パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)は2024年3月25日、光害(ひかりがい)対策および防眩(ぼうげん)仕様のグラウンド向けLED投光器「アウルビームER」を発表しました。
光害対策というのは、屋外のグラウンド照明などで対象物以外の部分を照らしてしまう光漏れを抑制するもの。防眩仕様は、投光器を直視した場合にまぶしく感じるエリアを小さくする仕様を指します。
※光害:「こうがい」と読むケースもありますが、パナソニック エレクトリックワークス社では「ひかりがい」と読んでいます。
同社は2020年から光害対策仕様のLED投光器「アウルビーム」を展開してきましたが、今回のアウルビームERは光漏れの抑制性能を高めただけでなく、低消費電力性能は約3割向上し、約35%の軽量化によって施工もしやすくなりました。
公共グラウンド向け照明は「光害対策」が重要
アウルビームERを開発した背景について、パナソニックEWの鈴木達朗氏は「大規模スタジアム、中規模スタジアム、公共グラウンドといったように、規模によって課題が変わってきます」と話します。
「大規模スタジアムや中規模スタジアムでは、ナイター照明を点灯しても日中と変わらないような『プレーしやすい環境』が重要です。サッカーや陸上競技では明るくする場所が変わりますので、点灯・消灯のしやすさなど、多目的に利用できる柔軟性も大きいです。観客が入るとなると、体験価値の向上も収益性に影響します」(鈴木氏)
さらに公共グラウンドになると、光害対策も重要に。
「大規模スタジアムや中規模スタジアムと比べて施設の利用頻度が高いですし、住宅地の中に位置することも多いため、近隣住人の皆さんとの良好な関係性も大切。そこで出てくるのが、光害と呼ばれる照明光の悪い影響です」(鈴木氏)
光害とは、環境省が1998年に出した「光害対策ガイドライン」によると「良好な照明環境の形成が、漏れ光によって阻害されている状況またはそれによる悪影響」と定義されています。
「住居の中に施設の光が入ってきて睡眠に支障が出る家庭もありますし、車の運転中にまぶしくて歩行者が見えにくい、運転しにくいといった影響もあります。日中と勘違いして植物の生育に影響が出るとか、月明かりで海の方向を判断しているウミガメの子どもが間違って照明の方向へ歩いていってしまうなど、野生生物への影響もあります。空気中に散乱している水分などに光が乱反射することで、夜空の星が見えにくくなるといった影響もあります」(鈴木氏)
こうしたことから、パナソニックはナイター照明のあるグラウンドの近くに住む住民にWebアンケート調査(2024年2月)を実施したところ、グラウンドからの夜間の光漏れについて約39%が「ある」と回答したとのことです。
「グラウンドの周囲200m~500m未満では、46%の住人が夜間の光漏れが気になっていると答えました。また、20代と30代の人は50%以上と、若い世代のほうが気になると感じている人が多いという結果も出てきました」(鈴木氏)
夜間の光漏れによる困りごとが「ある」と答えた103人に調査したところ、「まぶしくて車や自転車を運転しにくく危険」が約47%で最多。ほか、「明るくて虫がよってくる」が約40%、「まぶしくて眠れない」が約38%という結果でした。
近隣住民に加えて、グラウンドでスポーツをプレーするプレーヤー400人、グラウンドの管理者・設計者400人、工事会社100人にも調査を実施。
「実際にプレーされる皆さんにナイター照明のまぶしさがプレーに影響したことがあるか聞いたところ、20代のプレーヤーの約70%がまぶしさの影響を感じているという意見がありました」(鈴木氏)
こうした光害への対策としては従来、照明器具に「ひさし」をかぶせて上方への光をカットする「遮光フード」や、ブラインドのようなもので上下方向の光をカットする「遮光ルーバー」がありました。
