ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、2月21日に「PULSE Elite ワイヤレスヘッドセット」(以下PULSE Elite、18,980円)を発売します。「純粋に“Good Audio”をつくることだけを目指した」と語る、同社のProduct Development VPであるEdwin Foo(エドウィン・フー)氏に単独インタビューを行いました。

  • ソニー・インタラクティブエンタテインメントの新しいワイヤレスヘッドホン「PULSE Elite ワイヤレスヘッドセット」。PS5と統一感を持たせたユニークなデザインが特徴です

ヘッドホンブランドの米AUDEZE(オーデジー)と共に、専用の平面磁界駆動型ドライバーを開発した意図や、ロスレス・低遅延を実現した新しい無線伝送技術「PlayStation Link」についても“深い話”を聞いています。

  • PULSEシリーズを担当する、SIEのProduct Development VP(バイスプレジデント) Edwin Foo氏

最新PULSEシリーズ「ふたつのこだわり」

PULSE Eliteは、SIEがPlayStationに対応する周辺機器として発売する新しいワイヤレスヘッドホンです。PlayStation 5とデザインをマッチさせただけでなく、上質なオーディオ体験を実現するために、SIEの開発チームは大きくふたつのことを追求しました。

ひとつは、音の心臓部であるドライバーユニットの構造に平面磁界駆動方式を採用したこと。そしてもうひとつが、独自の無線伝送技術「PlayStation Link」を搭載したことです。前者のドライバーユニットへのこだわりからフー氏に聞きました。

平面型とも呼ばれる平面磁界駆動方式のドライバーユニットは、名前が示すとおりフラットな形状の振動板を採用しています。極薄の振動板にはコイルが埋め込まれており、強い磁石と電流の力によってユニットを動かして音を生成します。

一般的なヘッドホンやイヤホンが広く採用しているドーム型のダイナミックドライバーに比べると、平面型ドライバーは製造のために高い技術が必要とされます。その対価として、平面型ドライバーはよりなめらかで自然、かつ繊細なニュアンスも再現できるところが持ち味と言われています。

  • PULSE Eliteが搭載している、平面磁界駆動方式によるドライバーのイメージ図

音の歪みと遅延、両方抑えられるメリット

ヘッドセットのPULSE Eliteと、左右独立型の「PULSE Explore ワイヤレスイヤホン」(2023年12月6日発売/29,980円)には、SIEが2023年夏に買収を発表した米国のヘッドホンブランド・AUDEZE(オーデジー)との共同開発による、独自設計の平面型ドライバーが搭載されています。フー氏は、新しいPULSEシリーズが目指すサウンドのために、平面型ドライバーの採用は不可欠だったと話しています。

「PULSE EliteはPlayStationゲーマーにとって最高のヘッドホンであると同時に、ゲーム以外の用途でも高品位なサウンドが楽しめるヘッドホンを目指しました」(フー氏)

ゲーミング用ヘッドホン/イヤホンの中には、先端の音声信号処理技術により派手めで刺激的なサウンドにチューニングしている製品もあります。SIEの開発チームは、PULSEシリーズが再現するサウンドは「クリエイターの意図に対して忠実であるべき」と考えました。物珍しさからではなく、理想とするサウンドを追求した結果として平面型ドライバーを選んだのだ、とフー氏は強調しています。

  • PULSE Elite ワイヤレスヘッドセット

  • SIEにとって初めての左右独立型ワイヤレスイヤホンとなる「PULSE Explore」も2023年に発売を迎えています

「新しいゲームタイトルの多くはストーリー性に富んでいるだけでなく、映像や音質の作り込みもハイレベルです。だから、ゲームサウンドを楽しむためのオーディオデバイスも、本格的に映画や音楽ライブを楽しめるほどのクオリティを備えるべきと考えています。PULSEシリーズもまた、“Good Audio”だけを純粋に求めた“Good Audio”なのです」(フー氏)

ダイナミックドライバーは振動板の形状がドーム型であるため、分割振動により音の歪みやにごりが発生することがあります。ゲームコンテンツにはダイアローグ(話し声)や爆音、繊細な効果音まで多種多様な音成分が含まれているため、「広い音域にわたって歪みのないサウンドを再現できることがとても大事」なのだ、とフー氏は説いています。ほかにも、平面型ドライバーはフラットな周波数特性を得やすいことから、クリエイターの意図に対して最大限に寄り添えるところに優位性があるのだ、といいます。

また、ゲーミングコンテンツの音声には、プレーヤーの入力操作や映像に対する遅延が発生しないことが求められます。平面型ヘッドホンの振動板はとても軽く、入力された音声信号に対する応答性能に優れていることもPULSEシリーズのコンセプトに合致した、とフー氏は語っています。

SIEが単独で平面型ヘッドホンを開発することにはさまざまな困難が伴いました。そこでAUDEZEとのパートナーシップを結び、2023年秋に発売した左右独立型ワイヤレスイヤホン「PULSE Explore」と、ワイヤレスヘッドホンの「PULSE Elite」から、両社は一緒に新たな一歩を踏み出しました。

平面型ヘッドホンのエキスパートと手を組んだSIE

SIEの最新PULSEシリーズには、平面型ドライバーを搭載するヘッドホンやイヤホンを長年にわたり手がけてきた、AUDEZEの技術やノウハウが注入されています。AUDEZEの創業者兼CEOであるSankar Thiagasamudram(シャンカー・ティアガサマドラム)氏が、筆者のメールインタビューに答えながらSIEとのコラボレーションを振り返ってくれました。

