一般社団法人ダークパターン対策協会は、7月15日に記者発表会を開催。同協会が実施する「NDD(Non-Deceptive Design:非ダークパターン)認定制度」の認定マークを初めて公開するなど、ここまでの活動の報告と今後の予定について話しました。当日はゲストとして小倉優子さんと平成ノブシコブシの二人も登場し、消費者の代表としてダークパターンについて学びました。
なお、当日の発表内容については、ニュース記事も合わせてお読みください。
推計被害総額は年間1兆円以上。ダークパターンは消費者にとって身近な問題
同協会が対策に取り組む「ダークパターン」とは、消費者が自らの意思に反して不利益を被ったり、判断を誤るように誘導する、Webサイトのインターフェースや設計、しくみのこと。「望まない製品やサービスを巧みに購入させる」「お試しのつもりが定期契約になっていて解約方法がわかりづらい」「知らない間に個人情報を搾取される」など、違法なものからグレーゾーンのものまで様々なケースがあり、社会問題化しています。
ゲストとして登場した小倉優子さんと平成ノブシコブシの2人は、ダークパターンについてのクイズにチャレンジしました。例を挙げると、「今だけ90%OFF!」「今900名が購入検討中!」「割引終了まであと25分!」「口コミNo.1!」という4つのアオリ文句の中から、ダークパターンの可能性があるものを選ぶ問題。3人は悩みながらそれぞれ答えを選びました。
しかし、同協会 事務局長の石村卓也さんから発表された正解は、「実はこのすべてが根拠があるかどうかわからず、ダークパターンの可能性あり」というもの。この答えに3人は、「ダークパターンという言葉は聞いたことがあったけど、どれもWebサイトでよく見かけるものばかりで、こんなに身近な問題とは思わなかった」と驚いていました。
ダークパターン対策協会 代表理事の小川晋平さんによれば、一般消費者500名に実施したアンケート調査では、実に86%の人が「ダークパターンを経験したことがある」と回答したとのこと。金銭被害を受けたことがある人も30%に及び、1人あたりの平均年間被害額は推計で3万3,000円。日本のインターネット人口を1億400万人と想定すると、推計被害総額は年間1兆円以上になると言います。
NDD認定制度は、このようなダークパターンを使用していない誠実な事業者のWebサイトを、第三者機関が中立的に審査・認定。改ざんができない認定マークを付与して、消費者が安心して利用できるWebサイトを見極めるための一助になることを目指します。認定制度の目的と概要については2024年10月に開催された同協会の設立発表会でもアナウンスされていましたが、認定マークのデザインについてはこの日が初公開となりました。
事業者へは「自己審査チェックシート」を提供、消費者向けにはホットラインも開設
認定マークの説明を担当した理事のカライスコス・アントニオさんによれば、付与される認定マークは審査・認定の範囲を示すアイコンとセットになっていて、アイコンには3つの種類があります。「組織的対策」はその名の通り、事業者として組織的にダークパターン対策に取り組んでいることを示すもので、コーポレートガバナンスについてのページなどに表示することができます。「クッキーバナー」は、サイトを訪問した際に表示されるクッキーの許諾についてのポップアップバナーに表示できるもの。「購入前最終確認画面」は、決済前の画面などに表示して、安心して購入できるサイトであることを示すものになります。
それぞれの認定マークは1年ごとの更新制になっていて、3年目はBRONZE、2年目はSILVER、3年目以降はGOLDとステータスが上がっていくしくみ。マークの審査・認定は2025年10月からスタートする予定ですが、自社のWebサイトがダークパターンになっていないかどうかを事業者が確認できる「自己審査チェックシート」がこの日公開され、審査・認定に備えて問題があれば修正を進められるようになりました。
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認定マークを発表するカライスコス・アントニオスさん
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NDD認定マークは3つの認定審査範囲ごとに設定されたアイコンとの組み合わせで提示される
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認定マークは協会のデータベースと連動していて、マークをクリックすると詳細な認定情報が確認できるという、改ざんされにくい仕組みを採用している
NDD認定制度は、事業者が自社サイトを非ダークパターン化するよう促すことが目的のひとつです。「ダークパターン対策ガイドラインの各項目に沿ったチェック作業を通じて、自社サイトにおけるダークパターンの有無を可視化し、必要な改善点を整理していただくことができます」とアントニオスさん。チェックシートとガイドラインは、誰でも無料でダウンロードできます。
一方、消費者に向けては、悪質だと思うダークパターンについて協会に報告できる「ダークパターン・ホットライン」も開設されます。理事の岡田淳さんによれば、このホットラインの目的は、「実体験を広く収集をして、悪質事業者や新しいダークパターンの手法の実態を把握すること」。個別のトラブルに対処するものではありませんが、明らかな違法サイトは消費者庁など関連省庁や金融機関とも情報連携するとのこと。寄せられた報告をもとに、統計情報やダークパターンのトレンドなどを定期的にレポートする計画です。
理事の増田悦子さんによれば、ダークパターンの被害とネットリテラシーには相関関係があるそうで、特に70代後半以上の高齢者や子供が巻き込まれるケースが目立つと言います。そこで同協会では、消費者庁と文部科学省の協力を得てシナリオを監修した、小中高生向けの啓蒙動画を制作。保護者や学校関係者、地域の教育関係者に役立ててもらえるよう、今年の秋から無料で公開する予定です。
「子どもたちはSNSや動画サイトなどに毎日触れていますが、情報を見極める力はまだ発展途上。大人が先回りしてデジタルリテラシーを育む環境を用意することが重要」と増田さん。「これをきっかけに家庭や学校でもダークパターンについて話す機会が生まれればうれしい」と話していました。
アントニオスさんによれば、同協会では今後、経団連や商工会議所、通販協会などと連携して、NDD認定制度や自己審査チェックシートの普及に努めていくとのこと。消費者向けには、地方銀行などと連携した啓蒙活動なども検討しているそうです。「認定マークをいろいろなところで目にするようになれば、おのずと認知も広がってくる。まずは事業者に広まらないと、消費者の方にも認識してもらえないと思っています。同時進行で進めていきますが、まずは事業者に働きかけていきたい」と話していました。