アメリカのラスベガスでは毎年1月に、世界最大規模のITエレクトロニクス展示会・見本市「CES」が開催されます。2024年は1月9日から本番を迎えますが、現地時間の1月7日にはメディア向けのプレイベント「CES Unveiled」が行われました。久しぶりに現地まで取材に飛んだ筆者、ブースを回って見つけた面白い製品や最先端技術の展示をレポートします。
Wear OS搭載スマートウォッチで「ダブルタップ」を可能にするアプリ
Apple Watch Series 9、Ultra 2のユーザーは、もうwatchOS 10.1以降にアップデートして「ダブルタップ」を使っていますか? ダブルタップは、ウォッチを装着した側の手の指を軽くたたき合わせるようなジェスチャー操作によって、Apple Watchの画面に触ることなくウィジェットやアプリを操作できる機能です。
この最新Apple Watchのダブルタップと同じようなフィンガージェスチャーの機能を、Wear OSを載せたグーグルのスマートウォッチに提供するアプリがあります。フィンランドのスタートアップ「Doublepoint(ダブルポイント)」が開発した「Wowmouse(ワウマウス)」です。
ダブルポイントは、中学時代の同級生であるオート・ペンティカイネン氏とジャミン・フー氏が、2021年にフィンランドのヘルシンキに立ち上げたソフトウェア開発の企業です。CES Unveiledの出展ブースに立ったフー氏は「スマートウォッチによるジェスチャー操作を、パソコンのマウスみたいに扱えるようなアプリを作りたかった」と、Wowmouseアプリのアイデアがひらめいた瞬間を振り返っていました。
Apple Watchのダブルタップと違うところは、Wowmouseは指による2度以上の「マルチタップ」操作や、指を重ねた状態をキープする「長押しタップ」のようなマルチスタイルの操作にも対応できること。アプリのローンチ当初はサムスンのWear OS 4(または3)を搭載するGalaxy Watchシリーズからの対応になりますが、フー氏は「将来はGoogle Pixel Watchや、Wear OS 3以上を搭載する各メーカーのスマートウォッチに対応させたい」と話していました。
Wowmouseはアプリをインストールしたスマートウォッチだけでなく、BluetoothでつながっているスマートホームIoTデバイスやAR/VRヘッドセットの遠隔操作にも対応を予定しています。BtoBのビジネスパートナー向けにソフトウェアをカスタマイズして提供することも可能です。Wowmouseのように、スマートウォッチを便利にするアプリが増えて、Wear OS系スマートウォッチが勢いを盛り返してくることを期待しましょう。
Withingsがデジタル聴診器「BeamO」を発表
フランスのWithings(ウィジングズ)は、「BeamO」という名前のスマート生体情報測定器をCES 2024に合わせて発表しました。スティック型でポケットサイズのデバイスに内蔵するセンサーを使って、ユーザーの健康状態がセルフチェックできます。
BeamOは家庭向けを想定して、ウィジングスが開発を進めている製品です。ユーザーの身体に触れるだけで、「心臓」「肺など呼吸器」「体温」「心拍数」「血中酸素濃度」に関わる4つのステータスを短時間で手間なく調べられます。CESに出展した製品はまだプロトタイプでしたが、北米で医療機器の規制を管轄するFDA(米国食品医薬品局)の認証を取得したうえで、2024年末までに約250ドル(約3.6万円)で商品としての発売を目指します。
特に呼吸器の異音を調べられる「聴診器」の機能は、「他社のスマートヘルスケア領域にはないほど画期的」なのだと、ウィジングスのスタッフはプッシュしていました。
ただ、本機ができることは「デバイスを胸に当てて、呼吸器の音を録音する」ところまで。「異音を検知して、類する症状をAIにより解析した後でユーザーに知らせる」というところまでは到達していません。現状は、録音した音をファイルに保存しものや、音声を波形情報などに視覚化(PDFファイル化など)したものをユーザーが「医師に見せる」ところまでです。
ウィジングスでは現在、上記の使い方を実現するAIアルゴリズムの開発にも注力しているそうです。同社のスタッフは「録音した音をスマホなどモバイル端末に読み込んで、専用アプリである程度の症状解析を行えるようにしたい」と展望を語っていました。もし日本に上陸することがあれば、各家庭に1台は備えたいスマートデバイスとして歓迎されそうです。
