スポーツ観戦、応援するチームにどっぷり寄り添うファン向けの実況が聞きたい! そんなニーズに応えた、スマートフォンで配信&聞くクラウド型音声配信サービス「CHEERPHONE」(以下、チアホン)を熊谷ラグビー場で体験しました。

  • 熊谷ラグビー場でチアホンを体験

ブラウザベースで動作する実況配信サービス

チアホンのシステムはパナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)が有償で提供し、配信は別途パナソニックEWと契約した事業者が行います。2021年9月からサービスを開始(有償サービスは2022年4月から)しているので、すでに触れたことのある人もいるのではないでしょうか。

サービス開始以降、アップデートを繰り返してユーザー体験価値を向上しています。先に現在の仕様について紹介します。

チアホンはLTE回線を用い、1台のスマートフォンでリアルタイム配信できる点の特徴。遅延時間は約0.3秒で、通信環境さえ確立できれば移動しながらでも配信可能です。ブラウザベースで動作するため、配信側も聞く側も専用アプリは不要。URLを二次元コードで発行すれば、リスナーは二次元コードを読み取るだけで受信用画面にアクセスできます。

  • チアホンは、スマートフォンだけでリアルタイム配信を実現するサービス

  • 専用機材を使用しないサービスは、これまでのパナソニックではあまりない取り組み

事前にリスナーにURLを知らせておくと、スマートフォンのGPS機能を利用して、スタジアムに来場中のリスナーだけ聞ける限定配信にも対応します。配信は音声のみなので、通信量は1時間あたり0.03GB(約30MB)くらい。YouTubeの高画質動画に換算すると30秒程度の容量に抑えられます。

チアホン自体に課金機能はなく、有料にするかどうかや有料時の金額は配信者側が決めます。過去の事例では、チアホン対応チケットを別途準備して、通常のチケットと価格差を設けて販売したり、VIPグッズの中にインクルードしたりして提供したケースもあるとのことです。

チアホンを担当するパナソニックEW マーケティング本部スポーツビジネス推進部の木村文香氏は、「チームや選手をよく知ることで、ただ見ているだけでは気が付かない感動に出会えることがあります。チアホンの目的はその感動を共有することです」と述べています。

テレビのスポーツ放送は、日本のチーム同士や選手に対しては基本的に中立的な立場の実況解説が多いもの(例えばプロ野球中継ではホームチーム寄りの実況解説も多いですが……)。チアホンの場合、実況する主体が試合の運営会社や中立的立場の報道機関ではなくてもよいため、実況や解説の内容が特定のチーム、選手を応援するものであってもかまわないことになっています。

リスナーはわっと盛り上がったときに何があったのか、新しく加わった選手のバックボーンはどうなっているのか――といった情報を、ファン目線の実況とともに観戦できるのです。

  • ファン意識と強く結びつくことで、チアホンユーザーの多くが高い満足度を示しているといいます(数値はチアホン利用時の顧客アンケート調査)

ファンを盛り上げる、チアホンによる試合の実況を体験

今回、JAPAN RUGBY LEAGUE ONE所属のラグビーチーム「埼玉パナソニックワイルドナイツ」の試合を観戦しながら、チアホンの実況「WILD KNIGHTS RADIO」を体験しました。試合会場の熊谷ラグビー場は「ラグビーワールドカップ2019」でも使われた、約2万4,000席を持つ国内有数のラグビー専用スタジアムです。

まず実況席におじゃましました。解説はワイルドナイツOBの高安厚史氏が務め、ゲストスピーカーとして谷昌樹選手と金田瑛司選手が参加します。

  • 奥から、高安厚史氏、金田瑛司選手、谷昌樹選手。三人とも関西出身で、ボケとツッコミが多めの熱い関西弁トークで盛り上がりました

  • 配信機材はスマートフォンとヘッドホンマイクがあればOK。この日は予備のスマートフォンやバッテリー類も完備していました

  • 配信画面

試合が始まると、スタジアムの南北2カ所に立つ電光掲示板に二次元コードがしばらく表示されました。二次元コードを控えて来なかった人でも、電光掲示板の二次元コードを読み取ってチアホンの実況解説を聞けたはず。これは良い配慮ですね。

