2024年2月13日から25日にかけて、タクティカルシューティングゲーム『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)における年間最大の世界大会「Six Invitational 2024」が、ブラジル・サンパウロにて行われました。

トーナメントを勝ち進んだ6チームが出場する最終3日間は、9,000人を超える観客が集うイビラプエラ体育館(Ginásio do Ibirapuera)にて開催。現地で取材した、ブラジルファンの熱狂的な応援に包まれた3日間の模様をレポートします。

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    「Six Invitational 2024」のゲートが設けられたイビラプエラ体育館の入り口

ステージを360度囲む観客席とやまない声援で迫力の空間

日本からサンパウロへの移動は、アメリカ経由で2本の飛行機を乗り継ぎ、トータルで29時間ほど。季節も昼夜も日本とは真逆の、地球の裏側に近い場所です。サンパウロの空港では、「Six Invitational 2024」の広告を発見。こうした広告は、会場近くのバス停など街中でも見られ、ブラジル開催での盛り上がりを演出していました。

会場になったイビラプエラ体育館では、中央にステージが設けられ、それを360度ぐるりと観客席が囲みます。チケットは、9,000枚を超える3日通し券がソールドアウト。座席は自由席ですが、選手席の目の前にあるフロア席には、ELITEチケットを購入した人だけが座ることができました。

初日のスタートは金曜の午前中で、まだ観客席は埋まり切っていません。しかし、会場では初戦が始まる前から、太鼓の音が先導する応援コールが鳴り響き、熱気に包まれます。この応援スタイルは、サッカーの文化がベースになったもの。ブラジルでは国民的スポーツとしてサッカーが非常に盛んで、その文化が深く根付いていることが影響しています。

日本のeスポーツシーンでは、緊張感のある静寂と盛り上がりの歓声による、緩急のついた応援が主流です。さらに、チームや選手を“推す”という、アイドル文化をベースにした応援スタイルがあります。特に日本の個性的な応援ボードは、声を出さなくても視覚的にアピールできる応援方法。そう考えると、常に音が鳴りやまないブラジルの応援スタイルは、かなり対照的に感じられます。

また、ブラジルの会場を見渡すと、体感では9割が男性ファン。日本の会場では女性ファンも増えていて、すっかりそれに慣れている私としては、男性ファンの多さに圧倒されました。このあたりにも、ベースになっている文化の違いが現れているかもしれません。

これらは決して、どちらが良いかという話ではなく、単なる文化の違いだと感じます。とはいえ、地理的にこれだけ離れた国ともなると、応援スタイルにもここまで違いが出るのだなと、開幕から驚かされました。

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    サンパウロの空港に到着すると、「Six Invitational 2024」の広告がお出迎え

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    オープニングでは、オーケストラ演奏をバックに勝ち進んだ6チームの選手が入場

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    中央のステージを360度囲む客席が設けられた迫力の空間

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    大きな会場だが、ELITEチケットならプレイする選手を目の前で見られる

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    客席からは絶え間なく一体感のある応援コールが鳴り響く

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    大きな太鼓を鳴らす集団がリズムをとり、会場のコールを先導する

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    ブラジル国旗のほか、ブラジルチームを応援する巨大なフラッグも登場

驚くほどに徹底された、ブラジルの自国チームへの応援

初日の試合は、NAチーム「DarkZero Esports」とEUチーム「G2 Esports」の対戦からスタートしました。どちらもブラジルチームではありませんが、会場はブラジル出身のAlem4o選手がいる「G2 Esports」に向けて、大きな声援を送ります。

続く試合からは、ついに地元ブラジルチームが登場。第2試合はNAチーム「Soniqs」とブラジルチーム「w7m esports」の対戦、第3試合はブラジルチーム「FaZe Clan」とロシアチーム「Virtus.pro」の対戦です。会場のボルテージはますます上がり、熱狂的なブラジルチームへの応援が響きわたりました。

応援の熱量もさることながら、対戦相手へのブーイングにも驚かされます。試合前にMCが出場チームの名前を叫ぶと、ブラジルチームなら大歓声、それ以外のチームなら大ブーイングが巻き起こる流れが、お決まりのようになっていました。それに続く試合直前のインタビューでは、アウェイチーム側の選手が話しても、コメントがブーイングでかき消されてしまいます。

さらに、ブーイングのあとには「Uh, Vai Morrer!」という大合唱が続きます。これについて通訳さんに聞いてみたところ、「死ぬぞ(You will die)!」という意味とのこと。ブラジルの観客がスポーツで対戦相手を煽るときに使う言葉で、サッカーの試合ではチームがペナルティを受ける場合もあるほど、マナー的にはギリギリのものだそうです。

