家電のサブスク・レンタルサービス「レンティオ」は、レンタルしたユーザーの生の声がきける法人向けサービス「レンティオサーベイ」を展開している。これを「ヘルシオ」ブランドの開発・販売に活かしたシャープに、サービスの魅力を伺ってみたい。
レンティオサーベイとはどんなサービス?
購入せずとも使い心地を試せる家電のサブスク・レンタルサービス「レンティオ」。2015年にサービスが開始され、現在のラインアップは6,500種類以上、月間14万人ものユーザーが利用する人気のサービスだ。
その特徴を活かし、レンティオは主にメーカーに向けたサービス「Rentio Survey (以下、レンティオサーベイ)」を展開している。最大の強みは、貴重な1stパーティデータを取得できることにある。
一般的なWebの市場調査は、調査会社にモニターとして登録されているユーザーにアンケートを配信することがほとんどだろう。だがレンティオサーベイのユーザーは、レンタル料金を支払って製品を借りている。つまり、純粋に商品に興味を持ち、購入するかどうか検討しているユーザーにアンケート調査を実施することで、リアルな声をダイレクトに知ることができるわけだ。
その需要は年々高まっており、現在、大手メーカーを中心に30社以上が利用している。メーカーの利用目的は主に3つあるという。
ひとつ目は“商品の開発時”。「その商品が気になる理由」「レンタルしてなにを確かめたいか」「買わないと判断した理由」を深く調査することで、商品の開発内容やマーケティング戦略に活かすことができる。
ふたつ目は“商品の発売時”。発売日と合わせてレンタルとアンケートを実施することで「新製品の反響」を素早く掴み、その口コミをマーケティング施策にダイレクトに反映できる。
3つ目は“レンタルビジネスの立ち上げ時”。レンティオはメーカーが自らレンタルビジネスを立ち上げる支援も行っている。自社製品を、販売ではなくレンタルという形で提供する際に、どのように受け入れられるかをシミュレーションできる。
2024年11月には、ユーザーがアンケートに回答するたびに、都度、回答結果をリアルタイムで閲覧できる「ダッシュボード」も展開された。今後、機能はよりブラッシュアップされ、より便利に使えるようになっていくだろう。
このレンティオサーベイを製品開発に活用しているのが、電気機器メーカーのシャープだ。
同社はキッチン家電「ヘルシオ」ブランドの人気商品「ヘルシオ ホットクック」と、12月上旬に発売された新製品「ヘルシオ トースター」において、レンティオサーベイを通して得たユーザーの声を製品に反映させた。
「ヘルシオ ホットクック」を担当した、シャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内キッチン事業部 調理企画開発部 主任の吉田麻里氏、「ヘルシオ トースター」を担当した、Smart Appliances & Solutions 事業本部 国内キッチン事業部 調理企画開発部 主任の奥田美和氏に、レンティオサーベイの活用と反映された製品の特徴について伺ってみたい。
10年の間売れ続けた水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」
業界初の水なし自動調理鍋として2015年に最初の製品が発売され、今年で10年目を迎えたシャープ「ヘルシオ ホットクック」(以下、ホットクック)。2024年6月時点で累計販売台数が65万台に達したシャープの大ヒット製品だ。2023年には「ホットクック」の開発グループが第9回「ものづくり日本大賞」において経済産業大臣賞も受賞している。
「ホットクック」が開発されたきっかけはふたつあった。ひとつは、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことだという。次の新製品を模索していたシャープは、煮物などの和食には火加減に勘や経験が必要なことに着目。料理に苦手意識を持っている人のハードルを下げたいという思いがあったそうだ。
もうひとつは健康志向の高まり。当時、栄養価が損なわれない無水調理や、それを行うための高級な無水鍋の注目度が高まっていた。こうして誕生したのが「ホットクック」だ。
「食材を入れて調味料も入れて、メニューを選んでスタートしていただくと、開けたときには完全にお料理ができあがっているというのが、ホットクックの最大の特徴です」と、開発を担当する吉田麻里氏は語る。
2015年に発売されたレッドカラーの初号機を皮切りに、家族の人数やキッチンの大きさに合わせたサイズの異なるモデル、無線LAN機能を搭載したモデル、キッチンへの馴染みやすさを考えたブラック/ホワイトモデル、自動かき混ぜを省いてシンプル&低価格化した「ホットクック」withシリーズなど、さまざまなラインナップが拡充されている。
機能面の特徴は、蒸気センサーと温度センサーを利用した火加減調整のほか、無水調理と自動かき混ぜ、予約調理の3つ。