「遮光フードは遠方への光害対策にはなりますが、風の影響をかなり受けやすいのと、ボールなどがぶつかって落下する危険性があります。また、正面から見るとまぶしさはまったく変わりません。一方の遮光ルーバーは、正面から見た場合のまぶしさは多少減るものの、照明効率が悪くなります(編注:電気代にも悪影響)」(鈴木氏)
パナソニックEWのアウルビームシリーズはLED照明であり、従来のHID光源と比べて大幅な省エネを実現しました。
「小型LED素子の前方にレンズを搭載し、レンズの制御技術をより先鋭化させたことで、電力ロスや明るさロスの少ない光害対策を行えます」(鈴木氏)
環境面や人手不足への対応でもLED投光器への置き換えが必須に
パナソニックEWの小原和輝氏は、従来のHIDランプからLEDランプへの置き換えが必要になる理由として、「HIDランプの生産終了」と「電気設備業界の人手不足」があると語りました。
「LED化していないナイター照明の大半はHIDランプですが、消費電力の大きさ、高所でのランプ交換に手間と費用がかかります。一方でLEDの台頭や地球環境保護の観点から、各社はHIDランプの生産を終了している状況です。当社も2023年9月に受注を終え、2024年3月に生産を終了することになっています。このような背景から、今後はLED照明の必要性がますます加速することが予測されています」(小原氏)
こうした背景から生まれた新型のアウルビームERは、光害対策、高効率で省エネといった特徴を持つ従来品の「アウルビーム」と、軽量で高い施工性、高効率で省エネな「グラウンドビームER」の長所を併せ持った製品とのことです。
特徴の1つ目は「光害を大幅に抑制すること」です。
「光軸から上方15度の絶対光度を2,500cd(カンデラ)以下に抑えることで、環境省の光害対策ガイドラインの最高レベル『E1』を達成しました」(小原氏)
これを実現するため、上向きの配光を持つ「レンズA」と下向きの配光を持つ「レンズB」を組み合わせた独自の新設計レンズを採用。「これによって光漏れを大幅に抑制する配光を実現しています」と小原氏は語りました。
特徴の2つ目は、プレー時のまぶしさを抑制する「防眩仕様」です。
「独自の光学技術によって、光軸から上方8度以上の輝度を抑制し、快適なプレー環境を提供しています。光軸の方向を下方7度から上方10度へ変更することで、実際に点灯するときはより下向きに傾けることになります。それによって見た目の発光面積を制限し、それによってもまぶしさを抑制しています」(小原氏)
実際にどのように変化したのか、先ほど紹介した東綾瀬公園野球場での導入効果が紹介されました。
「光漏れは、グラウンド周囲にある背の高い建物の延長面に当たっている光の量が大きく減っています。フライボールの視認性も大幅に改善しました」(小原氏)
既設のHID照明から台数を削減して置き換え可能
3つ目の特徴として、小原氏は「既設のHID照明から台数削減で置き換えが可能な点」を挙げます。
「HID投光器をアウルビームに置き換えると、同程度の照度を保つためには台数が増えてしまいましたが、新型のアウルビームERに置き換えた場合はHID投光器と同じくらいの照度を確保しながら台数を削減可能です。これによって消費電力も大幅に抑制できます」(小原氏)
4つ目の特徴は「軽量・省施工」です。
「灯具、電源ともに約35%と大幅な軽量化を図りました。取り付けやすさや角度調整のしやすさなど、省施工の面で大きく改良を図っています」(小原氏)
今後の展望として小原氏は「近隣住民への光漏れを防ぎ、プレーヤーのまぶしさを抑制した投光器をスタンダード化していきたい」と語りました。
「電気工事業界が抱える高齢化、人手不足、労働基準法改正などの労働課題を解決し、短工期を実現する省施工商材の展開を強化していきます。投光器全体の売り上げ台数を伸ばしつつ、投光器におけるアウルビームとアウルビームERの割合を3年後には現状から約2倍の30%まで持っていきたいと考えています」(小原氏)
メディア向けの後にはほぼ同じ明るさにそろえた「グラウンドビームER」との光漏れの違いを比較するデモも行われました。