2024年11月8日と9日に、秋葉原にて「AIをもっと身近に、もっと楽しく」をテーマにしたイベント「AIフェスティバル 2024 Powered by GALLERIA」が開催されました。初日の「基調講演」と、AIを活用したアートを競う「AIアートグランプリ」最終選考の様子をお伝えします。
基調講演は落合陽一氏。AIと神社の関係は……?
初日は、落合陽一氏の基調講演「そして神社を作る」からスタート。この講演が目当てなのか金曜日にもかかわらず多くの来場者で、席はほぼ満席でした。
落合氏は、デジタルネイチャーという概念を10年ぐらい前から持っていました。自然から計算機が作られ、シミュレーションによって計算結果が自然に反映されるように、計算機時代の新しい自然が生まれようとしています。
近年の新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンのように、計算結果として生み出されたRNAを体内に取り込むことも、デジタルがリアルに反映されている例と言えるでしょう。
最近は、研究者の実験を自動化して効率性を上げる試みがあります。それによって、たとえば、金曜日の夕方に仮説に基づいた実験を設定しておくと、週末にロボットが自動で実験と測定を繰り返し、月曜日の朝に結果を出しておくことが可能です。落合氏の研究室では、ロボットアームにカメラとライトを持たせて、ライティングを変えた撮影の自動化を行ったことを紹介していました。
また、3Dプリンタでメタマテリアルを作り、音響シミュレーションに入れて望みの音響特性を持たせた壁を作るなど、自然によって計算機が拡張され、拡張された計算機を使うことで自然も拡張するというループが生まれます。そして、シミュレーション結果をもとに、次はどうすればよいかを、従来の科学者の作業をAIが代行できるようになりつつあるのが現状です。
このように、AIは現在急速に加速しており、近い将来人間は、AIが生成したコンテンツからの取捨選択とキュレーター的な役割を担うようになると説明。そして今の自分がデジタルの世界へと取り込まれるデジタルヒューマンとなることで死生観も大きく変わると落合氏は説明しました。
さらに、日本社会では畏怖が信仰を生んでいる背景があり、新しい宗教観も出るだろうと落合氏は判断。自然信仰と計算機信仰の融合を目指し、神社の設立や宗教的儀式の導入を検討しているそうです。「神社本庁の資格を持ってないと神事ができないと言われ、知り合いの神社の方に聞いたところ、禰宜(ネギ)として行うことができた、真言はデジタルネイチャーとはこういうものだと専門の方に伝えた」と説明していました。
最後に、AIがコンテンツを多数作ってくれる時代になるので人はキュレーターとして共に楽しめる時代が来るとまとめていました。
冒頭、基調講演の「そして神社を作る」というタイトルに少々混乱しましたが、計算機⇔自然となるデジタルネイチャーとそこから生まれるデジタルへの畏怖。そして信仰という流れは日本人的に腑に落ちる内容でした。
AIアートフェスティバルの発表も
昨年の「AIフェスティバル」では、イベント期間中にハッカソンが行われましたが、今回は5月に大阪、7月に福岡、9月に東京と、3会場でハッカソンを実施。「AIフェスティバル」2日目の9日には「24時間ハッカソン優勝チームの集い」というトークセッションが行われました。
ハッカソンとは、チームで集中的にプログラムやプロダクト開発などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競うイベント。2名から5名のグループで参加し、発表されたテーマに沿って24時間で作品を制作しました。
大阪の優勝チーム「たこ焼きテクノロジーズ」が作成したのは「夢コンサルタント」という、就職活動をする学生へのアドバイスシステムです。Googleフォームに入力されたデータをもとに、複数のAIモデルを連携させて、最適なアドバイスと将来像の画像を生成し、音声で回答します。
福岡の優勝チーム「捗dle」は、AIに興味のある九州工業大学の学生3名のチーム。作品は「ヘッドバンKING」という、head-bangingの勢いをAIで判定するゲームです。開発中の苦労として、深夜のホテルで交代で頭を振り続け、判定精度を上げるのに苦労したというエピソードが語られています。審査員からは、体を張った開発姿勢と熱意が評価されていました。
東京の優勝チーム「異業種データサイエンス研究会」は、フェイスブック上でのAIコミュニティのメンバーを中心に参加。「飲み物にAIが宿ったらどうなるか?」のコンセプトのもと、音声入出力や小型AIモデルなどを駆使して、未来の飲み物を表現しました。
東京のみ会場が24時間利用できたことに加え、1週間前から機材提供があり、念入りな事前準備ができたこと、アイデア出しに時間をかけられたことが成功の要因だったと語る一方、1日目の夜に飲み会を行ったところ、学生メンバーが寝てしまったというトラブルもあったそうです。
AIアートグランプリは「活きる」がテーマ。会場にはファイナリスト10人が、作品の紹介と審査員からの質疑応答を行っていました(1人は欠席で動画によるプレゼンのみ)。
結果、審査員特別賞をMasa氏の「100 TIMES AI HEROES」、グランプリをelim氏の「象牙のナイフ」が受賞しました。
象牙のナイフに関しては「AI臭さが出た作品を見ると気持ちが萎えてしまう」という体験から、“AI臭さ”の出ない作りに心がけたとプレゼンがありました。賞金15万円のほか副賞としてGALLERIA U-Series デスクトップモデルが贈呈されます。
昨年の「AIアートグランプリ」と比較して、プレゼンテーションでは、AIツールをいかに使ったかという説明が多かったように思います。昨年は、テクニカルな説明が多かったのですが、今年は、AIツールの進歩とクリエイターの取捨選択についての説明が目立ちました。
昨年は「生成AI元年」とも言われており、ビジネスでの生成AI活用も「検討から実用へとフェーズが変わっている」とされています。アートの分野でも、いかに自らの作品作成に向くツールを活用するのかがポイントのようで、プレゼンでは「当時に自分にできることをすべて出し切ったと思ったが、今ならば別の最新ツールを使ってもっとクオリティが上げられたかもしれない」と語った方がいらっしゃいました。
今年から追加されたもう1つの展示が絵画部門です。こちらは佳作以外にグランプリとGALLERIA賞が贈呈されます。
GALLERIA賞ははんなり女史氏の「希望の夜明け」で、デジタルアートでありながら生命力と温かさが感じられる点が評価された作品でした。はんなり女史氏は次回の「AIフェスティバル」のキービジュアルとして採用されます。
グランプリとなったのはowl_digitalart氏の「不易流行」でした。葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフにした金箔で縁取られた水の表現と、女性の表現が伝統的な日本画の要素、AIによる現代的な表現が融合して、力強い生命エネルギーを感じさせると評価された作品です。owl_digitalart氏には賞金のほか、副賞としてGALLERIA R-Series ノートブックモデルが贈呈されました。
owl_digitalart氏に少しお話を伺いましたが「金箔感を出したくて、何度も生成したものの、テイク1がベストだったのでこれを使用した」「実は今回提出した画像データはディテールが甘くて会場で見た際に失敗したと感じた」というコメントをいただきました。
絵画部門のほうが制作環境のハードルが低く、多くの人にAIによる能力拡張が得やすい部門ですし、次回以降が非常に楽しみです。