無水調理の秘密は、内ぶたの内側の“旨みドリップ加工”と呼ばれる凹凸の加工によって水分を効率的に鍋に戻す「旨みドリップサイクル」にある。
自動かき混ぜは、独自の「まぜ技ユニット」が食材の堅さによる負荷を検知。加熱の進行に合わせて煮崩れを起こさないようにかき混ぜを行ってくれる。2023年には“ヘラでのかきまぜ”を再現した「もっとクック」という別売アクセサリーも発売されている。
予約調理は現在、最大15時間まで対応。時間になったらお米を炊く炊飯器の予約調理と異なり、ホットクックはお肉や野菜などさまざまな食材が入るため、そのままでは食材が傷んでしまう。これを防ぐために最初に火を通し、腐敗しやすい温度帯を避けながら調理を行っている。
「自動調理鍋のカテゴリには圧力をかけるタイプもありますが、ホットクックは圧力をかけないタイプです。圧力ありの製品は圧力鍋を自動化したもの、ホットクックは普段のお鍋を自動化したものと捉えてください」(吉田氏)
無線LAN接続も非常に人気が高く、レシピが閲覧・利用できる「COCORO KITCHEN レシピサービス」は接続率も非常に高いそうだ。現在、レシピの数は650種ほどまで増えており、煮物やカレーのみならず、オムレツのような焼きもののレシピもあるという。
ヘビーユーザー以外の声がなかなか聞けなかったホットクック
ホットクックはファンも多くコミュニティもあるがゆえに、ヘビーユーザーの声は聞けていたが、逆にホットクックを選ばなかった人の声はなかなか届かなかった。
吉田氏は「ユーザー評価は“約60%が1週間の使用率2-3回以上”、“約90%以上が満足”と非常に評価の高い製品ですが、もっと毎日使っていただくにはどういった方向性で進化させていくべきか考えるために、今回レンティオサーベイを使わせていただきました」と話す。
そこから見えてきた不満は大きく3つに分けられる。ひとつ目は“調理時間”。平日は調理に時間をかけられないので、短時間でつくりたいという要望。ふたつ目は“レシピ”。アプリにたくさんレシピがあってもその通りにつくる人は約37%で約40%以上はアレンジを加えるという。3つ目は“お手入れ”。汁ものが本体内部の熱板に垂れ、汚れやすいという声だ。
ここから見えてきたご不満点を解消したのが、最新のホットクックとなる。まず、従来よりも自動かき混ぜを早期に使えるよう構造を変え、熱の伝わり方を改善したことで、炒め物などの調理時間を最大約30%短縮した。
次に、手動調理の使いこなしサポート。冷蔵庫の残りものなども活用してもらうため、食材ごとの火の通り方についての目安時間などを解説した「手動調理活用術」を提案。メニュー集や動画で紹介した。
さらに、汁ものが垂れやすかった本体の熱板には撥水性のある塗装「らっクリーンコート」を施して汚れを取れやすくし、お手入れを簡単にした。
「とにかく毎日ホットクック使っていただけるように、ホットクックをレンタルされて買わなかった方、ホットクックを購入された方、別の製品を購入された方、いろいろな人にお話を伺いました。『これだけお金を出してもきっと使える!!』と思っていただけるような形に進化をさせていただいております」(吉田氏)
実際にホットクックで作っていただいたカレーは、お肉がほろっとやわらかく、骨付き肉なのにスプーンで食べられるほどになっており、無水調理によって野菜のうまみもギュッと閉じ込められていた。
また青椒肉絲は、炒めものもここまでできるのか!!と唸ってしまう出来映え。炒めものの香ばしさがありつつも餡がしっかりとからみ、ごはんがほしくなる一品だった。
12月5日に発売された新製品「ヘルシオ トースター」
一方、「ヘルシオ トースター」は12月5日に発売したばかりの新製品だ。
家庭における主食である米・パン類の購入量の推移を比較すると、米の購入頻度は少しずつ減り続けているが、一方でパンは概ね上昇を続けている。近年のトースター市場には、1万5,000円を超える価格帯の「高級トースター」と呼ばれるジャンルがあるが、それだけパンをおいしく食べたい人が増えているということでもあるだろう。
シャープも従来より過熱水蒸気を利用したトースター「ヘルシオ グリエ」を販売しているが、「ヘルシオ トースター」はさらに“パンをおいしく焼く”ことに注力されている。
「パンのおいしさの秘密は内部の水分量だと専門家から伺いました。焼き上がったときが一番おいしくて、あとはどんどん乾燥していってしまいます。ヘルシオ グリエの過熱水蒸気でパンの内部に水を与えながら焼く方式は講評をいただいておりますので、新しい製品もこの方向で行こうと考えていました」と、開発担当の奥田美和氏は話す。
シャープが社内でアンケートをとったところ、トースター選びの重要ポイントはやはり「トーストがおいしいこと」。だがおいしいトーストのあり方は「外は香ばしくて中は柔らかい」「カリッとした食感が好き」「しっとりした焼き上がりが良い」などさまざまで、さらに「家族で好みが違う」「パンによって変えたい」という声もあったという。
