ジャパンディスプレイ(JDI)は、8月9日に行った2025年度第1四半期決算発表において、「新生JDI」の実現に向けた進捗状況について説明。2025年6月1日付で、代表執行役社長CEOに就任した明間純氏は、「2025年7月に、いちごトラストに対して、知財子会社の株式を譲渡したことにより、当面の運転資金を確保できた。知財子会社株式の譲渡や、今後の茂原工場資産の譲渡による利益計上によって、財務健全性の回復を見込んでいる。さらに、固定費の大幅低減と、事業効率化に向けて構造改革を着実に推進中であり、事業ポートフォリオの再構築にも強い手応えを感じている。2026年度の黒字化を確実に達成し、持続的な成長基盤を構築していく」と宣言した。
明間社長CEOは、1976年11月生まれ。2002年4月にセイコーエプソンに入社。2004年10月にエプソンイメージングデバイス、2010年2月にSUZHOU EPSON Co., Ltdに出向。2015年4月にジャパンディスプレイに入り、調達本部統合調達部鳥取調達課に勤務。2017年6月にモバイル事業統括本部 E-サイネージ事業部 E-サイネージ事業企画部、2022年3月に生産本部調達統括部(現生産・品質本部調達統括部)の統括部長に就いた。2025年6月に、JDIの社長 CEOに就任した。
前任のスコット・キャロン会長兼CEOは退任し、無報酬の非執行取締役会長に就いている。キャロン氏は、業績不振に対する業務執行の責任を取り、本人の申し出によって辞任している。
JDIの明間社長CEOは、「コスト削減と収益向上施策の効果によって、損益分岐点を大幅に低減し、黒字化の実現を図る」との方針を示し、2024年度には3085億円だった損益分岐点売上高を、2025年度には2521億円にまで低減。さらに、2026年度には630億円まで引き下げる方針を示している。
それに向けて、「茂原工場の生産終了」、「希望退職者の募集による人員削減」、「子会社であるAutoTechの設立」という3点にフォーカスした構造改革を実施しているところだ。
「茂原工場の生産終了」では、、生産終了時期を、当初予定の2026年3月から、2025年内に前倒し、収益性向上と財務基盤強化に向けた資産売却を早期に推進するという。
「お客様にも協力を得て、前倒しで生産を終了できる見込みである。これにより、大幅な費用削減と、茂原工場のAIデータセンターへの転用を早期に実現する。茂原地区にある研究開発装置は石川工場に早期移設し、石川工場のMULTI-FAB化を加速する」と述べた。
「希望退職者の募集による人員削減」については、国内従業員数 2639人に対して、1500人程度を募集する大規模な人員削減策を発表しており、「8月に入った時点で1500人程度の応募がある。大変心苦しい状況ではあるが、身の丈にあった体制づくりに向けて、着実に進んでいる。人員縮小にあわせて、10月1日付で、大幅な組織変更を実施する予定である」とした。
希望退職は、全拠点の正規雇用従業員および契約社員を対象にしており、8月25日に募集を終了する。主力工場のひとつである石川工場では、現在400人が従事しており、人員削減により、300人強の人員体制になると見込んでいる。
また、海外拠点の人員削減についても取り組んでおり、「国や地域にあわせて進めており、一部地域では従業員を半減させる施策を実施している」とした。
3つめの「子会社であるAutoTechの設立」では、車載事業を子会社化し、独立した柔軟な経営体制を持つ企業として、2025年10月1日付で、株式会社AutoTechを設立。独立した経営判断と迅速な意思決定を実現するとともに、外部資金調達の可能性を拡大し、他社との協業を含む将来の戦略的選択肢の拡大にも取り組むという。
「車載事業の子会社化の実施に向けて、戦略の検討や、組織および人員体制の再編、サプライチェーン整備、ガバナンス体制構築などを推進しているところである。社内体制の整備や外部対応も加速している」と報告した。また、「車載事業やJDIの技術リソース、顧客基盤に興味を持っているパートナーがいる。こうした動きをAutoTechの成長につなげたい」とも述べた。車載パネルに関しては、2024年12月に協業を発表した台湾イノラックスとのパートナーシップがあるが、「あらゆる面で会話を続けている」と述べた。
また、「車載市場は厳しい環境にある。EVは中国を中心に高い伸びを見せているが、中国市場では中国ディスプレイメーカーが強い。価格面で勝つことが難しく、採用が遅れている。汎用的なディスプレイは勝てないと考えている。ひとつの画面で2つの画像を表示する車載向け 2 Vision Display (2VD)などの高付加価値ディスプレイを提供し、差別化を図る」と語った。
JDIでは、これらの構造改革の成果として、2026年度には、黒字化を実現する計画であり、688億円の利益改善効果を見込む。具体的な内訳は、ディスプレイのミックス改善やセンサーの販売増加、半導体パッケージング事業に推進による効果を創出する「BEYONDDISPLAY戦略」によって124億円の利益改善を計画。茂原工場や鳥取工場の生産終了、人件費削減による「固定費削減(工場・人員)」で464億円の利益改善、物流費減少や販管費削減による「固定費削減(物流・販管費)」で100億円の利益改善をそれぞれ見込んでいる。
一方、JDIでは、いちごトラストに対して、第14回新株予約権を割り当て、7月15日に実行。行使価額1株当たり25円とし、総額964億円を調達。運転資金の拡充と、BEYOND DISPLAY戦略の実現に向けた成長資金を確保することができたという。
