2014年に誕生したAmazonのパーソナルアシスタントAlexaが、生成AIの先端技術をベースに開発された「Alexa+」(アレクサ プラス)として生まれ変わります。Amazonが米国ニューヨークで開催した記者発表会に参加して、Alexa+の最新事情を取材しました。
Alexaの知見を元に1から開発された生成AI対応の「Alexa+」
AlexaはAIを駆使する音声認識技術により、人間との会話を理解して応答するAmazonのパーソナルアシスタントです。日本では2017年秋に招待制からサービスを開始しています。現在はAmazon Echoシリーズのスマートスピーカーをはじめ、多くのデバイスがAlexaをビルトインしていたり、あるいはスキルと呼ばれるAlexa向けのアプリを介してつながり、スマートスピーカーから音声でコントロールできるスマートIoT家電があります。
Amazonが250人を超えるジャーナリストとアナリストを集めて、ニューヨークで開催したAlexa+の発表会には、2023年にAmazon Devices & Servicesのシニア・バイスプレジデントに就任したパノス・パネイ氏が登壇しました。パネイ氏は「Alexaは私たちが音声を通じてテクノロジーと対話する新しい方法を開拓してきた」と語り、音声操作に対応するパーソナルアシスタントが10年以上に渡って人々の生活にもたらしてきた功績を振り返りました。
Alexa+は、AmazonがAWS(Amazon Web Service)のクラウドAIテクノロジーにより培ってきた技術の粋を集めて、新しく1から開発を起こした生成AIベースのパーソナルアシスタントです。大きな特徴は、ユーザーとの会話を文脈まで深く理解して流ちょうな会話が交わせること。また、従来のように都度「アレクサ」と話しかけなくても、連続する自然な会話をシームレスにこなせる対話力を備えています。
まず2025年3月中にアメリカから、英語でのサービスを開始します。その後、日本を含む他の国と地域で提供開始を予定しています。パネイ氏が発表会のステージに立ち、実演を交えながら紹介した「Alexa+の自然会話力」を動画でご覧ください。
【動画】パノス・パネイ氏のデモンストレーションによるAlexa+との自然会話。Amazon Echo Showシリーズは音声によるコミュニケーションと同時に、ディスプレイにチャットの内容を文字で表示できるスマートデバイスです
ユーザーに関する知識を覚えるアシスタント
Alexa+は使い込むほどにユーザーの好みや生活習慣を覚えて、個人最適化が図られます。ユーザーのリクエストに応えて情報を検索したりチャットが楽しめるだけでなく、Alexa+はAmazon.comと連動して買い物を手伝ってくれたり、アメリカで普及するUberのスキルと連携して配車予約をしてくれたり、ユーザーの生活に役立つアクションを返してくれます。
パネイ氏は、発表会のステージ上でスマートディスプレイ「Amazon Echo Show」シリーズを使ってAlexa+のデモを行いました。音声による会話を耳で聞きながら、ディスプレイに表示される文字情報で数字や固有名称を同時に確認できることから、とても相性の良いデバイスです。アメリカでは、最初にEcho ShowシリーズがAlexa+に対応します。続いてEchoシリーズのスマートスピーカーやFire TV Stick、モバイルアプリのAlexa、パソコンもWebブラウザからAlexa+が使えるサービスにも裾野を広げます。
Alexa+は多くの機能をクラウドで実行するパーソナルアシスタントであることから、デバイス側にかかる処理の負担が軽減できます。その特徴を活かして、2017以降にAmazonが発売したEchoシリーズのスマートスピーカーやワイヤレスイヤホンにも、順次Alexa+への対応を拡大します。
スマートホーム機器の操作も得意
Alexaによる音声操作に対応するスマート家電は、そのままAlexa+で同じ使い方ができます。スキルの互換性が保たれるからです。Amazonは、外部のパートナーに向けてAlexa+によるサービスを開発するためのSDKや、その他の必要なリソースも提供します。Amazonはユーザーの日常生活に役立つ何万もの多彩なサービスやデバイスが、今後続々とパートナーから提供されると予告しています。
音楽にビデオなど、エンターテインメントコンテンツの視聴サポートもAlexa+は得意としています。発表会のステージでは、パネイ氏がAmazon Musicで配信されている人気の楽曲をAlexa+に検索・再生させて、引き続きAmazon Prime Videoでその楽曲が流れる映画のシーンを頭出しするデモンストレーションを披露しました。
Alexa+は米国で月額19.99ドル(約2,900円)のサブスクリプションサービスとして提供されますが、プライム会員は追加料金を負担することなくAlexa+が楽しめるようになります。特に、Amazon Prime Video連携はAlexa+の便利さが実感しやすい機能になりそうです。
Alexaデバイスが好調の日本対応も急ぎ進める
Alexa+が日本で使える時期は残念ながらまだ発表されていません。新しいパーソナルアシスタントは生成AIベースの技術であり、他社のAI企業が提供するAIモデルを組み合わせて、さまざまな機能や用途を特定した使い方にカスタマイズができます。外国語のリアルタイム翻訳に長けたAIモデルを組み合わせれば、日本語対応であれば速やかに実現できそうですが、Amazonは各国と地域のユーザーがAlexa+を快適に違和感なく使えるよう、文化や風習への合わせ込みを丁寧に行ったうえでサービスの導入を検討しています。
発表会にAmazon本社から駆け付けたAlexa Internationalバイスプレジデントのミケーレ・ブッチ氏に、Alexa+の日本導入に向けた意気込みを聞くことができました。
「日本国内のAmazon Echoシリーズの利用者数は、2018年の一般販売開始後から2024年までの間に約10倍に成長しています。Alexaを搭載、または対応するスマートホーム製品の数も同じ期間に約8倍まで伸びています。スマートディスプレイのAmazon Echo Showシリーズが特に日本で伸び盛りです。時期についてはまだ明確にお伝えできませんが、日本でも早く多くの方々にAlexa+を楽しんでもらえるように鋭意開発を進めています」
昨今の生成AIブームは、どちらかといえば仕事のドキュメント作成やメールの要約など、ビジネスシーンに役立つ用途や、画像・動画のクリエーションの機能が脚光を浴びてきました。Alexa+のようにユーザーが家庭で、家族と一緒に過ごす時間を豊かにする「スマートホームに強い生成AI対応のパーソナルアシスタント」もこれから求められると思います。Amazonが得意とする領域でAlexa+の特徴に磨きをかけつつ、パートナーと連携しながらビジネスやクリエーションの領域にも用途を拡大できれば、先行するライバルの生成AIサービスを脅かす存在になれるはずです。