KDDIが沖縄県の久米島において、通信衛星のStarlinkとauスマートフォンの直接通信の実証実験に成功しました。専用アンテナを使うことなく、一般的なAndroidスマートフォンをStarlinkに直接接続し、標準のSMSアプリを用いて自由にメッセージが送受信できました。通信衛星とスマートフォンの直接通信は国内の通信キャリアでは初めて。携帯電話が圏外の山間部などでも、空が見える状況であれば通信衛星と直接メッセージのやり取りができ、万が一の遭難や災害など緊急を要する連絡が取れるようになります。
KDDIは、既存のAndroidスマートフォン(Android 15対応モデル)でStarlinkとの直接通信ができるサービスを2024年内に提供する予定。当初はSMSなどのメッセージ送受信から開始し、音声通話やデータ通信も順次対応予定としています。対応機種や料金など詳細は未定。iPhoneへの対応は遅れるとしています。
低い位置を飛ぶStarlink衛星とダイレクトに接続する
KDDIは、Starlinkを用いた衛星通信サービスをすでに提供しており、自然災害で基地局が使えなくなった被災地や、狭いエリアに人が集中する音楽フェス会場などに通信環境を提供しています。この活用は、専用アンテナを用いて地上550kmの上空を飛ぶStarlinkと通信し、Wi-Fi経由で周辺のスマートフォンなどに通信環境を提供する仕組みで、Starlinkとスマートフォンが直接通信する仕組みではありませんでした。
今回の直接通信は、専用アンテナを用いる通信で接続する衛星よりも低い軌道(地上340km)を飛ぶ衛星と通信することで、一般的なスマートフォンでも直接通信できるようにしたもの。2GHz帯のBand1の周波数の一部を衛星通信用に使う仕組みで、この周波数帯は国内向けスマートフォンすべてが対応しているため、基本的にどのスマートフォンでも対応できます(現時点ではAndroid 15を搭載したAndroidスマートフォンのみ)。
対応スマートフォンで携帯電話が圏外になった場合、スマートフォンがサテライトモードに切り替わり、Starlink衛星を探して接続する仕組みです。サービス開始当初はSMSのメッセージのみ対応しますが、衛星の数が増えて通信容量が増えた時点で音声通話やデータ通信もできるようにするとしています。
気になるのは、直接通信がどのような形で提供されるかということ。KDDI 取締役執行役員常務 CDOの松田浩路氏は「標準サービスで提供するのか、1日いくらといった付加サービスとして提供するのかは現在検討中だが、より多くの人が標準的に使えるようにしたい」とし、追加料金がかからない方向で検討していることを明かしました。
9月と10月に、大型ハリケーンが米国フロリダ州などに上陸して大きな被害をもたらした際、現地の通信キャリアは被災地でStarlinkとスマートフォンを直接通信させ、SMSの送受信が提供できるようにしました。結果、12万件以上のSMSが送受信され、携帯電話の基地局が被害を受けた自然災害時の効果が確認できたそうです。自然災害が頻発する日本においても、同様の状況になっても通信手段が確保できるのは心強いと感じます。
「今回の実証実験の成功を受け、この技術が使えるということを世界の通信会社に広めていきたい」と語る松田浩路氏。“空が見えればどこでもつながる”という夢の通信環境が世界中で当たり前になる日も、そう遠くないのかもしれません。