新幹線には電気軌道総合試験車(東海道・山陽新幹線は「ドクターイエロー」、東北・北海道・上越・北陸新幹線は「East i」)というものがあって、結構な人気者である。これ、実は軌道や電車線(架線)の状態だけでなく、信号・通信関連も検測の対象にしている。信号装置の動作に異常があれば、安全の根幹に関わる大問題だからだ。

飛行点検機という飛行機

実は、飛行機の分野でも似たような仕事をする機体がある。それが、飛行点検機とかフライトチェッカーとか呼ばれるものだ。検査の対象は、飛行場などに設けてある航法援助施設である。

つまり、超短波全方向式無線標識(VOR : VHF Omnidirectional Range)、距離測定装置(DME : Distance Measuring Equipment)、TACAN(Tactical Air Navigation)、計器着陸システム(ILS : Instrument Landing System)といった機器が、正常に動作しているかどうかを確認するのが仕事だ。

正常に動いていて当たり前……とは言い切れない。1972年6月14日に日本航空のDC-8がインド・ニューデリーのパーラム国際空港(現名称はインディラ・ガンディー国際空港)に着陸進入した際、滑走路より手前に墜落する事故が発生した。

この事故の原因を調査する過程で、当該空港のILSがおかしな電波を出している、との話が取り沙汰された。最終的には、ILSは原因ではないという判断になったが、パイロットから「異常電波」の報告があれば、真偽の程は確認しなければならない。

それに、ILSは(特に夜間や悪天候下では)安全な着陸進入を支える根幹になるし、事故が起きた時に「いや、ILSは正常に機能していた」と言えるだけのエビデンスが必要だ。それで、飛行点検機を出して定期的に機器の動作を検査することになる。

民間空港については、国土交通省の航空局が自前の飛行点検機を持っていて、それを飛ばしている。機種はガルフストリームIVやボンバルディア・BD-700グローバルエクスプレスなど。

自衛隊の飛行場については、陸海空に関係なく、航空自衛隊の航空支援集団麾下に置かれている飛行点検隊(入間基地)が担当していて、機種はU-125とYS-11FCを使っている。

面白いことに、航空局はガルフストリームIVとBD-700の後継機としてセスナ・サイテーションCJ4(525C)の導入を決める一方で、航空自衛隊はYS-11FCの後継機としてセスナ・サイテーション680Aの導入を決めた。まったく同一のモデルではないが、図らずも軍民双方が同じ用途でサイテーションを飛ばすことになる。

セスナというと、レシプロ・エンジンで飛ぶ軽飛行機の代名詞みたいに扱われているが、実はビジネスジェット機の分野でもけっこうなシェアを持っている会社である。

  • 新幹線に、ドクターイエローのような電気・軌道総合試験車があるように……

  • 空の上では、国土交通省の航空局が飛行点検機を飛ばしている。複数の機体があるが、これはガルフストリームIV

飛行点検機のキモ

飛行点検機は、主として電波を扱う航法・通信関連の施設を対象としており、通信や解析を行う機材を搭載して、各地の飛行場を飛び回っている。

稼働中の施設を対象とする定期的な検査だけでなく、飛行場の新設、航法・通信施設の移転や更新、故障発生後の運用再開における検査、といった具合に、さまざまな出番がある。

検査を行うには、検査対象の飛行場で離着陸できなければならない。実は、これが飛行点検機の機種選定に際して重要なポイントになっている。検査機材の搭載スペースや居住性のことを考えれば、大型の機体のほうがいいのかもしれないが、そうすると滑走路が短い飛行場での離着陸ができなくなる。

近年、民間空港はジェット化が進んで全般的に滑走路長が長くなってきているが、それでも滑走路長が短い飛行場はある。例えば、札幌の丘珠空港は1,500mだ。検査対象に含まれているのであれば、滑走路が短くても何でも離着陸しなければならない。

そこで機体の仕様を見てみたら、航空局が導入したセスナ・サイテーションCJ4は離陸滑走距離3,410ft(1,039m)、着陸滑走距離2,940ft(896m)。これなら1,200m級の滑走路でも問題なさそうだ。

つい素人考えで「航空自衛隊のYS-11飛行点検機が退役するのなら、後継機としてMRJなんかどうだ」なんていうことを考えてしまうのだが、この「対象の飛行場で離着陸できること」が制約になっていて、簡単に「そうしましょう」とはいえないようである。YS-11とU-125の2本立てになっている一因も、その辺にあるらしい。

  • 航空自衛隊が飛ばしている飛行点検機の1つ、U-125

  • もう1つが、このYS-11-103FC。FCはFlight Checkerの略。これの後継機がサイテーション680A

そこで1つ気になったのが、ヘリコプター専用の基地。例えば、海上自衛隊の大湊航空基地には600mほどの短い滑走路がある。しかし、ここの部隊が保有しているのはヘリコプターだけだから、固定翼機は離着陸していないだろう。そんな場所の飛行点検はどうなっているのだろうか。ヘリ専用なら、ILSはなさそうだが。