米クアルコムが新しいソフトウェア技術「Snapdragon Seamless」を発表しました。Snapdragonシリーズのチップセットを搭載するスマートデバイス同士の、スムーズな連携を実現します。Snapdragon搭載デバイスなら、OSとしてAndroidやWindowsを問わず、より簡単にワイヤレスで使いこなせるようになりそうです。
Snapdragonを搭載するスマートデバイスの「接続切り換え」が不要になる
クアルコムのSnapdragon(チップセット)はスマホのほか、現在はノートパソコン、ワイヤレスオーディオ、アイウェアやウォッチタイプのウェアラブル、そしてコネクテッドカーなど多彩なスマートデバイスに搭載されています。基本はグーグルが提供するAndroidを中心とするエコシステムが広く普及していますが、デバイスは開発・商品化するメーカーが複数存在しています。
ゆえに、例えばA社のスマホとB社のワイヤレスイヤホンを接続するとき「初期設定が難しい」「安定性が確保できない」「バッテリー残量がわかりづらい」などのマイナス要素が発生しがちです。クアルコムはこの課題を解決するためのソリューションとして、Snapdragon Seamlessを提供します。
デバイスに求められる条件は、Wi-FiとBluetoothの通信機能を搭載していること。パートナーのメーカー、アプリなどを提供するデベロッパーのため、クアルコムはAPIとソフトウェアライブラリを提供します。
モバイル向け、PC向けのSnapdragonシリーズ(SoC:システム・オン・チップ)には、デバイスが常時オンの状態で電力消費を低く抑える専用AIプロセッサ「Qualcomm Sensing Hub」が統合されいます。つまり、Snapdragon Seamlessのソフトウェアと連携する、低消費電力でベストパフォーマンスを発揮するモードもメーカーは開発しやすくなります。
オーディオ・通話・フィットネスまで用途はいろいろ
Snapdragon Seamlessは、モバイル向けSoCが「Snapdragon 8 Gen 3」、パソコン向けSoCは「Snapdragon X Elite」など、Snapdragonシリーズの中でも新しいSoCから対応が始まります。
ハワイのマウイ島で開催されたSnapdragonシリーズの発表会では、HonorがSnapdragon Seamlessの開発キットをベースにして作った「MagicRing」というアプリケーションと、実機によるデモンストレーションが公開されました。パソコンで動画を視聴している間に、スマホに着信があるとそれぞれの機器にペアリングしていたワイヤレスイヤホンの接続先が切り替わります。このとき、Qualcomm Sensing HubのAIが「優先順位の高いコンテンツ」を判別して接続先を選択します。
ほかにも、スマホのフォトライブラリからパソコンで作成中のドキュメントに写真をドラッグ&ドロップでコピーするファイルシェアリングや、スマホのカメラをパソコンの外付けカメラとして連携させる使い方が可能になります。
スマホやパソコン、ワイヤレスイヤホンは、あらかじめBluetooth LEによるペアリングを済ませておけば、以降はユーザーがそのつど手動で接続先を切り換える操作は不要です。Bluetoothのマルチポイント接続の機能は基本的に、1台のトランスミッターに対して接続できるレシーバー機器が2台までに限られますが、Snapdragon Seamlessはより多くのデバイスを一度につなげるところも特徴です。
Snapdragon Seamlessによる体験は、オーディオ・ビジュアルのデータ連携に限りません。例えばスマホでユーザーのフィットネスアクティビティを撮影しながら、身体のポジション計測、心拍数の記録、アクティビティの成果などを合わせてスマートグラスで見て、ワークアウト効果を最大化するといった使い方もイメージビデオで紹介されています。
これと同様の使い方は、同じメーカー同士の製品で実現するデバイスは既に存在しています。クアルコムの場合は当初「Snapdragonしばり」はあるものの、将来はSnapdragon Seamlessを自社のSoCに限らず、グーグルやマイクロソフトとより深く連携しながらオープンなエコシステムに育てる計画を立てています。
私たちコンシューマーにとっては、メーカーやカテゴリが異なるワイヤレス機器が使いやすくなることが何よりの吉報。Snapdragon Seamlessの成功に期待しましょう。