AUDEZEは2016年にLightning接続の平面型ヘッドホン「EL-8 Titanium」を発売し、続く2017年には初の平面型イヤホン「iSINE」を世に送り出しています。平面磁界駆動方式を採用するヘッドホン・イヤホンの普及拡大のため奔走していたティアガサマドラム氏は、その頃に初めてフー氏と出会います。

  • AUDEZEの創業者兼CEO、Sankar Thiagasamudram氏

「2021年に、(SIEの)エドウィンからPlayStationの次世代ヘッドホンに平面型ドライバーを搭載したいという相談を受けました。PlayStationとのコラボレーションは平面型ヘッドホン/イヤホンの魅力を広く周知できるまたとない好機です。私はエドウィンからの提案に快諾して、2022年から共同開発がスタートしました」(ティアガサマドラム氏)

PULSE Elite、PULSE Exploreの平面型ドライバーは、米カリフォルニア州オレンジ郡にあるAUDEZEの工場で製造されています。両モデル専用のドライバーを設計開発することは、平面型ドライバーのエキスパートであるAUDEZEにとっても「大きな挑戦」だったといいます。

「なぜならば、PULSEシリーズのために必要なドライバーユニットの数量が圧倒的に多かったからです。SIEの期待に応えるためには、当時AUDEZEが自社製品のために作っていたドライバーの生産量をおよそ30倍に増やす必要がありました。そこでPULSEシリーズのために振動板を新しく起こして、専用の生産ラインも立ち上げました」(ティアガサマドラム氏)

AUDEZEのブランドにも「Mobius」、「Maxwell」という平面型ドライバーを採用したゲーミングヘッドホンのラインナップがあります。PULSEシリーズには、AUDEZEの平面型ヘッドホンと同じ磁気回路に関連する特許技術、ハウジング内部の空気の流れを調整するウェーブガイドの技術も採用されています。ティアガサマドラム氏によると、両社の製品の違いは「PULSE Eliteの方が、エレクトロニクスとワイヤレスオーディオの技術がよりパワフル」なのだといいます。

SIE独自の「PlayStation Link」とはなにか

PULSE EliteとPULSE Exploreには、SIE独自のデジタル無線伝送技術によるロスレス・低遅延伝送を実現する「PlayStation Link」も搭載しています。ヘッドホン/イヤホンのパッケージに付属する、PlayStation Link USBアダプターを接続した機器との間で、アップ/ダウンリンクともに最大48kHz/16bitのロスレスオーディオ伝送を実現します。SIEが実施した測定の結果によると、遅延速度は20.8ミリ秒前後まで抑えられるそうです。

  • PULSE EliteとPULSE Exploreに同梱の、PlayStation Link対応USBトランスミッター

2.4GHz帯のデジタル無線を使うワイヤレスオーディオの技術は特に珍しいものではありませんが、SIEのPlayStation Linkに対応する最新PULSEシリーズは、他社のデバイスとはひと味違う使い勝手を実現しています。

そのひとつは、PlayStation LinkとBluetoothデバイスで、それぞれに接続されたデバイスのオーディオを聴ける「デュアルデバイス接続」です。たとえばPS5でゲームをプレイ中に、Bluetoothでつながるスマホにかかってきた電話を受けたり、スマホで再生している音楽を聴いたりすることができます。

PlayStation LinkのUSBアダプターは追加購入もできます。2台のアダプターを用意して、それぞれをPS5とゲーミングPCにつなぐと、PULSEシリーズの本体に搭載するPlayStation Linkボタンにより送信側の機器をすばやく切り替えて使えます。

  • iPhoneにアダプターを介してつなぎ、ゲームのサウンドや音楽再生が楽しめます

“PlayStationのオーディオ”とひと目でわかるデザイン

PULSE Elite、PULSE Exploreはともに外観も斬新です。フー氏は「新しいPULSEシリーズを身に着けている方を街で見かけたときに、誰もが一目でわかる“PlayStationのオーディオらしいデザイン”を追求した」と話しています。

「PULSE Eliteは本体の左側に出し入れできるブームマイクを搭載しています。PULSE Exlploreの充電ケースは一見すると"PS5のミニチュア”のように見えませんか? それぞれにPlayStationのオーディオとして、ユニークでありながら統一感のあるデザインにできたと自負しています。左右独立型のワイヤレスイヤホンはSIEの既存ラインナップにないカテゴリだったことから、通常のダイナミックドライバーよりも少し大きな平面型ドライバーを搭載することも含めて、設計段階でもさまざまな困難がありました。乗り越えてくれたエンジニアチームに感謝しています」(フー氏)

  • PULSE EliteはAIノイズリジェクション機能を搭載するブームマイクを本体の左側に内蔵しています

SIEは、2024年1月下旬にPS5のソフトウェアアップデートを実施して、PULSE EliteやPULSE Exploreを接続したときに使えるイコライザー機能をPS5に追加しました。イコライザーの設定値はヘッドホン/イヤホンの側に保存されるので、PULSEシリーズをスマホやPCに接続して使うときにも設定が維持されます。

ユーザーの好みに合わせたサウンドのパーソナライゼーションも楽しめる、PULSEシリーズを多くの方々に体験してもらいたいと思います。