また、7月30日には、保有する知財の売却を目的に知財子会社の株式を、いちごトラストに譲渡。さらに、2025年9月下旬以降に、茂原工場の不動産を売却し、売却資金によって、いちごトラストからの借入金の650億円を返済し、負債圧縮とともに、利息負担の軽減を行い、財務体質の改善につなげる計画だ。
BEYOND DISPLAY戦略を支える事業ポートフォリオについても説明した。
BEYOND DISPLAY戦略は、2024年11月に、早急な黒字転換と持続的な成長を実現するために策定した施策で、高成長が見込まれる先端半導体パッケージング事業への参入と、センサー事業への経営資源のさらなる投入、赤字が続くディスプレイ事業のアセットライト化による費用削減に取り組むことを柱とする。
センサー事業においては、静電容量タッチパネルを応用した新たな入力・IoTセンサーデバイスである「ZINNSIA」が、アミューズメント領域やロボティクス領域を中心に、活発な商談が進展しており、2025年度中の売上げ計上を目指しているという。「商談のなかには、2025年度中に量産する案件もある。早期立ち上げの手応えがある」と述べた。
医療用X線センサーでは、鳥取工場で生産していたアモルファスシリコン(α-Si)によるX線センサーを、酸化物半導体(OS)に切り替え、より高感度な製品として、石川工場での開発が完了したという。「多くの医療機器メーカーと商談を進めている」(明間社長 CEO)としている。
指紋センサーは、すでに出荷を開始しており、これまでのFAP10、同20、同30のラインアップに加えて、大型のFAP50を追加したという。「個人認証を必要とする金融分野のほか、選挙などのシーンでも応用できる」とした。
医療用デバイスの「SOLTIMO」は、シャーレ上で培養検査を効率化するセンサーを生産開始しており、解析ソフトウェアを含めたサービスを提供しているという。
また、先端半導体パッケージングについては、「ディスプレイ生産で培った技術の応用と、パートナーとの協業によって市場参入を図ることになる」と前置きし、「台湾のPanelSemiと共同で、先端半導体パッケージングを開発中しているほか、世界で初めて、セラミックの基板上に、Line & Space=2μm/2μmの高精細な銅配線を実現することができた。展示会で紹介したところ、多くのお客様、パートナーから声をかけてもらっている。あらゆる素材に、高精細RDL配線を形成することで、消費電力や発熱に伴う問題を解消できる。新たなパッケージング技術を用いて、生成AIの普及によって拡大する市場や、高集積化ニーズへの対応を目指す。2027年のリリースを計画している」とした。
また、サステナビリティの取り組みについても触れ、FTSE Indexの銘柄に継続選定されていること、センサーを利用してヘルスケア領域やセキュリティ領域に貢献していること、透明インターフェースデバイスであるRælclear(レルクリア)を、2025年11月に開催するデフリンピック東京に提供し、難聴者や異言語間でのコミュニケーションに貢献すること、半導体パッケージの低消費電力化に貢献する高精細配線技術を開発中であることなどを示した。
同社が発表した2025年度第1四半期(2025年4月~6月)の連結業績は、売上高は前年同期比42.0%減の324億円、EBITDAは前年同期のマイナス60億円の赤字から悪化し、マイナス80億円の赤字。営業利益は前年同期のマイナス70億円の赤字から悪化し、マイナス91億円の赤字、当期純利益は前年同期のマイナス65億円の赤字から悪化し、マイナス202億円の赤字となった。
売上高は、茂原工場での生産終了に向けた生産調整による出荷減少や、鳥取工場での生産終了などにより減収となった。また、EBITDAおよび営業利益では、鳥取工場での生産終了による工場経費の削減や研究開発費の見直しなどのコスト削減を行ったものの、大幅な減収の影響が大きく、減益となった。当期純利益では、茂原工場での生産終了に関連する費用や、希望退職者募集に係る費用の一部を事業構造改善費用とし、特別損失として76億円を計上したことが影響した。
セグメント別では、民生・産業機器の売上高が前年同期比71.7%減の63億円、車載の売上高は22.0%減の262億円となった。
なお、JDIでは、現時点で、2025年度通期業績予想については公表していない。
ジャパンディスプレイ 執行役員 CFOの平林健氏は、「財務状況の改善に向けた各種経営施策の実現時期や具体的内容によって、業績の大幅な変動が予想されるため、業績予想は引き続き非開示としている」と説明した。だが、いちごトラストへの茂原工場資産の譲渡による借入金返済や、車載事業の子会社化による他社との協業の進展、希望退職者募集による事業規模に応じた組織や人員体制の構築、ファブレス化などによるBEYOND DISPLAY戦略推進などの主要施策の確定を踏まえて、2025年度業績予想を公表する予定も示している。
JDIの再建は長期化しており、長いトンネルの先はまだ見通せない状況にある。また、高い技術力を持ちながらも、それをマネタイズできずに、経営不振に陥るという日の丸ディスプレイメーカーが抱えていた課題が、残念ながら、いまも継続している状況にあると言わざるを得ない点も気になる。
明間社長 CEOによる新体制がスタートして、まだ2カ月を経過したばかりだ。新たな構造改革は、新生JDIとして独り立ちできるものになるのか。これからの成果を見守りたい。