  • 電光掲示板にチアホンの二次元コードを表示

観戦時は一般客の観戦をじゃましないよう、Bluetoothイヤホンを使用。遮音性の高いヘッドホンのほうが実況もよく聞き取れますが、せっかくスタジアムに来ているからには、会場の熱気を感じられる(周囲の音が耳に入る)イヤホンがオススメ。ノイズキャンセリング付きの完全ワイヤレスイヤホンなどを使う場合は、ノイズキャンセリングをオフにして周囲の音が聞こえるように設定しましょう。

また、骨伝導タイプのイヤホンは静かなときなら聞き取りやすいものの、どっと盛り上がったときはビリビリした感覚があって聞き取りにくくなるようです。

さて、自分のスマホで二次元コードを読み取ってURLを開き、チャンネルをタップ。実況が始まると「Join」をタップできるようになります。画面は試合概要、聞いている人の数、いいね!の数、実況者の名前と顔写真、質問受付などが表示されるシンプルなもの。観戦中は画面を見ている必要はありません。

  • チアホンの実況は試合開始前の選手入場の段階で始まっています

  • チアホンの画面

試合中のチアホン接続数は、300人から400人の間で増減する印象。観客数にもよると思いますが、今のところ毎回このくらいの人数に落ち着くそうです。遅延は感じられず、実況の声もボリュームを上げておけば問題なく聞き取れました。

反則があったときや、レフェリーが判定について説明する場面では、レフェリーの声を実況でも拾って聞こえやすくしています。そのうえでどのようなプレイだったのか、ペナルティはどうなるのかなど、ラグビーに詳しくない人でも何が起きているのか分かるように解説してくれました。

  • レフェリーの説明も、実況で分かりやすく解説

ただ、会場アナウンスとかぶったときにどうしても聞き取りづらくなります。会場アナウンスのほうをミュートしたくなりました(もちろん無理です)。

聞いている途中、何度か音声が聞こえなくなることも。今回は複数人で一緒に体験していたのですが、人によって聞こえなくなるタイミングや頻度が異なりました。配信側というよりは、受信側(ユーザーのスマートフォン側)の設定、端末やキャリアの種類などが影響しているようです。それほど頻繁でもなかったため原因は特定できず、ブラウザ画面を再表示したり、イヤホンをオンオフしたりするとすぐ復旧しました。

ただ見ているだけでは気が付かない感動に出会えるツール

今回はラグビー観戦でチアホンを体験しましたが、良いプレイがあれば実況も盛り上がり、活躍した選手を褒め称えつつ、プレイのどこが良いところなのか評価していくため、ラグビーやチームに詳しくなくても聞いていて楽しめました。

OBや現役選手が実況するだけあって、選手のバックボーンやプレイ中のちょっとしたミスも、愛情にあふれたいじり方で紹介することもあり、親近感がわいてきます。耳元から聞こえてくるため、すぐ隣で陽気なおじさんたちが熱心に応援しているような感じです。

このあたりはチアホンの機能や性能によるものではなく、実況者の腕の見せどころ。それでも木村氏の言っていた「ただ見ているだけでは気が付かない感動に出会える」の意味が分かったような気がします。

野球、サッカー、テニス、ゴルフ、格闘技、マラソン……、スポーツ観戦が大好きな人にとって、応援している選手やチームの活躍は胸が躍る楽しみです。チアホンがあれば、テレビの前ではなく、スタジアムなどに出かけて生で観戦することが一層楽しくなり、出かける機会を増やす動機づけにもなりそうです。

パナソニックEWは、スポーツ以外の市場や海外への展開も見据えて事業を推進していく方針。この仕組みであれば、観光ツアーや社会科見学、企業の研修にも応用できるでしょう。思わぬところで触れる機会が巡ってきそうなサービスになりそうです。

  • スポーツ以外の展開も視野に入れて推進