2016年から2020年まで、秋葉原にあるeスポーツ施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」(通称:イースク)で開催されていた『ストリートファイターV』のコミュニティ対戦会「Fighters Crossover AKIBA」。コロナ禍でのオフラインイベントの自粛や、主催者のかげっち氏の本業が忙しかったことで、長らく開催を見合わせていましたが、シリーズ最新作『ストリートファイター6』のリリース、新型コロナウイルスの5類移行に伴い、2023年6月7日に復活しました。

今回は、イースクを運営するウェルプレイド・ライゼストとマネジメント契約をしているプロゲーマー・ネモ選手との共同開催。初心者からプロゲーマーまでが集まれる場所として、幅広い層を対象としています。

  • 復活した「Fighters Crossover AKIBA」は、かげっち氏とネモ選手による共同開催。ネモ選手は終始、配信を行っていました

『ストリートファイターV』時代の「Fighters Crossover AKIBA」は、プロゲーマーのナウマン選手、竹内ジョン選手、立川選手、Shuto選手を輩出した対戦会としても有名です。eスポーツキャスターのなない氏も、この対戦会で実況を行ったことから本格的にeスポーツキャスターへの道を進むこととなりました。

新生「Fighters Crossover」は、聖地であるイースクだけでなく、全国各地でも展開を予定。すでに横浜、名古屋、金沢、札幌、静岡、群馬での開催も決まっています。さらなる地方開催を希望する現地主催者がいれば、「Fighters Crossover AKIBA」がバックアップし、開催サポートをする予定です。

  • 「Fighters Crossover AKIBA」出身と言えるナウマン選手。もちろん、今回も訪れていました

  • 竹内ジョン選手(写真左)、金デヴ選手(写真中央)、なない氏(写真右)も「Fighters Crossover AKIBA」と縁がある人たちです

6月7日の会場はイースク。数年ぶりの開催のうえ、タイトルが『ストリートファイターV』から『ストリートファイター6』に変わったこともあり、参加人数が見えない部分もありましたが、いざ開催してみると予想以上の来客を記録。オープンからしばらくの間は入場規制が行われ、入り口の階段下には多くの人が列をなしていました。最終的には予想来場者数の約2倍となる199人が訪れたとのことです。

  • イースクはすし詰め状態。どの対戦台もフル稼働でした

会場には20台のゲーミングPCが用意されており、自由に対戦を楽しめるようになっています。また、かげっち氏がアーケードコントローラー(アケコン)を20台程度用意していますが、ほとんどの来場者がアケコンやレバーレスコントローラー、パッドコントローラーを持参していました。

実力の近い人同士で対戦できるよう、カジュアル台や初心者台、LP無制限台など、ランク分けされた対戦台を設置されているため、初心者でも安心して遊べるのもいいところ。本来であれば、ゲームセンターと同様に勝利したプレイヤーはずっとプレイできるのですが、今回は超満員ということもあり、回転を良くするため、3人抜きで勝利プレイヤーも交代するルールにしていました。

  • 強さに応じた対戦台を用意していました。最初は連勝制限がなく勝っていればずっとプレイできましたが、予想以上の来場者が訪れたこともあり、多くの人がプレイできるよう、連勝制限が設けられました

  • 連勝制限がない時点では、ずっとプレイし続けていたぷげら選手

また、会場にはプロ選手をはじめ、有名プレイヤーが多く来店していました。プロ選手と対戦や交流ができるのもコミュニティ大会ならでは。団体戦のゲームの対戦会ではあまり観られない光景なので、対戦格闘ゲームならではと言ったほうが正しいかもしれません。

  • 今シーズンから「Saishunkan SOL 熊本」の一員として「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2023」(SFL)に参加するササモ選手

  • 険しい表情で対戦を行っていたキチパ選手

  • 「名古屋OJA BODY STAR」でSFLに参戦するオニキ選手

  • 若手ザンギエフ使いのジュニア選手。彼も「Fighters Crossover」から大きく羽ばたく可能性を秘めています

  • ストリーマーのはつめさんも遊びに来ていました

会場には主催者である「かげっち」こと影澤潤一氏の姿もあり、「Fighters Crossover」の復活や今後の展開について話を聞くことができました。以下で、インタビューの様子をお届けします。

――「Fighters Crossover」の開催目的や開催趣旨をお聞かせください。

影澤潤一氏(以下、かげっち):「Fighters Crossover」は、対戦格闘ゲームが好きな人たちが集まるコミュニティイベントです。『ストリートファイターIV』の時代は「STARTING OVER」という名前で2010年から定期的に大会を開催していました。会場は新宿のセガのゲームセンターが中心でした。

2016年からは、タイトルを『ストリートファイターV』に移行して、イースクで毎週水曜日に定期開催していました。実施した回数は中断するまでに228回。やる気のある若者たちは毎回来てくれていたし、初めて対戦格闘ゲームをプレイする人も多くいました。