日本のeスポーツシーンでは、海外チームにもリスペクトある温かい声援が送られるのが当たり前なので、もはや真逆ともいえる応援スタンス。こうしたブラジルの徹底した応援は、うわさには聞いていたものの、実際に目の当たりにするとなかなか衝撃的です。

初日に行われた3試合はすべて、会場が応援するチームがストレート勝利。アウェイのチームが会場の声援をはねのけて勝利する展開も見たかったのですが、それは1マップも叶わないままに初日が終了しました。

■Day1の試合結果

・第1試合(ロワーブラケット準々決勝)
DarkZero Esports [0-2] G2 Esports
マップ1:5-7(高層ビル)
マップ2:3-7(銀行)

・第2試合(ロワーブラケット準々決勝)
Soniqs [0-2] w7m esports
マップ1:2-7(クラブハウス)
マップ2:3-7(銀行)

・第3試合(アッパーブラケット決勝)
FaZe Clan [2-0] Virtus.pro
マップ1:7-3(領事館)
マップ2:7-4(カフェ・ドストエフスキー)

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    初日は「DarkZero Esports」対「G2 Esports」の試合からスタート

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    会場からの大きな声援を受けていた「G2 Esports」Alem4o選手

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    第2試合を戦う「Soniqs」と「w7m esports」の入場

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    大ブーイングのなか、試合直前のインタビューに答える「Virtus.pro」JoyStiCK選手

真夏の開放的な屋外で、さまざまなコンテンツを楽しむ

昨年の「Six Invitational 2023」は、雪が降りしきる真冬のカナダ・モントリオールで行われましたが、ブラジルは気温30度を超える真夏。オフィシャルグッズストアをはじめとする、さまざまなブースは屋外に設けられ、とても開放感あるレイアウトになっていました。

フードエリアも屋外にあるため、応援が鳴り響く会場から離れて、ご飯を食べながら一息つくこともできます。突然のスコールに見舞われ、外にいた人たちが一斉に屋内へ駆け込む場面もあり、そんな光景も含めてブラジルらしさを感じる会場でした。

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    入場待ちの長い列ができていたオフィシャルグッズストア

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    フォトスポットの1つになっていた、巨大なスレッジハンマーのオブジェ

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    選手やキャスターなどのミート&グリートが行われた特設ブース

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    ミート&グリートでは、サインをもらったり一緒に写真を撮ったりできる

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    Tシャツとポスターにサインをもらってニコニコのファンボーイ

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    軽食からデザートまで、さまざまなお店が並ぶフードエリア

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    屋外のテーブルでご飯を食べながら、一息つくこともできる

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    『R6S』の新シーズンを先行プレイできるデモブース

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    『R6S』シーンで功績を残した人を称える「HALL OF FAME」の展示

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    自ら写真に写ろうとしてくれる、ノリの良い地元ブラジルのファンたち

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    コスプレイヤーや『R6S』の著名人と写真を撮れるチャンスも

ブーイングがやみ、ついに熱戦がくり広げられた2日目

2日目の第1試合は、「G2 Esports」対「w7m esports」。昨年の「Six Invitational 2023」でグランドファイナルを戦った2チームが、今年はロワーブラケットでぶつかる展開になりました。初日は会場の応援を味方につけていた「G2 Esports」ですが、この試合ではブラジルチーム「w7m esports」との対戦とあって、すっかりアウェイの立場になります。

結果は「w7m esports」の圧勝。「G2 Esports」に立て直す隙を与えず、一方的な試合内容でのストレート勝利を決めました。これにより「w7m esports」は、続いて行われるロワーブラケット決勝に駒を進めます。

第2試合は、「Virtus.pro」対「w7m Esports」。初日と同様、「Virtus.pro」に対してはブーイングが起こるのかと思いきや、この日は拍手が送られます。実は初日の試合後、「Virtus.pro」のJoyStiCK選手がXにて、入退場時につばを吐きかけられるなど、一部のブラジルファンによる行き過ぎた行為があったと投稿していました。

これを受けてMCが試合直前に、「昨日Virtus.proの選手に対して、非常に残念なことがありました。サポーターの皆さんは、そんなひどいことをした人より、もっともっと優秀な人たちだと信じています。そういう人とは違う、皆さんのために大きな拍手を送りたいです」と呼びかけたのです。

