誰もが一度は聞いたことのある、“不快な音”をあえて体感できる音響XRイベント「不快ミュージアム by nwm×NTT」が、3月24日まで東京・原宿で開催中だ。NTTソノリティが展開する、耳をふさがない「耳スピ」(オープンイヤー型イヤホン)などを活用した企画を、実際に現地で体験してみた。

  • 「不快ミュージアム by nwm×NTT」3月24日まで東京・原宿で開催中

  • 同イベントで貸し出されるiPhoneと、耳スピこと「nwm MBE001」

このイベントは東京・原宿の2カ所で開催されており、いずれも入場は無料。メイン会場は予約優先制だが、空いていれば当日受付・入場もできるという(掲載時点では若干の余裕がある模様)。詳細は公式サイトもあわせて参照のこと。なお、サテライト展示は予約なしで体験可能だ。

  • 今回のイベントを企画したNTTソノリティの坂井博社長(左)と、技術面を担当したNTTコンピュータ&データサイエンス研究所の中山彰氏(右)。“不快”にちなみ、あえてイヤそうな顔をしてもらった

不快ミュージアムへの行き方

不快ミュージアムのメイン会場は、商業施設「ラフォーレ原宿」のある交差点にほど近い「UNKNOWN HARAJUKU」(アンノン原宿、東京都渋谷区神宮前6丁目5-10)。東京メトロ「明治神宮前(原宿)駅」4番出口からは歩いて5分もかからない距離にある。直接メイン会場に向かうのであれば、JR原宿駅から長い坂道を下って行くよりもこちらのほうがオススメだ。

  • 商業施設「ラフォーレ原宿」のある交差点

  • 表参道方面に向かう横断歩道を渡る

  • アパレルショップが建ち並ぶ場所にある、細い道(中央下)へ曲がってしばらく進むと、左手に会場が見えてくる

サテライト展示のほうは、JR原宿駅前の複合施設「WITH HARAJUKU」(ウィズ原宿、東京都渋谷区神宮前1-14-30)で実施。こちらは1階の吹き抜けエリアにブースが用意されていた。

  • JR原宿駅前の複合施設「WITH HARAJUKU」

  • 不快ミュージアムのサテライト展示(撮影日は設営中だった)

オナラに下手なピアノ、訳あり物件、蚊の羽音……これでもかと詰め込んだ不快な音

不快ミュージアムのメイン会場は古民家風の建物。大きく3つのエリアに分けて、それぞれ異なる“不快な音”を体験できるようにしている。

  • 不快ミュージアムの最初のエリア。右側に意味深な“タワー”が……

  • 次のエリアはミュージアムらしいつくりだが、ここでも複数の不快な音をそろえている

  • 階段を上がった先の最後のエリアは、夏に湧く「アレ」の音に責め立てられる

  • 雰囲気の良い古民家風の建築物だが、不快な音たちがすべてを台無しにする(?)

最初のエリアに入ってまず目につくのは、巻かれたトイレットペーパーを山積みにしたタワーに、トイレの便座を模したオブジェ。その右奥には白いピアノのオブジェ、左奥には学校の机のオブジェと、白い階段がある。

1階部分で活用するのは、nwmブランドの耳スピこと完全ワイヤレスイヤホン「nwm MBE001」と、iPhone 15 Proシリーズ。どちらも来場者に貸し出されるもので、これを使って不快な音を体験できる。使用するイヤホンは耳穴をふさがず、内蔵した小型スピーカーから耳穴に向けて音を出すタイプなので、耳栓が苦手な人にもやさしいつくりといえる。

  • 耳スピこと「nwm MBE001」を装着したところ。耳穴をふさがないつくりがユニーク

  • 来場者に貸し出されるiPhone 15 Proシリーズ。専用アプリが立ち上がっているが、画面を見たり操作したりする必要はない

ここからは写真と共に、不快ミュージアムの展示物をみていこう。あえてどんな音がするか……には触れないが、本文の説明とあわせてイメージしてみてほしい。

洋式便器のオブジェは、誰でも座れる場所。座ってすぐ、あまり聞きたくない(そして思わず鼻をつまみたくなるような)音が聞こえてくる。会場での説明によれば、“結構アナログ的に、生々しく注文して録った”音なのだそうだ。筆者はそこまでえげつない音とは思わなかった(が、もちろん感じ方は人によるだろう)。

  • 意味深なトイレットペーパーのタワーのそばにトイレ(のオブジェ)

ピアノの前に座ると、付近のスピーカーから流れる正しいキレイな演奏に混じって、耳元からもピアノの音が流れてくる。耳に近い方の演奏はリズムがおかしいわけではないのだが、半音下がったようで調が合っておらず、あまり長くはきいていられない。

