これまで本連載では、日本国内におけるO2Oの歴史に始まり、現在における業種ごとのO2O施策や、オムニチャネルなどにつながる先進的な取り組みを解説してきた。最終回となる今回は、前回の連載でも触れた「アプリ接客」というキーワードを基に、今後のO2Oにおける流れを予測したい。

接客機能をアプリが担う意味とは

そもそも、なぜ「接客」をアプリで行うことが求められるのだろうか。

クーポンやポイントカードの電子化には「ユーザーの手元に確実に届き、即時にアプローチができる」「電子化により利用状況を可視化できる」などのメリットがある。しかし、特典に頼った集客のみではいずれ利益を圧迫し、顧客が「クーポン待ち」の状態となってしまう。すなわち、リピート集客のハブとなるべきアプリが、新規集客のためのクーポンサイトと同様の状態へと陥りかねないという危惧が生まれるのである。

本連載で以前述べた通り、この数年で店舗の公式アプリは激増し、主要チェーン店舗ではスマートフォンサイトからアプリへと切り替えの動きが活発化している。アプリを使っての販促・集客が一般化した証拠ではあるものの、企業にとっては競合企業が増え、単純な特典戦略だけでは差別化が難しくなっているとも言えるだろう。

こうした背景を踏まえ、各企業の特徴的な接客サービスや独自性の高いコンテンツをアプリ内に取り込み、能動的なアプリ利用から接触頻度を増やすことで、来店やEC利用につなげるための施策が「アプリ接客」と言える。

基本的な運用があってこその「アプリ接客」

とはいえ、どれだけ専門的な機能を搭載したアプリであったとしても、基本的な運用がおぼつかなければ顧客の固定化は望むべくもない。アプリといえど、基本的な運用はWebやSNSにおける企業アカウントの運用と同様に、継続的かつ変化に富んだ内容を定期的に発信することが基礎中の基礎である。

ユーザーはアプリを初めて起動した時、最終更新が数カ月前であったら、その瞬間にアンインストールするだろう。LINEやFacebookなどのSNSに比べ、アプリをわざわざインストールするユーザーは店舗に対してのエンゲージメントが高く、ロイヤルカスタマーに昇華する可能性が極めて高い"予備軍"と言える。その"予備軍"の期待を打ち消さないだけの積極的な情報発信や、イベントに絡めてのクーポン発信などの打ち手は必須であり、「アプリ接客」が成立するための最低限の条件とも言える。

2018年のO2O展望

2018年は、上記で述べた「アプリ接客」の流れが加速することが大いに考えられる。Webサイトが20数年の時を経て進化を遂げたのと同様に、アプリ上でできることの幅がより広がり、多様な業種に応じたコンテンツがアプリ上で展開されるようになるだろう。

例えば美容・エステなどの業種であれば、顧客とスタイリストの距離感を縮めるための接客機能や、学校・住宅展示場などであればVRによるイメージ図の展開が行われるだろう。また、テイクアウト業態の飲食店であれば商品受け取りの時間指定など、それぞれの接客対応や業種の特性に応じた機能・コミュニケーションが実装され、より業種ごとの特色の強いアプリがリリースされていくことが考えられる。

また、東京五輪の開催に向けたインバウンド対策も重要な要素と言える。自治体での多言語対応は既に動きを見せているものの、交通などのインフラや飲食店など、多言語対応に対する需要は言わずもがな加速している。同業他社に先駆けて、各社がどのような機能・接客フローを盛り込んでくるかに注目が集まる。

終わりに

これまで本連載では、タイトルにあるように「知っているようで知らない」O2Oというキーワードの概要からその起源、また業種ごとによる施策事例などを紹介させていただいた。特にこの10年、フィーチャーフォンからスマートフォンへの大きなシフトの流れの中で、各企業でのO2Oにおける取り組みも複雑に進化し、各企業がその理念やサービスをアプリの中に込めて、顧客満足度の最大化を図っている。

これから先の10年では、過去10年と同様もしくはそれ以上のパラダイムシフトが起きてもまったく不思議ではない。その中で、新たなる潮流をいち早くキャッチし、顧客に対しての新たな価値を提供することができるかどうかが、店舗の集客からロイヤルカスタマー化への大きな鍵を握るだろう。

著者プロフィール

谷内 亮介


GMO TECH株式会社 O2O事業部 メディアプロデュース部 マネージャー。大学卒業後、私立大学事務局や広告代理店などの勤務を経て、2013年に株式会社ぐるなびへ入社、ビッグデータ・O2Oを用いた販促商品企画に携わる。2016年3月に当社入社。O2Oアプリ作成ASPサービス「GMOアップカプセル」の企画・プロモーション・アライアンスを担当。