続けてMCは、「選手が入場してきたら、拍手を送りましょう。秩序を守り、なによりも敬意を払いましょう。私たちはブラジルでSix Invitationalを実現することができました。二度とない機会かもしれません。これがほかのイベントに続く扉になることを信じています」と自国開催の意義を踏まえながら、観客に語りかけました。

こうしてブーイングがやんだ会場で試合が始まると、ついに2マップ目でアウェイチームの「Virtus.pro」が勝利。3マップ目に突入すると、拮抗したシーソーゲームがくり広げられ、オーバータイムにもつれ込みます。この接戦で、観客席はすさまじい熱気に。太鼓や笛が鳴る最も応援の熱いエリアでは、観客が次々にユニフォームを脱ぎ出し、お祭り状態になっていました。

最終的には、「w7m Esports」がオーバータイムを制して勝利をもぎ取り、グランドファイナル進出が確定。これにより最終日に行われるグランドファイナルが、「FaZe Clan」対「w7m Esports」のブラジルチーム同士の対決に決まりました。

■Day2の試合結果

・第1試合(ロワーブラケット準決勝)
G2 Esports [0-2] w7m esports
マップ1:1-7(ナイトヘイヴンラボ)
マップ2:3-7(高層ビル)

・第2試合(ロワーブラケット決勝)
Virtus.pro [1-2] w7m esports
マップ1:4-7(クラブハウス)
マップ2:7-4(山荘)
マップ3:7-8(国境)

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    昨年はグランドファイナルで戦った「w7m esports」と「G2 Esports」がロワーブラケットで対峙

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    初日とは一転、アウェイな空気のなか苦しい試合展開が続いた「G2 Esports」

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    ハンマー(優勝トロフィー)への歩みを一つひとつ進めていく「w7m Esports」

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    「Virtus.pro」JoyStiCK選手は、オーバータイムでエースを決める活躍を見せた

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    グランドファイナル進出を決め、雄叫びを上げる「w7m esports」HerdsZ選手

熱い声援が導いた劇的すぎる「w7m Esports」の優勝

ついに迎えた最終日、会場は満員。9,000人のファンで360度の観客席が埋め尽くされ、圧巻の光景です。試合の前には、ショーマッチやライブパフォーマンス、Year9ロードマップのパネル発表が行われ、いよいよグランドファイナルが始まります。

このグランドファイナルは、自国でブラジルチーム同士が優勝を争うだけでなく、2023年の「Six Major」を2連覇した「w7m Esports」にとって、年間の完全制覇がかかった試合。実現すれば、『R6S』シーン史上初のグランドスラム達成です。しかも、「w7m Esports」は2024年シーズンにおいて、現ロスターとの契約を更新しないことを発表しており、この体制ではこれが最後の大会です。

さらに、なんと「FaZe Clan」のHandyy選手と「w7m Esports」のnade選手は、双子の兄弟。見どころばかりのグランドファイナルに、会場は揺れるような最高潮の盛り上がりで両チームを迎えました。

ブラジルチーム同士の戦いとなると、会場の声援がどうなるのか気になるところですが、歓声を聞く限りでは、8割近くが「w7m Esports」を応援している様子。「FaZe Clan」を応援するファンたちは、選手席正面の一定のエリアに集まり、熱い声援を送っていました。

優勝をかけたグランドファイナルは、Bo5で争われます。1マップ目は「FaZe Clan」が快勝するも、お互いにピックマップを取り合う展開が続き、マップスコアは2-2へ。運命の5マップ目、2023年にマッププール入りしたナイトヘイヴンラボで、激闘の決着をつけることになりました。

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    「Six Invitational 2024」のテーマソングを披露した、迫力のライブパフォーマンス

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    Day2~3には、インフルエンサーの野々宮ミカさんが会場の天井席からミラー配信を行った

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    オーケストラの荘厳な演奏とともに、グランドファイナル出場チームが入場

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    試合直前のインタビューには、双子の兄弟のHandyy選手とnade選手が登場した

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    お互いにマップを取り合い、3マップ目では「FaZe Clan」が勝利。先に優勝に王手をかけた

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    4マップ目は「w7m Esports」が取り返し、グランドファイナルの戦いは最終マップへ

最終マップでは、流れをつかんだ「FaZe Clan」が、6-1と大差をつけてマッチポイントに持ち込みます。これを見た私は、優勝する瞬間を撮ろうと、急いで「FaZe Clan」の選手席前のエリアに向かいました。ところが、ここから「w7m esports」が怒涛の追い上げを見せます。