共通するのは、誰もが自分好みの仕上がりにしたいということだ。しかし、一般的なトースターは焼き色を変えることはできても、食感を変えることはできない。そこで過熱水蒸気を使い、“それぞれ自分が一番好きな焼き方ができるトースター”を目指して開発が進められた。
「食感の差が一番分かったのはフランスパンでした。ならフランスパンを推していくのがよいのか、それともアンケート結果を踏まえてトースト推しか、ヘルシオ グリエのようにリベイクを推していったほうが良いのか。今後の訴求を考えるためにレンティオサーベイを活用させていただきました」(奥田氏)
ユーザーの声を新トースター訴求に反映
シャープからの依頼を受け、レンティオは既存のオーブントースターをレンタルしたユーザーにアンケートを実施。さらにそのうち数名に直接話を聞いた。
その結果、高級トースターに関心のある層は7割が女性で、30~50代が中心、さらに購入層は家族世帯が多いとわかった。トーストをおいしく焼けることがもっとも重要視され、次いでクロワッサン、フランスパン、惣菜パンなどをおいしく温めたい方が多かったそうだ。
また、おいしさの定義として「サクッ」「ふわっ」「もっちり」「香ばしい香り」などのキーワードが挙がり、とくにレンタル後に購入したユーザーは「もっちり」「香ばしい香り」を重視していることがわかった。これらを踏まえ、シャープは新トースター訴求のポイントを3つに絞る。
ひとつ目は“過熱水蒸気でパンをおいしく焼き上げる”こと。ふたつ目は“過熱水蒸気量をコントロールして好みの食感に仕上げる”こと。3つ目は“揚げ物や焼き物、冷凍食品を出来たてのようなおいしさにリベイクする”ことだ。
「ヘルシオ トースター」のこだわり機能は2点ある。大容量50mLの水タンクと、大量の過熱水蒸気を生み出すヘルシオエンジンだ。このふたつを活用した過熱水分量のコントロール機能を、シャープは「おいしさ食感マイスター」と名付けている。
おいしさ食感マイスターによって、ふわふわ度3段階中もっとも水分量が多い「ふわふわ3」にして焼いたフランスパンと、水蒸気を使わない一般的なトースターで焼いたフランスパンを比較すると、その違いがよくわかる。「ヘルシオ トースター」で焼いたものは、焼き上がりの厚みが違うだけでなく、指で押したときにしっかりと弾力があるのだ。
また一般的なトースターと「ふわふわ1」「ふわふわ3」で焼いたトーストを比較すると、一般的なトースターは「ザクッ」と中まで硬い仕上がりなのに対し、「ふわふわ1」は外側にカリッとした食感がありつつも内側はもっちり、「ふわふわ3」は外側までもっちり、といった焼き上がりになった。なお、このおいしさ食感マイスターの効果は冷凍したパンでも発揮される。
過熱水蒸気はリベイクにも活かされており、例えばお餅や焼き芋も柔らかさを保ちつつ、甘みを引き出す焼き方が可能だ。また食品の内部までしっかり熱を伝えることで、余分な油をしっかり落とすことができる。一例としてえびの天ぷらのリベイクでは、電子レンジに比べ約26キロカロリーをダウンさせることができたという。
高級トースターを購入する方はデザインにこだわりを持つ人が多いことから、デザインにもこだわった。窓に水蒸気がついた様子は非常に美しく、パンがよりおいしく見えることうけあいだ。使い勝手の面では大きなボタンを採用したり、自動メニューを豊富にしたり、清掃しやすいコーティングトレーを採用したりもしている。
「ヘルシオ トースター」は12月5日の発売後、レンティオでのレンタルが可能となった。奥田氏は今後、ユーザーにどんなことを聞いてみたいと思っているのだろうか。
「今回フォーカスした“食感”において、私たちは『ふわふわ3』が好評を得るのかなと思っていたのですけれども、『ふわふわ1』の方がおいしいという方も思った以上にいらっしゃいました。なので、もう少し広くいろいろな方のおいしさの基準を聞いていきたいなと思っています」(奥田氏)
ユーザーの声をメーカーに届けるレンティオサーベイ
シャープがレンティオサーベイを活用することになったきっかけは、『返却した方はどうして返したんだろう?』という素朴な疑問からだったという。そんなとき『レンティオサーベイなら生の声を聞くことができますよ』と提案を受け、そして「ヘルシオ ホットクック」でその声を新製品に活かすことができたそうだ。
この経験は「ヘルシオ トースター」の訴求にも活かされた。もともと「ヘルシオ グリエ」はトースターという打ち出し方が弱かった製品であり、高級トースターを求めるユーザーの声が聞こえていなかった。だがレンティオサーベイで「トーストのおいしさ」が一番重視されていることがわかり、それが実際に製品に反映されている。
「ヘルシオ ホットクック」から始まり、「ヘルシオ トースター」までレンティオサーベイの活用を広げたシャープの活用例は、メーカーとユーザーがWin-WInとなる好事例と言えそうだ。