ヴェガC、ヴェガE
ヴェガの運用は終わったものの、アヴィオはすでに後継機の「ヴェガC」を開発、製造しており、アリアンスペースによる運用が始まっている。
ヴェガCはヴェガをベースに、第1段や第2段の固体モーターを改良、大型化するなどし、打ち上げ能力が向上している。また、先ごろ初打ち上げに成功した大型ロケット「アリアン6」との部品の共通化により、シナジー効果によるコストダウンも図っている。これによりヴェガよりも打ち上げ能力が向上しながら、打ち上げコストは据え置きとなっており、コストパフォーマンスが向上している。
ただ、2022年7月13日の初打ち上げこそ成功したものの、同年12月21日には初の実運用かつ商業打ち上げとなる2号機の打ち上げが失敗に終わった。その後の調査で、第2段の固体モーターのノズルに欠陥があったことが判明した。さらに2023年には、改修した第2段モーターの地上燃焼試験に失敗したこともあり、現在まで2年近くにわたって打ち上げは中断している。
そもそも、先代のヴェガも2019年と2020年に相次いで失敗したことを踏まえると、信頼性の低下が深刻なレベルにあることは否めない。
また、ヴェガCの第4段「AVUM+」にも、ウクライナ製のロケットエンジンが使われている。ESAは「すでに(侵攻前に)イタリアへ送られたエンジンのストックが十分にあるため、中期的には問題ない」としているが、戦争が長引いたり、ウクライナの工場が被害を受けたりすれば、いずれはエンジンの在庫がなくなり、打ち上げができなくなる事態も考えられる。
こうした中、ESAやアヴィオは、ヴェガCのさらに後継機となる「ヴェガE」の開発を進めている。
ヴェガEは、ヴェガCの第3段と、ウクライナ製エンジンを使う第4段を、新型の上段に丸々置き換える。この新型上段には、液体酸素と液化メタンを推進剤に使う新開発の「E10」エンジンを搭載する。ヴェガCの第4段AVUM+では、非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)と四酸化二窒素(N2O4)を使用していたが、液体酸素とメタンにすることで性能が向上し、環境にも優しくなる。名前のEは「Evolution(進化)」から取られており、初期型のヴェガはもちろん、ヴェガCからも大幅な進化を遂げるということが示されている。
ヴェガEの初打ち上げは2026年に予定されている。
ヴェガの未来
ヴェガが引退し、ヴェガCの飛行再開を控えたアヴィオとアリアンスペースにとって、目下の課題はヴェガの信頼性回復にある。ヴェガが2機、ヴェガCも1機が、それもここ数年の間に相次いで失敗したことは一大事であり、今後の欧州の宇宙輸送の自立性を維持し続けるためにも、また商業打ち上げを獲得するためにも、早期の飛行再開と、成功を積み重ねることが求められる。
こうした中で、とくにイタリアにとっては、ヴェガというロケットが存続できるかどうかという危機にも瀕している。ESAは最近、民間のベンチャー企業による小型・超小型ロケットの開発支援に力を入れており、フランスやドイツ、英国、スペインなどから、数多くのベンチャーが立ち上がっている。
たとえば、フランスの「マイアスペース(Maia Space)」が開発中の「マイア」ロケットは、バイオメタンと液体酸素を推進剤とするロケットで、太陽同期軌道に1.5tの打ち上げ能力をもつ。すなわち、ヴェガCと直接競合する性能である。
2025年にも試験打ち上げを行い、2026年からの商業打ち上げの開始を目指している。また、打ち上げ能力は落ちるものの、第1段機体の回収、再使用も視野に入れている。
そして何を隠そう、マイアスペースは、アリアングループの100%子会社であり、そもそもフランス国立宇宙研究センターとアリアングループとの共同研究から始まったベンチャー企業でもある。さらに、マイアには、CNESとアリアングループが開発中の再使用ロケット実証機「テミス」と、それに使用される「プロメテウス」ロケットエンジンの技術が使われることになっている。
こうした、ある意味ではフランスからの三行半とも取れる動きに対し、アヴィオも対抗策を打っている。2023年11月にはESA閣僚理事会において、アヴィオが将来的にアリアンスペースから離れ、自社のみでヴェガCの販売、打ち上げを可能にする決議が採択された。これにより、2025年に予定されているヴェガ29号機の打ち上げまではアリアンスペースが関与するものの、その後の打ち上げからは、アヴィオが自由に、すべてを手がけることになる。
また、2022年には、2030年代ごろの実現を目指した、「ヴェガ・ネクスト」というロケットの開発構想を明らかにした。ヴェガEの技術を踏まえて、全段にメタン・エンジンを使うとともに、再使用型ロケットにもするという。もともとのヴェガの面影はまったくなくなり、米国のスペースXのロケットや、前述したマイアのような、最新の技術トレンドを最大限に取り入れた、野心的なロケットである。
こうした動きは、欧州の宇宙開発にとって、またとない大きな変革である。長い間、欧州のロケットといえばESAが中心となって、欧州各国で分担して開発、製造し、アリアンスペースが運用するのが通例だった。しかし、スペースXの登場によるロケットの価格破壊や、再使用型ロケットなどの新しい技術、そして宇宙ビジネスの発展、市場拡大といった動きを背景に、産業界が中心となってロケット会社アリアングループが立ち上がり、そしてアリアン以外の企業も次々と登場し、欧州内の各国間での競争が起こりつつある。
これは、欧州における宇宙輸送の自立性の維持という観点からは、複数のロケットがあることは望ましく、また市場競争による価格低下や技術力向上などのメリットも見込める。一方で、すべての企業やロケットが生き残れるとは限らず、業界再編などの動きも強いられるだろう。
今後、欧州内のロケット開発競争によって、欧州の宇宙輸送は、そして国際的な衛星打ち上げ市場での立ち位置はどう変わっていくのか、大いに注目したい。
参考文献
・VEGA SUCCESSFULLY LAUNCHES SENTINEL-2C INTO ORBIT | Avio
・ESA - Farewell to Vega
・ESA - Vega
・ARIANESPACE SUCCESSFULLY LAUNCHES EUROPE’S COPERNICUS EARTH OBSERVATION PROGRAM SENTINEL-2C SATELLITE | arianeSpace
・ESA MINISTERIAL COUNCIL: IMPORTANT DECISIONS REGARDING ARIANE 6, VEGA C AND VEGA E | Avio