以前、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社が壱岐空港でガーディアンUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の飛行試験を行った際の地上における機体のハンドリングを紹介した。それと関連する話題として、今回から、地上におけるオペレーション、そしてハンドリングにフォーカスしてみよう。

エンジンがかかっていれば自力で走れる

以前の記事で説明した通り、ガーディアンUAVを仮設格納庫から出し入れする際は、人手で押したり、車両で牽引したりしていた。

そうしなければならないのは、エンジンがかかっていない場合。なにもガーディアンに限らず、大型の旅客機だって同じである。空港の展望デッキから見ていると、エンジンを止めたまま、トーイングカーに牽かれて空港内を移動する機体を見かけることがある。

  • 羽田空港で、トーイングカーに牽かれて移動する政府専用機。この日は週末だったので、展望デッキは政府専用機を狙う人で大賑わい

エンジンがかかっていれば、タキシングや方向転換は自力でできる。基本的にバックはできないが、たまに例外があって、そのひとつがボーイングC-17AグローブマスターIII輸送機。筆者が撮影した動画を以下に示す。

さて。壱岐空港には誘導路というものがなく、滑走路の中程から枝分かれする形で駐機場があるだけだ。だから、駐機場を出た機体は、まず滑走路に出て、風下側の端に向かう。

滑走路の端までタキシングしてきたところで、反対側に向けて方向転換する。これは民航機も同じだから、滑走路の端だけ少し幅を広げて、方向転換用のスペースを作ってある。

ガーディアンのベースモデルであるプレデターBのデータシートを見ると、全長11m、翼幅20m、これは、長崎-壱岐線に就航しているオリエンタルエアブリッジのDHC-8-201より小さい数字なので、滑走路端のスペースでは、余裕を持って方向転換できる。

と理屈の上ではわかっていても、無人の機体が滑走路端までタキシングしてきて、そこでクルリと方向転換する様子は、見ていてなかなか面白かった。

では着陸はどうかというと、着陸滑走距離が短く、駐機場への分岐にさしかかる頃には十分に減速できていた。だから、そのまま駐機場に入って行ってしまった。

しかし、駐機場への分岐にさしかかるまでに十分に減速できない機体はどうするか。それは簡単な話で、滑走路の終端まで行って、そこで方向転換して駐機場までタキシングするのである。離島航路の旅客機に乗れば、日常的に体験できることだ。

壱岐空港にはトーイングカーがない

自力で方向転換するのは、壱岐空港に出入りしている定期便のDHC-8-201も同じである。「でも、出発の際にはトーイングカーに押し出してもらわないといけないのでは?」と思いそうになるが、それはボーディングブリッジを備えた大規模空港の場合である。

壱岐空港に限らず、小さな空港だとボーディングブリッジがない。ターミナルビルを出たら、飛行機が駐機しているところまで、駐機場を歩いて移動する。つまり、「いわゆる沖止めの状態が既定値、ただし機体は目の前にいるからバス移動は省略」と考えてもらえば良い。

実は、発地の長崎空港も同じであった。目の前というには少し遠かったから、雨が降ったら嫌だったかもしれないが、搭乗当日は好天だった。

こうした作りは壱岐空港に限らず、他の小規模空港にも見られる。昨年、ATR42の取材で訪れた沖永良部空港もそうだった。ただし、壱岐空港ではターミナルビルに機首を向けて駐機していたが、沖永良部空港では方向転換して、駐機場の出口(滑走路側)に機首を向けかけた状態で駐機していた点が異なる。

  • 沖永良部空港に到着したATR42。駐機場に入ったところでクルリと方向転換して、滑走路の方に機首を向けたところで駐機して降機・搭乗を行う

ボーディングブリッジを使わない場合、機首をターミナルビルにギリギリまで寄せる必要はない。だから、自力で前進しつつ方向転換するだけの空間的な余裕はとれる。自力で方向転換して滑走路に出て行けるのであれば、プッシュバックするためのトーイングカーはいらない。

すると普段は用がないため、壱岐空港にはトーイングカーの配置がない。その結果、壱岐空港でガーディアンUAVを飛ばした時は、牽引車まで持ち込む必要が生じた。さすがにこれはアメリカから持ってきたわけではなくて、日本国内の空港で使っているものを借りてきたようだ。

ただ、羽田空港などで見かけるプッシュバック用のトーイングカーと比べると、小型の車両だった。外観からすると、駐機場で貨物用コンテナを載せたトレーラーを移動する際に使っている牽引車(トーイングトラクター)のように見受けられた。

ガーディアンUAVはそんなに重い機体ではないし、人力で押して動かせるぐらいだから、小型のトーイングトラクターがあれば十分である。

ホテル・モード

最後に余談を1つ。ATR42とATR72には、「ホテル・モード」という機能がある。

普通、地上でエンジンを止めている場合は、電力や圧縮空気の供給源として、補助動力装置(APU : Auxiliary Power Unit)と呼ばれるガスタービン・エンジンを使う。ところが、ATR42やATR72はAPUを持っていない。

飛行場によっては、APUを動かさなくても済むように、空港に圧縮空気や電力を供給する仕掛けを用意しているところもある。しかし、ATRの機体が就航するような小さな空港では、そんな設備は期待しがたい。

そこで登場するのがホテル・モード。なんのことはない、右舷側の2番エンジンをAPUの代わりに作動させて、電力や圧縮空気を供給するというものである。

ただし飛行中と違うのは、プロペラと、そのプロペラを回転させるためのパワー・タービンは作動させないこと。ともあれ、APU、あるいはホテル・モードで動作するエンジンが電力や圧縮空気を供給してくれれば、地上側に支援のための設備や車両を用意しなくても済む。

なお、ホテル・モードで使用するエンジンは2番エンジンに限られる。なぜなら、左舷側の1番エンジンを作動させたら、後方に噴出する高温の排気ガスのせいで、後部の扉からの乗降ができなくなってしまう。

なんでこんな仕掛けを採用したかというと、APUを省略できる分だけ機体が軽くなり、機内のスペースも浮くからだ。機体が軽くなれば燃料消費が減るし、メカが減れば整備経費が減る。そんなこんなで年間24,000ドルの経費節減効果があるとされている。

ちなみに、ライバルのサーブやボンバルディアは普通にAPUを積んでいる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。