ラウンドを連取するたび、勢いを増していく「w7m esports」側の声援。「FaZe Clan」ファンも負けじと声を上げますが、会場はどんどん「w7m esports」の応援に飲み込まれていきます。

優勝まで、たったあと1ラウンド。勝利はもう目前のはずなのに、この1ラウンドが途方もなく遠く感じられます。ついに、ラウンドスコアは6-6の同点に並び、「w7m esports」がオーバータイムに持ち込むことに成功しました。

観客席のど真ん中で会場の空気を感じながら観ていると、このまま「w7m esports」が勝つのだろうという気がしてきます。ですが、「w7m esports」の選手席はステージの反対側。勝利する瞬間を撮るには、会場を半周しなければなりません。迷った結果、私はその場にとどまり、周囲の「FaZe Clan」のファンたちと一緒に、祈るような気持ちで試合の行方を見つめました。

その後、「w7m esports」は勢いのままにオーバータイムを勝ち切り、最終マップを8-6で勝利。これにより、「w7m esports」が「Six Invitational 2024」の優勝に輝きました。「w7m esports」の選手とコーチは、喜びを分かち合いながらステージ中央に上がり、紙吹雪が舞うなかで優勝トロフィーのハンマーを掲げます。

自分でも驚いたことに、私はこの光景を、涙をこらえながら呆然と眺めていました。「FaZe Clan」のファンに囲まれながら見ていた私は、いつのまにか気持ちをすっかり飲み込まれていたのです。

あと1ラウンドで世界王者に届かなかった「FaZe Clan」側に感情移入したまま、きらびやかなライトが照らすステージを眺め、しばらく立ち尽くしてしまいました。

もともと私はどちらのチームにも、特別な思い入れはありませんでした。ただ、優勝の瞬間を撮りたくて、最終マップの途中からその場にいただけなのに……。選手たちは、あの環境で自身の気持ちを保ちながら、最高峰のプレイが求められるのだと思うと、想像を絶するものがあります。

実際に歓声のなかに身を置いてみると、やはりブラジルファンの熱い応援には、チームを勝利に導くパワーがあるように思えます。応援の後押しを受けた「w7m esports」はロワーブラケットを駆け上がり、グランドファイナルでは追い詰められた状況からの大逆転勝利。自国開催の「Six Invitational」でグランドスラムを成し遂げるという、伝説的なストーリーを体現して見せました。

■グランドファイナルの試合結果

FaZe Clan [2-3] w7m esports
マップ1:7-1(オレゴン)
マップ2:5-7(銀行)
マップ3:7-5(高層ビル)
マップ4:4-7(国境)
マップ5:6-8(ナイトヘイヴンラボ)

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    2023年シーズンの世界大会を完全制覇し、ハンマーを掲げる「w7m esports」

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    「Six Invitational 2024」は、「w7m esports」の伝説的な勝利によって幕を閉じた

9年目にしてチケット売り上げ枚数、最大同接の記録を更新

『R6S』は9年目の長いタイトルですが、今年の「Six Invitational 2024」は、会場のチケット売り上げで過去最高枚数を達成。それだけでなく、劇的な展開を迎えた決勝の戦いを配信は52万人以上の視聴者が見届け、最大同時視聴数の記録を更新しました。

このニュースを聞いて期待したくなるのが、日本の『R6S』シーンのさらなる盛り上がりです。しかし、今年「Six Invitational 2024」に挑んだ「SCARZ」は、残念ながらグループステージで敗退。日本チームとしては「Six Invitational 2019」以来、プレイオフに進出できない苦しい年が続いています。ブラジルでの活況を見ると、やはりシーンの盛り上がりには自国チームの活躍が必要だと感じさせられます。

なお、2024年シーズンの世界大会は、「Six Major」初のイギリス開催に加え、「Six Invitational」では初となるアメリカでの開催が決定しました。さらに、その翌年の「Six Invitational」は、フランスで開催されることも発表されています。ブラジルがとても特色ある開催地だっただけに、今後行われる新たな開催地では、どのような盛り上がりを見せるのか楽しみです。

・2024年シーズン
2024年5月:「BLAST Rainbow Six Major Manchester」(イギリス・マンチェスター)
2024年11月:「BLAST Rainbow Six Major Montreal」(カナダ・モントリオール)
2025年2月:「Six Invitational 2025」(アメリカ東海岸)

・2025年シーズン
2026年2月:「Six Invitational 2026」(フランス)

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    現時点で発表されている『R6S』世界大会ロードマップ