海外の調査会社が公開した日本のモバイル通信品質リポートで「KDDIが一番つながる」と評価されました。1年前のリポートでは高い評価を得られていなかったので、まさに大躍進。実際に、KDDI回線に接続したiPhoneでYouTube動画を再生してみると、他社回線よりも再生までの時間が短く待たされないうえ、表示も粗くならず最初から高画質で楽しめました。体感でも感じられる通信品質の向上は、4Gから転用した周波数で5Gを面でまんべんなくカバーしたうえで5Gの実力を発揮できるSub6を着実に整備した「デュアル5G」戦略が奏功していました。
他社とは異なる「デュアル5G」戦略が奏功
調査会社のOpensignal社が発表した2024年10月時点での日本市場の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」において、KDDIが全18部門中13部門で1位を獲得。通信速度/遅延などの度合いを総合的に評価する「一貫した品質」と、ネットワークへの接続性などを総合的に評価する「信頼性エクスペリエンス」の両方で単独1位を獲得したほか、ビデオ/ライブ配信/ゲームなど用途ごとの評価でも1位になるなど、国内のMNOでは最多の受賞となりました。
各キャリアとも5G回線の整備を進めていますが、実はキャリアごとに戦略は異なります。その要となるのが、4Gで使っていた周波数帯を5Gに転用した周波数帯と、5Gで新たに追加した「Sub6」と呼ばれる周波数帯の、それぞれの整備の進め方にあります。
速度面では、帯域が広いSub6が断然有利なのですが、新たに整備する周波数帯だけに4Gのようにはエリアが広がっていません。さらに、Sub6は衛星からの通信と干渉するため、Sub6の基地局の出力や角度を抑える必要がありました。つまり、基地局の整備が相当進まない限り、都市部ではパケ詰まりなど品質劣化につながりやすいわけです。
NTTドコモなど一部キャリアはSub6の整備を優先して進めたのに対し、KDDIは広いエリアをカバーする4Gの周波数を転用した周波数帯をまず整備して面で5Gエリアをカバーし、そのうえでSub6の整備を進めていく方針にしました。KDDIは、最適な通信環境が確保できる状況ではSub6を利用して通信するようにし、通信の状況が悪くなりそうだったら転用周波数に切り替えるようにし、安定した通信品質を確保できるようにしました。
4Gと比べて通信速度が格段には向上しない転用5Gは「なんちゃって5G」と揶揄されることもありましたが、通信品質を安定させるためには転用5Gの整備がまず重要だったわけです。
基地局の整備に合わせ、端末のアプリから得られるデータや基地局の通信ログをビッグデータとして分析し、ネットワークが最適なルートを通っているかなどを点検して細かなチューニングを継続。さらに「ここはお昼につながらない」といったユーザーの声をSNSなどから拾って反映するなど、地道な活動を続けたことも品質向上には欠かせなかったといいます。
2024年春の時点で、KDDIの5G基地局は約9.4万局(うちSub6基地局は約3.9万局)にまで増加。さらに追い風となったのが、それまで障壁となっていた衛星との干渉問題が解決できたこと。5月末までに、Sub6は基地局の出力アップやアンテナ角度の最適化が実施され、Sub6が利用可能なエリアが拡大。通信速度も向上し、Sub6エリアでの5Gの通信速度は300Mbps超となり、高画質動画も快適に再生できるようになったわけです。
KDDIは、2022年7月初旬に通信障害が発生し、社会に大きな影響をもたらしました。その際、ネットワーク設備の総点検やリスクの洗い出しを大規模に実施したことが、ネットワーク基盤の底上げにつながった部分もあるだろう、とも振り返りました。
KDDIは、Starlinkで山小屋に通信環境を整備する山小屋Wi-Fiを整備したり、能登地震の被災地にStarlinkでフリーWi-Fiを提供するなど、Starlinkの活用も積極的に進めています。この秋には、Starlinkと手元のスマホの直接通信が可能になる見込みで、「どこでもつながる」がさらにステップアップします。「通信品質で選ばれるキャリアになる」とアピールするKDDIの躍進を受け、今後は料金ではなく通信品質で各キャリアの競争が活発になりそうです。