たばこ会社のPhilip Morris International(PMI、フィリップ モリス インターナショナル)はスイスに拠点があり、グローバルの研究開発施設が設置されています。この施設では400人以上が研究開発に携わり、特に最近はたばこ関連のリスクを軽減する製品の開発に注力しているといいます。

そんなスイス・ヌーシャテルの湖畔にあるPMIの研究開発拠点にて、「TECHNOVATION」と題したイベントが開催されました。世界30カ国以上から80人ほどのジャーナリストなどを招いたイベントで、筆者も招待を受けての参加となりました。

TECHNOVATIONでは、PMIのたばこ開発の最前線を紹介。CEOのJacek Olczak氏をはじめとしたエグゼクティブが、IQOSなど紙巻きたばこに代わる製品の戦略を語りました。

  • スイスにあるPMIの研究開発施設

  • ヌーシャテル湖の畔、遠方にアルプスを望む風光明媚な場所にある施設なのですが、今回はあいにくの天気でした……

PMIは、グローバルでは1,500人以上のエンジニアや科学者を雇用し、「煙の出ない製品」に関する2,500以上の特許を取得しているといいます。この「煙の出ない製品(たばこ製品)」は、いわゆる紙巻きたばこと異なり火を使わないため人に対する害が減るとされており、PMIが昨今、力を入れているジャンルです。

  • スイス・ヌーシャテルにあるPMIの研究開発施設で開催されたTECHNOVATION

例えばPMI製品としては、日本で広く普及している主力製品の「IQOS(アイコス)」、電子たばこ(E-Vapor)の「VEEV」、オーラルたばこ「ZYN」などがあります。

PMIの「煙の出ない製品」の利用者は、2,700万人以上に達したとされています。そのうち1,900万人以上が従来の紙巻きたばこをやめているそうです。ただ、世界にはまだ10億人以上の喫煙者がいて、それを禁煙または煙の出ない製品に移行させることがPMIの目標だとしています。

  • PMIのスタートは1847年、英ロンドンから始まりました。2005年にはこのスイスの研究所で煙の出ない製品の研究開発がスタートしました

イベントに登壇したPMIのCEO、Jacek Olczak(ヤツェク・オルチャク)氏は、「従来の喫煙は人間にとって害があり、同時に多くの人が害はあってもなかなかやめられないという状況は理解している」としつつ、それに対して「技術や科学によって喫煙の害を減らせないものかと考えた」と述べました。

2014年には、日本(名古屋)とイタリア(ミラノ)で初めての煙の出ない製品としてIQOSをリリース。「重要なのは、喫煙者に受け入れられるものが出せたこと」とOlczak氏は胸を張ります。

  • 最初のIQOS製品は日本とイタリアで登場

こうした取り組みは2009年に開始したとOlczak氏。当時難しかったのは、科学者や技術者をほかの業界から集めることだったと振り返りました。人材を集めて、研究開発を進め、ノウハウを蓄積し、「紙巻きたばこによる喫煙を過去のものにする」ことを目指しているとのこと。

Olczak氏は「技術革新が懐疑的な見方をされる」とも。地球を中心に太陽や惑星が回っているという地動説から、Uber、5Gといった過去の例を挙げつつ、「我々の製品でも同じことが起きた」と話します。

  • PMIのCEO、Jacek Olczak氏(左)

PMIの煙の出ない製品は、「多くの国で最初は否定的な見方をされた。どれくらい否定的かというと、科学の結論を否定されるような見方もあった」(Olczak氏)といいます。

「PMIは多角的な証拠を積み重ね、IQOSでは紙巻きたばこで発生する有害性物質を90~95%削減していることを実証した」(Olczak氏)として、現在では米FDA(食品医薬品局)やカナダの衛生当局などが認めるにいたりました。「我々は科学的な証拠を持って、大きな一歩を踏み出している」(Olczak氏)と主張します。

Olczak氏やPMIの考え方は、「喫煙習慣のない人は吸わない、喫煙者は禁煙する、もしやめられないなら代替手段をとる」ということ。喫煙者にとって禁煙がベストですが、難しいなら「セカンドベストの選択肢」として煙の出ない製品を選ぶべきだとOlczak氏は強調しています。

すでに2,700万ユーザーがPMIの煙の出ない製品を使っていて、紙巻きたばこから完全に切り替えた人も多数。かつて禁煙できなかった人でも、煙の出ない製品に切り替えられたという例がたくさんあると紹介しました。

こうした、より害の少ない代替品へ誘導するハームリダクション戦略は「批判されることもある」(Olczak氏)。喫煙やニコチンから本当に利用者を脱却させようとしていない――という意見ですが、「有害性の低い製品への誘導を批判するとしたら、紙巻きたばこを売り続ければいいのだろうか」(Olczak氏)と投げかけます。

東南アジアを中心に、加熱式たばこや電子たばこが禁止されている国や地域が一部あります。恐らくOlczak氏はそうした状況を念頭に、「規制当局やオピニオンリーダーがまだ煙の出ない製品を否定しているのではないか」との見方を示します。

「たばこを規制するのは有害性が高いので理解できる。しかし(たばこは禁止せずに)代替品を禁止している。科学的にたばこより有害性が低いと分かっている製品を禁止して、消費者が学べないようにしている」(Olczak氏)。そう指摘し、消費者への選択肢として煙の出ない製品を利用できるようにすべきとの主張です。

紙巻きたばこも加熱式たばこもニコチンが含まれていますが、Olczak氏はたばこの主要な害はニコチンだけでなく、燃焼によって発生する物質も問題だとします。煙の出ない製品(燃焼しない)は有害物質を90~95%減らせていることから「有益性が高い」(Olczak氏)と訴えます。

PMIは100億ドルを投資してたばこに代わる製品に投資してきたと強調するOlczak氏。「たばこに取って代わられるべき製品で、早く代替されるほど喫煙者、会社、その国のステークホルダーにとって有益」とアピールします。

2014年に投入したIQOSはそれなりに高価な製品であり、中高所得国で販売してきましたが、コストが下がってきたことで販売地域を拡大できるようになったとのこと。科学的なエビデンスを集めて「耳を傾ける人に話し続ける」(Olczak氏)ことで、「今から10年後には紙巻きたばこがほぼなくなっている国もあるだろう」(Olczak氏)との予測を披露しました。Olczak氏は、PMIの収益全体の3分の2を煙の出ない製品にすることを目標とし、PMIが製品を販売しているすべての国々で50%以上を煙の出ない製品に切り替えたい考えです。

  • 2023年の時点で、PMIの収益の36%が煙の出ないたばこ製品からとなりました