さまざまな「顔」のジェスチャー操作を読み取るワイヤレスイヤホン
アメリカのスタートアップ、Naqi Logix(ナキ ロジックス)は、左右独立型ワイヤレスイヤホンの形をした「次世代のヒューマンインタフェース」を展示していました。
ペンシルベニア州の大学を卒業した研究者が集まって立ち上げたナキ ロジックスは、人間の身体に流れる微小な電気信号を読み取る独自の生体センサーと、これを使いこなすヒューマンインタフェースのソフトウェア開発のエキスパートです。
CESに展示したコンセプトは「顔のさまざまなジェスチャー」をデジタルデバイスで読み取り、パソコンやスマホ、VRヘッドセットなどを操作する信号に変換して役立てるというものです。
ナキ ロジックスのビジネスモデルはハードウェアを製造開発することではなく、独自の技術を外部にライセンスして、パートナーと一緒にアクセシビリティの高いヒューマンインタフェースを提案することです。「CESに出展することによって米国内外のパートナーを拡大したい」(スタッフ)と展望を語っていました。
CES Unveiledの会場では、ワイヤレスイヤホンタイプのリファレンスデザインが公開されました。外耳に引っかけるフィン形状のパーツにセンサーが埋め込まれており、例えば「まばたき」「視線移動」「首を振る動作」などを検知して、コントロール信号に変換します。リファレンスデザインのワイヤレスイヤホンは、音楽を聴いたりハンズフリー通話に使ったりできます。
デバイスは必ずしもイヤホン型である必要はなく、顔の近くにセンサーが接触するスマートグラスやアクセサリーのようなものになる可能性も考えられます。車イスに乗って生活する方々が移動するときの、ハンズフリー操作に適したスマートデバイスの技術として発展するかもしれません。
今年(2024年)のCES Unveiledではナキ ロジックスのほかにも、ワイヤレスイヤホンによく似たデザインのデバイスを、ユーザーの生体情報を取得しながら健康な生活を支援するスマートデバイスとして紹介するブースがいくつかありました。ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンといえば音楽再生やハンズフリー通話ですが、ほかにもいろいろな使い道を持つ未来の姿を垣間見たように思います。
muiボード第2世代機のクラファンが始まる
日本のテクノロジー企業、mui Labも2024年のCESに出展しています。CES Unveiledの会場には、スマートホームデバイスの共通規格「Matter(マター)」に対応し、複数の機能アップデートを実現した「muiボード第2世代」 を展示。2023年から予告していたKickstarterでのクラウドファンディングが、1月8日週からいよいよスタートします。
muiボードは、本体に木材を使った温かみのあるデザインが特徴のスマートホームデバイスです。本体の表面はテキストやアイコンなどを表示できるLEDディスプレイになっていて、タップ、スワイプ、指による手書き操作などをサポート。コマンド入力時以外、通常の状態ではディスプレイを消灯し、ユーザーが必要なときだけ存在を現して家庭のインテリアや家族の生活と自然に溶け込みます。
第2世代のモデルはMatter対応ですが、日本ではまだMatter対応のスマートホームアクセサリー製品が充実したとはいえません。米国におけるMatterの様子もCESの会場で探ってみようと思います。
muiボード第2世代機では、タッチ操作に対応したパネルを指でなぞり、手で書いたテキストでChatGPTとの生成AIチャットが楽しめます。
また、三菱地所とmui Labが共同で開発したスマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」のエコシステム内にて、第2世代のmuiボードは宅内に設置したスマートホームIoT機器のリモートコントローラーとして機能。将来的にはファームウェアのアップデートによって、家庭内におけるエネルギー使用量の「見える化」や「行動の習慣化促進」など、エネルギーマネジメント機能も追加実装を予定しているそうです。クラウドファンディングの開始後には、muiボードの名前が各所で耳に飛び込んでくることになりそうです。