アプリ開発を手がけるGraffity(グラフィティ)と松竹がタッグを組み、Apple Vision Pro向けのバーチャル水槽アプリ「Craftrium」(クラフトリウム)を1月29日にApp Storeで公開しました。記者発表会で新しいアプリを体験しつつ、両社のキーパーソンにARエンターテインメントの今後の展望も聞いてきました。

  • Apple Vision Proでバーチャルアクアリウムが楽しめる「Craftrium」(クラフトリウム)が登場。アプリの特徴と楽しみ方を開発者に聞きました

ARエンタメのスタートアップと映画の老舗がコラボ

Graffityは、ARエンターテインメントサービスの開発を得意とする日本のスタートアップです。ハンドジェスチャーで手裏剣を投げて敵を倒すARゲームアプリ「Shuriken Survivor」や、アイトラッキングシステムも併用する独自の“空間ゲイズタイピングゲーム”「Ninjya Gaze Typing」など、Apple Vision Proの機能をフルに活かした空間ゲームを精力的にリリースし、話題を呼びました。

2025年に創業130年を迎える松竹は、いわずと知れた日本を代表するエンターテインメント企業。映画興業に演劇制作、不動産賃貸事業の“3本柱”のほか、2019年に誕生した事業開発本部が松竹グループ内の各部署が取り組んでいた新規事業創出活動を統合。以来、ゲーム事業も本格的に強化しています。

  • 左側がGraffity 代表取締役の森本俊亨氏、右側は松竹 取締役常務執行役員の井上貴弘氏。記者会見に登壇した各氏が、クラフトリウムへの思いを語りました

Apple Vision ProなどAR/XRデバイス向けのエンターテインメントコンテンツに力を入れているGraffityの技術力と胆力に惚れこんだ松竹と、日本の老舗エンタメ企業である松竹の豊富な実績とグローバル展開の知見を借りて勢いに乗りたいGraffityの思惑が一致。両社対等の立場による共同プロジェクトという形で、クラフトリウムの開発が実現しました。

バーチャル空間に自分だけの水槽をつくる

クラフトリウムはApple Vision Proを装着して、デジタル空間にたくさんの魚たちが泳ぐ様子を眺めながら楽しむバーチャルアクアリウム(水槽)アプリです。visionOS向けApp Storeで、アプリのダウンロード提供が1月29日から始まりました。ダウンロードからコンテンツ内に登場するアイテムの利用まで、完全無料で楽しめます。

1月28日に開催されたクラフトリウムの記者発表会で、筆者もApple Vision Proを装着してアプリを遊んでみました。

  • 記者会見のあと、クラフトリウムを体験する時間が設けられました。アプリは1月29日からApp Storeで無料配信されています

Apple Vision Proの内蔵スピーカーから聞こえてくる“波の音”を楽しみながら、バーチャル空間の中を仲良く泳ぎ回る魚たちをただぼんやりと眺めていられる癒やし系アプリです。基本的なハンドジェスチャー(タップとピンチ)だけで、すべての操作が難しいことを考えずに直感的にできます。

  • 色や形が異なるサンゴ、石などのアイテムを設置。魚たちが泳ぎ回る様子を観察して楽しむアプリです

鮮やかな色の熱帯魚から、ホオジロザメやマンタなど、クラフトリウムの中ではさまざまな魚に出会えます。「図鑑」の機能に魚たちを登録すると、クラフトリウムを立ち上げた時に眺めたい魚が選べます。

クラフトリウムの景色を彩るサンゴや石など、入れ替え可能なアイテムは自由に選んで水槽の中をカスタマイズできます。アプリの環境設定を終えて一定時間が経過すると、アイコンやボタンなどアプリのユーザーインターフェースは非表示になります。グラフィックスの解像度も高く、まるでホンモノの水槽がApple Vision Proの中に浮かんでいるようなリアリティが感じられました。