  • 「ピアノコンクール3318番」。耳イヤ(3318)とかけたネーミングなのだろうか

学習机の前に座れば、学生時代何度か耳にしたであろう“黒板をとがったものでひっかく音”がする。その隣の小さな階段を上がると、今度は爽やかな風が通り抜ける山(崖)の音に包まれるのだが、なんだか喉元を逆流していくような異音が耳元に……。

このエリアの不快な音はいずれもNTTの社員らが身体を張ったサウンドということだが、その涙ぐましい努力にはある意味、頭が下がる。

  • 大人には懐かしい「黒板のイヤな音」も体験できる

  • 爽快感ある崖の上の風の音を聴きながら……

小さな階段の反対には、2台の固定電話機が置かれたコーナーも。それぞれの電話機に付けられたキャプションどおり、酒に酔った父や、上司(深井音哉 部長補佐、52歳)の生々しいセリフを聞ける。筆者は深井氏の電話の方を取ってみたが、パワハラとしか言いようがない言葉のオンパレードで、「こんなASMRはいやだ」の代表作もしくは金賞に選んで良いと思った。

深井氏はもちろん実在する人物ではなく、聞けるシチュエーションも“社員から寄せ集めた体験談を元に再構成した架空のもの”ということなのだが、トラウマがある人は体験しない方がいい。あえて、オススメしない。

  • 酒に酔った父と、上司からの電話をとれるコーナー。どっちも取りたくない(結構リアルなので、トラウマがある人はむしろ体験しない方がいいかも)

隠れたスポットだが、「訳あり物件」のコーナーは個人的に結構笑えた。扉を開けて中に入ると、それこそ訳ありな部屋の環境音が上下左右から押し寄せてくるのだ。筆者はこんな部屋に住んだことはないのだが、マンガの世界みたいで思わず噴き出してしまった。ただこれも、こういった物件に実際に住んでいた経験があり、もう二度と聞きたくない! という人には、オススメしない。

  • 訳あり物件のスペース。ここも結構リアルなので(以下略)

恐怖体験という意味では、壁面の展示の中でもひときわ目立つ「5G」の音。大量の「G」の音が身体中をむしばんでいく、アレだ。昨今の5Gスマートフォンの電波チックな音(?)が聞けるわけではない。これも、トラウマ持ちの方には本当にオススメしない。その奥にある、同館の“館長”を務める俳優・磯村勇斗さんの会場限定不快ボイスのほうがまだかわいい。

担当者によれば、磯村さんの不快ボイスはいくつかパターンがあったようなのだが、マネージャーから「不快すぎる」とNGを食らったために比較的マイルドなモノが採用されているとのこと。実際に聞いてみると「マイルドか……?」とやや首を傾げてしまうが、ちょっとしたホラー映画気分を楽しめるのではないかと思う。

  • 大量の「G」の音を体感。わりとリアルなので(以下略) ネーミングはNTTらしく、電波の方の「5G」に引っかけてつけたのだとか

会場の奥まったところでは、自分の声を“オリジナルの不快音”に変換できる体験コーナー「みんなでつくる不快音」を用意。パネルに書かれたセリフでもいいし、自分で思いついたフレーズでもいいので、NTTソノリティ製の会議用マイクスピーカーにそれを吹き込んで、隣のスペースに移動する。

そうすると、ネットワークのパケット落ちによる音質の劣化に加え、不快感をかもしだすエフェクトをかけた自分の声が聞ける、というわけだ。オンライン会議の機材にあんまり配慮していないとこういうことが相手には起きているんですよ、という注意喚起にもなりそうな気がする。

  • オンライン会議でありがちな“不快な音”をあえて作れるコーナー

  • 不快音を吹き込んだら、隣のコーナーでさっそく試聴

  • 大型モニターの上にスピーカーと操作部、Webカメラが設置されていた

なお、1階部分には目には見えないが、実はさまざまな場所に位置情報のマーカーが埋め込まれているようで、その近くに来場者がやってくると指定の不快音が流れてくる仕組みになっている。そのため、場合によっては意図しない場所で別の展示の音が流れてくる可能性もあるので気をつけたい(特に、固定電話のコーナー付近など。)

  • 貸し出されるiPhoneの画面を見ると、館内の位置位置を示すARマーカーのようなものがカメラ越しに見えた(ある意味、技術的なネタバレにちかいので見ない方が楽しめる、かも)

最後は2階の「夏の襲来」コーナー。そろそろ桜が咲きそうな頃合いだが、季節を先取りして“真夏の不快な音”を全身で体感できる。

  • 2階の「夏の襲来」コーナー

  • “夏らしい爽快感と不快感”を同時に体験できる

照明を落とした2階の一室には、大きなフロア型スピーカー4基と天井スピーカー4基で構成したサラウンドシステムが用意されており、来場者はここでイヤホンを有線タイプの耳スピに付け替える。

