第1段エンジンは種子島で取り付け、第2段は後続号機で使用

今回、報道関係者に公開されたのは、3号機以降の打ち上げで使用されるH3のコア機体である。コア機体とは、H3の中で三菱重工が製造を担当している、第1段と第2段機体やロケットエンジン、第1段と第2段の間をつなぐ段間部のことを指す。

機体公開が行われた時点で、コア機体は機能試験を終了し、種子島宇宙センターへ向けた出荷準備作業中の段階にあった。一方、種子島ではすでに、打ち上げに使用する2基のLE-9エンジンが領収燃焼試験(試運転)を終えた状態で待ち構えている。

コア機体は種子島に到着したのち、組立棟に運び込まれ、第1段と第2段を発射台の上で組み立てるVOS(Vehicle On Stand)を行い、LE-9とSRB-3を取り付ける。衛星が入っていない状態の衛星フェアリングも取り付け、そして射点に出して極低温点検を行う。

極低温点検が完了したあと、ロケットは一度組立棟に戻り、空の衛星フェアリングを外して、衛星を格納したうえであらためて取り付け、そして実際に打ち上げられることになる。

今回公開されたコア機体のうち、第1段は3号機で使用されるものの、第2段は後続号機(4号機以降)で使用される。具体的にどの号機で使用するかは決まっていないという。3号機の第2段は、以前に製造を終え、すでに種子島に搬入済みの機体が使用される。

このようなあべこべな状況になったのには理由がある。当初は試験機2号機で、SRB-3のつかない30形態での打ち上げを計画していたものの、試験機1号機が失敗したことで、試験機2号機も22形態で打ち上げることになり、そのための第1段が新たに製造された一方で、第2段はそのまま使用された。また、飛島工場から種子島への輸送は、基本的に第1段と第2段をセットで行う。そのため、それぞれの機体の種子島への搬入のタイミングと、打ち上げに使う順番にずれが生じているのである。

ちなみに、当初の2号機で使用する予定だった、30形態の第1段機体は、種子島宇宙センターで保管され続けている。

  • 今回公開された第2段は、次に打ち上げられる3号機ではなく、そのあとの号機で使用される

    今回公開された第2段は、次に打ち上げられる3号機ではなく、そのあとの号機で使用される

また、第1段にロケットエンジンが取り付けられていない点も異例である。

これまでH-IIAやH3は、基本的に飛島工場で第1段エンジンを取り付けたうえで、種子島へ出荷されていたが、3号機ではLE-9なしの状態で送り、種子島で取り付けられる。

これについて、三菱重工でH3のプロマネを務める新津真行氏は、「当初の構想では、飛島工場で取り付けてから出荷することを考えていたが、現在は生産工程などの関係で、種子島で付けることになっている。ただ、飛島工場で付けてから出荷したほうがいいのか、種子島で付けたほうが効率的なのかなど、最終的にどうするかは議論が必要だ」と説明した。

また、岡田氏は「LE-9は開発に時間がかかったため、製造工程に余裕がない状態が続いている。また、領収燃焼試験も種子島で行っているため、種子島でLE-9が仕上がるという状況になっている。そのため、わざわざ飛島工場に戻すことはしない」と説明した。

もともと、種子島でLE-9の装着(つけ外し)をするのは、一時的な、イレギュラーな対応のはずだった。試験機1号機の機体は2021年に、LE-9をつけた状態で種子島へ搬入されたが、その後、LE-9に技術的課題が見つかったことで、一度取り外し、打ち上げ前に改修済みのLE-9が取り付ける必要が生じ、その際に導入されたものだった。

もっとも、岡田氏によると「実際に種子島でエンジンのつけ外しをやってみたら、意外とスムースにエンジンがつけられることがわかった。最初はどこかのタイミングで、飛島工場で取り付ける形に戻さなければと思っていたが、意外と種子島での取り付けでもいけるかも、という感覚がある」という。

なお、LE-9の領収燃焼試験については、将来的には秋田県にある三菱重工の田代試験場で行う計画になっており、現在施設・設備の改修などが進んでいる。もともとH-IIAのエンジンの領収燃焼試験も田代で行われており、また田代で領収燃焼試験を行いつつ、種子島では打ち上げに向けた作業などが並行してできることで、作業効率の向上という利点もある。

岡田氏によると、「現在は種子島で領収燃焼試験をやっているからこういう形になっているが、将来田代で行うことになったら、そのときはまたあらためて判断する」と語った。

  • 3号機を含め当面は、LE-9をつけない状態で種子島へ出荷される

    3号機を含め当面は、LE-9をつけない状態で種子島へ出荷される

3号機以降に向けて

また、やや目立たない点だが、打ち上げの体制も徐々に変わっている。

H3プロジェクトの当初の計画では、3号機から運用を三菱重工に移管することになっていた。しかし、試験機1号機の打ち上げが失敗したことで計画が変わり、3号機は試験機ではないものの、まだJAXAと三菱重工が共同で運用するという体制になっている。

ただ、三菱重工が主となって進められる部分については、徐々に任せるようにしていくとのことで、現在その具体的な調整を進めている段階だという。3号機がその出だしとなり、4号機以降も含め、徐々に三菱重工が主として担う割合が増えていき、いずれ完全に移管するというイメージになるという。

なお、H3にはSRB-3を4本装着した24形態、SRB-3を装着せず、LE-9を3基装着した30形態があり、今後どこかのタイミングで打ち上げが行われる。岡田氏は「とくに30形態は、22形態とは大きく異なる点がある。そのため、30形態の打ち上げ前にはCFT (打ち上げのリハーサル)をやるなど、試験機的な要素が強くなる。そのとき(体制などを)どう取り組むかは、三菱重工と相談することになる」とした。

また、試験機2号機の評価は進行中ではあるものの、すでにわかっている改善点については、3号機から適用済みだという。

新津氏は「ロケットは飛ばしてみないとわからないことがある。とくに2段機体は長い間宇宙空間にいるので、タンク内の推進薬がどういう挙動をするか、各所の温度がどうなるか、また軌道を周回してエンジンに再着火する際にどういう状態になっているかなど、フライトでしかデータが取れない。試験機2号機でその点を見ると、少し余裕が少なかったり、予測と違ったりすることがあったので、秒時などのパラメータを少し変えている」と説明した。

新津氏はまた、H3の商業打ち上げについて、「昨今、世界各国で新型ロケットの開発が遅れたり、スペースX一社が独占のような状態になっていたりし、世界的に打ち上げの需要は高くなっており、そこにおいてH3は代替手段になりうる」と説明したうえで、「試験機2号機の打ち上げより前から、諸外国からかなりの数の引き合いが来ている。打ち上げが成功したことで、実際の契約締結に向け、話が進んでいる」と明らかにした。

苦難を乗り越え、ついに打ち上げに成功したH3だが、安定した運用に入るまで、まだその道程は遠い。日本の次世代基幹ロケットと、世界で戦える商業ロケットを目指した挑戦はこれからも続いていく。

  • 出荷を待つH3ロケット3号機の第1段機体

    出荷を待つH3ロケット3号機の第1段機体