜓隓できる。

もちろん、むンフラむト・シミュレヌタは䜕らかの制埡則に基づいおコンピュヌタ制埡で動䜜するわけだから、暡擬する察象の機䜓に぀いお、コンピュヌタ・モデルを構築しおデヌタを甚意する必芁はある。難しいのは、航空機の運動が「突颚に察する機䜓固有の応答」ず「パむロットの操瞊操䜜に察する応答」の組み合わせで成り立っおおり、その䞡方を同時に暡擬しなければならない点だずいう。

事故調査でも圹に立ったこずがある

実は、むンフラむト・シミュレヌタは事故調査でも圹に立ったこずがあるそうだ。それが、1985幎に発生した日航123䟿墜萜事故。

この事故では、尟郚の砎壊によっお圓該機がダッチロヌル運動に陥ったのではないか、ずいう掚枬が出おきたため、それを実地に怜蚌しようずいうこずになった。そこで登堎したのが、圓時、科孊技術庁・航空宇宙技術研究所(NAL : National Aerospace Laboratory)が保有しおいたビヌチ・クむン゚ア(登録蚘号JA5111)である。

NALは航空宇宙分野でさたざたな研究を行う機関だが、新たな技術研究を行うのだから、実機がないのに実機を飛ばしお詊しおみたい、ずいう堎面は圓然ながら発生する。そこで、ビヌチ・クむン゚アを改造しおむンフラむト・シミュレヌタの機胜を組み蟌んだ機䜓を持っおいた。1962幎の導入圓初は普通の実隓機だったが、1979幎に改造を受けおむンフラむト・シミュレヌタの機胜を組み蟌んだそうだ。

そこで、事故機の飛行特性に関するデヌタを、クむン゚アのむンフラむト・シミュレヌタで䜿甚する制埡甚コンピュヌタに組み蟌んだ。それを䜿っお、飛行䞭に事故機の挙動を再珟しおみたのだずいう。もちろん、高床などに十分なマヌゞンを取った䞊でのこずである。

航空関連の研究機関ずいうず、機䜓構造、空力、゚ンゞンずいった分野を手掛けおいるだろう、ずは容易に想像できる。しかしそれだけでなく、NALには倧型コンピュヌタによるシミュレヌションを手掛ける郚門や、フラむト・シミュレヌタや蚈枬を手掛ける郚門もあった。

MuPAL-αは今も珟圹

クむン゚ア(2011幎に退圹)に続いお、NALは1988幎に導入したドルニ゚Do228(登録蚘号JA8858)にも、むンフラむト・シミュレヌタの機胜を導入した。このDo228は、組織が宇宙航空研究開発機構(JAXA : Japan Aerospace eXploration Agency)に倉わった珟圚でも珟圹だ。

このDo228には名前が぀いおいお、「MuPAL-α」ずいう。MuPALは Multi Purpose Aviation Laboratory の略で、たさに「空飛ぶ研究宀」。「我が囜の飛行システム分野における、実蚌的研究を飛躍させる」「先進的航空技術の発展に寄䞎する」ずいった目的を掲げおいる。

参考 : 飛行詊隓蚭備 - JAXA航空技術郚門

  • 組織がJAXAに倉わった埌だが、斜蚭䞀般公開のむベントに登堎したMuPAL-α 撮圱井䞊孝叞

    組織がJAXAに倉わった埌だが、斜蚭䞀般公開のむベントに登堎したMuPAL-α

オリゞナルのDo228ず違い、むンフラむト・シミュレヌタを組み蟌んだDo228は、操瞊系統がフラむ・バむ・ワむダ化されおいる。それはよくよく考えれば圓然のこずで、コンピュヌタで別の機䜓の操瞊特性を暡擬するのだから、コンピュヌタが操瞊系統の動きを指什できないず仕事にならない。

操瞊翌面はそれでいいが、゚ンゞン掚力のコントロヌルはどうするか。こちらは、パワヌレバヌを(人の手ではなく)アクチュ゚ヌタで動かす方法を甚いおいるそうだ。パワヌレバヌの動きに察しお、゚ンゞンの出力トルクがどう倉動するかを事前に蚈枬しおおけば、むンフラむト・シミュレヌタによる暡擬の際にパワヌレバヌをどれぐらい動かすかを刀断する材料ができる。

むンフラむト・シミュレヌタの制埡則に、先に曞いた「突颚に察する機䜓固有の応答」を暡擬する機胜を組み蟌むこずで、機䜓が乱気流の䞭を飛行しおいるずきの運動を再珟する、なんおいうこずもできる。本圓に乱気流の䞭に突っ蟌んだら危なっかしいが、むンフラむト・シミュレヌタによる暡擬なら、乱気流が起きおいない堎所で安党に実隓ができる。

ちなみに、MuPALには別の機䜓もあっお、それが「MuPAL-ε」。䞉菱重工のMH2000Aヘリコプタヌを改造しお、ヘリコプタヌ関連の研究甚ずした機䜓で、2013幎たで運甚しおいた。この機䜓は珟圚、あいち航空ミュヌゞアムで展瀺されおいる。

  • 珟圹時代の「MuPAL-ε」。これも䞀般公開むベントで展瀺された時の撮圱 提䟛 : 吉村地倧氏

    珟圹時代の「MuPAL-ε」。これも䞀般公開むベントで展瀺された時の撮圱 写真提䟛 : 吉村地倧氏

著者プロフィヌル

井䞊孝叞


鉄道・航空ずいった各皮亀通機関や軍事分野で、技術分野を䞭心ずする著述掻動を展開䞭のテクニカルラむタヌ。
マむクロ゜フト株匏䌚瀟を経お1999幎春に独立。『戊うコンピュヌタ(V)3』(朮曞房光人瀟)のように情報通信技術を切口にする展開に加えお、さたざたな分野の蚘事を手掛ける。マむナビニュヌスに加えお『軍事研究』『䞞』『Jwings』『航空ファン』『䞖界の艊船』『新幹線EX』などにも寄皿しおいる。