聴き始めは特に身構える必要はなく、夏にどこかの田舎をおとずれて自然の音を聞いている感覚。蚊取り線香がだんだん小さくなっていく映像をぼんやり眺めていれば、一気に夏気分に浸れる。特に後半、夜の花火大会を思わせるシチュエーションはとても臨場感があった。

ただ問題は、蚊の羽音だ。ひとつだけならいいが、担当者も「やりすぎたかな」と苦笑するほど、大量の蚊が360度飛び回る音がしだいに大きくなっていく。

虫が苦手な人は、本当に2階だけは行かないで欲しい(本当に)。

  • 2階では、有線タイプの耳スピに付け替えて体験

  • 音が出る部位は、ワイヤレスタイプと同じで耳をふさがない

「不快な音」追求しNTTの技術をたっぷりムダ遣い。nwmの今後は?

不快ミュージアムで活用されているNTTの音響XR技術は、ざっくり説明すると2種類に分かれている。

ひとつは、耳をふさがないオープンイヤー型イヤホン(耳スピ)を装着した来場者が特定の場所(トイレやピアノなどを模したオブジェクトや、電話や絵画の目の前など)に来ると、それにあわせた音を耳スピから流す「位置情報活用型の音響再生技術」。これは会場で貸し出されるiPhoneとワイヤレス耳スピの組み合わせで使われている。

そしてもうひとつは会場2階の体験コーナーのように、特定の場所に設置したサラウンドスピーカーと、来場者が着ける有線の耳スピを高精度に連動させる「移動音源表現技術」だ。距離が遠い音はスピーカーで流し、近い音はイヤホンで流すことで、音の“距離感”の再現を行っているという。

こうした技術をある意味「ムダ遣い」することによって、不快ミュージアムならではの“不快さ”が実現されている、というわけだ。

  • NTTの音響XR技術について解説する、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の主幹研究員・グループリーダー・博士(工学)である中山彰氏

坂井社長は、今回のイベントについて「コロナ禍もあり、nwmブランドの立ち上げ当時からずっと開催したくてもできなかった大規模なタッチポイントイベントを、今回満を持して企画できた」と自信の程を見せた。

  • NTTソノリティの坂井博社長

あえて「不快な音」を選んだ理由については、「人が聴覚から得る情報は視覚よりも限られるが、『これ何だろう?』というように、情報に対してより集中する傾向があると言われている。聴覚を刺激する音を追求した結果、誰もが想像しやすく、人間の感覚に直接訴えてくるような、そういう音を……ということで選んだ」と説明。

不快な音の候補は50個近く挙がったそうだが、一番大事にしたのは「来場者が聞いて分かるか?」という点。誰もが一度は経験をして「あれか!」と思ってもらうことを採用の条件としたそうだ。

ほかにも、NTTが研究している「音響的な不快さ」を逆手にとって作った音が使えることも条件のひとつで、その一例が「ピアノコンクール3318番」だ。スピーカーから流れる“キレイに弾いている演奏の音”に、あえて音程を下げたヘタな演奏を耳の近く(nwmの耳スピ)で聞かせると気持ち悪く感じる……という音響学的なアプローチを行った点が特徴だ。

かなり突飛な企画を打ち立てたNTTソノリティだが、耳スピの技術はすでに、スポーツ観戦や歌舞伎といったイベントごとにおいて、試合観戦や観劇を行いながらリアルタイムの解説を耳元に流すといった新しい体験を提供するために活用されている。坂井社長は、今後もさまざまなアイデアをビジネスに昇華させ、各種パートナーと大きなタッチポイントイベントを創出することに取り組むほか、新製品の投入にも意欲を見せ、「さらに進化したものをお届けできる予定」と話した。

なお、不快ミュージアムで活用しているnwm製品は、その場で買うこともできる。耳をふさがずに使えるnwmの耳スピが気になった人は、購入を検討してみると良いだろう。

  • 現行のnwm製品が会場にズラリ

  • 各種クレジットカードなどが使える

また、会場の外でひときわ目立つ大きなガチャガチャを引くと、館内で使われたワイヤレスイヤホン「nwm MBE001」など、nwm製品を購入するときに使える割引クーポン(10%~50%)や、同館の館長を務める俳優・磯村勇斗さんのポスター、サイン入り製品などが手に入るそう。ガチャを引いたすべての人が“不快な音”を聞けるQRコードも入っているとのことで、今回のイベントを追体験したい奇特な人も要チェックだ。

  • 会場の外でひときわ目立つ大きなガチャガチャ。nwm製品購入時に使えるクーポンなどが手に入る