クラフトリウムは、visionOSの画面内にほかのvisionOS対応アプリやMac仮想ディスプレイを同時に表示する「Volumeモード」に対応しています。アプリの設定で、水槽の中の景色を全画面表示にする「Immersiveモード」に切り替えることも可能。Immersiveモードにすると、大きなサメやエイが目の前に迫ってくる様子も楽しめます。

  • Immersiveモードの画面。魚たちが間近に迫ってきます

仕事中も魚たちに癒やされる

Graffityの森本俊亨氏は、クラフトリウムをVolumeモードでも楽しめるアプリとした目的が「Apple Vision Proのワークスペースに飾るアクアリウム感覚で楽しんでもらいたいから」だと語ります。2024年2月2日に北米からApple Vision Proの販売がスタートして間もなく1年が経ちます。日本での発売開始は同年6月28日から。森本氏は、これまでGraffityとしてvisionOS対応のアプリを開発してきて、特に「Apple Vision Proを使い込んでいる人のためのユーティリティ的なアプリに良い手応えを得ている」といいます。

「クラフトリウムは、Mac仮想ディスプレイなどの機能を活用してApple Vision Proを仕事や創作のため活用しているユーザーの“邪魔にならないゲーム”にしたいと考えました。企画検討の初期段階では、AR空間に植物を置けるアプリなども挙がりました。松竹の開発チームと議論を重ねた結果、高解像表示に対応するデバイスの特徴を活かして、なおかつ非日常感が味わえるダイナミックなコンテンツとして、アクアリウムを選びました。基本的には仕事に集中しながら、ふとした時にアプリで心を癒やすような使い方をしてほしいですね」(森本氏)

  • Apple Vision Proを仕事や創作で本格的に使っているユーザーが、ワークスペースの傍らにクラフトリウムを立ち上げてリラックスできる時間を提供したかった、と語る森本氏

クラフトリウムは無料で楽しめるアプリです。水槽の中に選んで配置できるアイテムを今後追加して、よりリッチにカスタマイズできる有料のアイテムなどを追加する予定はないのでしょうか。森本氏は「Apple Vision Proのデバイスの普及状況を見ながら、今後のソフトウェアアップデートによるアイテムや機能追加を検討したい」と答えています。

松竹とGraffityの連携に今後も期待

松竹の事業開発本部長である井上貴弘氏は、今回Graffityとタッグを組んだことで「130周年を迎える松竹が、日本の映画業界に関わる企業としていち早くApple Vision Proを活用するエンターテインメントの創作に名乗りを挙げられたことが大事な一歩」であると話しています。

井上氏が社長を勤める松竹ベンチャーズでは、AR/VRなど先端の映像ツールを活用するものなど、さまざまなクリエイティブプログラムの創出にも力を入れています。井上氏は「当社がハブの役割を果たすことで、松竹が映画に歌舞伎、演劇など各分野で培ってきたノウハウに横串を刺して新しいエンターテインメントが提案できると考えています。ゲームの分野でも、新しいものをGraffityと共創したい」と期待を込めて語りました。

  • 松竹はこれからもARエンターテインメントを含む、あらゆるイノベーティブな創作にチャレンジしていきたい、と語る井上氏

森本氏は、特にApple Vision ProとMeta Quest 3/3Sについて「Graffityが得意とするAR空間ゲームの知見を活かしやすいデバイス」であると表現しています。クラフトリウムは、ヘッドセットデバイスで仕事や創作をする合間に“ながら見”する楽しみ方に適したアプリです。そのため、今回はビジネス的なワークスタイルに向くApple Vision Pro専用のアプリとしてリリースされます。

一方で森本氏は、今後GraffityとしてApple Vision Proよりも安価なMeta Questシリーズ向けにも良質な空間エンターテインメントを提供したいと話しています。同社の独創的なアイデアに、さまざまな空間エンターテインメントのプラットフォームからアクセスできるようになる日が今からとても楽しみです。