その中にまだ学生だったナウマンもいました。ほかにはジョン(竹内ジョン選手)や立川、Shutoがよく通っていましたね。当時はまだ無名のプレイヤーだったんですけど、若い子や初めて見る顔の人にはできるだけ声をかけるようにしていました。

eスポーツ界隈だと、どうしてもプロ選手にフォーカスされがちですが、ここでは初心者もプロも常連も一見さんも、すべて平等に扱うポリシーでやっています。みんな入場料を払ってこの場を支えている仲間ですからね。

入場者には必ずネームプレートをかけてもらっているので、何度も来る人は必然的に顔と名前を覚えますし、積極的に話しかけて、次の世代につなげるためにコミュニティでの居場所を作れたらいいなと思っています。

  • 「かげっち」こと影澤潤一氏

――多くの人の居場所となるコミュニティの形成のおかげで、次世代の選手が台頭してきたわけですね。

かげっち:そうですね。当時ナウマンから「Fighters Crossover AKIBA」に通うためにバイトを増やしたと聞いたので、バイトでゲームをする時間が削られるのは本末転倒なので、設営や撤収を手伝ってもらうことで入場料を免除する仕組みを店舗と作りました。若手応援プログラムと呼んでいましたが、振り返ってみるとそこから何人も若手のプロが排出されましたね。プロチームからは何もなかったですが(笑)。

また、ミニトーナメントを毎回やっていたんですが、私やハメコ。が忙しくて対応できないときに、持ち回りで若手に大会の進行や実況をしてもらっていて、そのときに頭一つ出ていたのが、なないです。僕も大会実況者としての経験があったので、ほんの少しアドバイスさせてもらいましたが、まずはコミュニティの中で場数を踏んで実績を作ってもらうことが大事だと思ったので、後半は結構任せちゃいましたね。

選手や実況のほかにも、このコミュニティ作りを手伝ってくれる人は多く、そういう人たちに支えられています。ここに来れば誰かに会えるということで、色々な人のつながりが生まれました。自分も進路や就職転職、仕事の相談や結婚、子育てなど、人生相談によく乗っていました。コミュニティっていうか、ファミリーみたいな感じです(笑)。

――今回の「Fighters Crossover」復活の経緯を教えてください。

かげっち:以前の「Fighters Crossover AKIBA」は、コロナ禍の影響で節目なく止まってしまって、復活させたくてもなかなかタイミングがなかった。でも、2023年5月には新型コロナが5類へ移行しましたし、なにしろ『ストリートファイター6(スト6)』がリリースするわけですから、そのタイミングでは絶対にやろうと思っていたんです。

個人的にまずは「復活」にこだわりたくて、“俺たちのホーム”であるイースクでやりたかった。なので、イースクのオーナーであるウェルプレイド・ライゼストと協議し、ネモ選手とウェルプレイド・ライゼストと私で共同開催することにしました。この座組は秋葉原に限った話なので、ほかの地域ではまた違ったフォーメーションで開催しています。

秋葉原については、イベント主催者としての私と「Fighters Crossover」というブランド、ネモ選手というプロプレイヤーの相乗効果は正直大きいと思います。ネモ選手がいれば、プレイヤーだけでなくネモ選手のファンも来場してくれるでしょうし、さまざまな立場の人が集まると期待しています。すでに「Fighters Crossover」が中断してから3年近く経っているので、その存在を知らない新規ユーザーも多くなっています。なので、そういった層にネモ選手の力を借りてアピールしていきたですね。

――今回、開催してみた感想を教えてください。

かげっち:コロナ禍の3年間で、オフラインイベントに来場する人たちの意識は大きく変わったと思います。なので正直不安でした。ただ「EVO Japan 2023」ではあれだけの参加者、来場者が集まったし、実際『スト6』に触ってみて、これはオフ対戦が必要だと感じたので、今回もある程度の人は来てくれるのではないかと思っていました。目論見としては100人くらいかなと思っていましたが、入場規制が出るほど来てもらえたのは予想以上でしたね。

以前の「Fighters Crossover AKIBA」と同じことができるかと言うと、そこはまだまだ。この3年間でイースクの営業形態も変わってしまい、飲食も中止のままです。コーラをペットボトルで出すくらいはしましたが、本格的に始動できてはいません。

ただ、来場者が声を出せるようになり、コミュニケーションしながらプレイできるようになったのは、大きいと思います。さっきも有名プレイヤーとファンが一緒に写真を撮影していましたが、そういったことができるのもオフラインイベントならではですからね。

――「Fighters Crossover」としては今後どのような活動をしていくのでしょうか。

かげっち:まずは以前と同じように定期開催し、オフラインで格ゲーをする文化を今一度定着化させたい。さらに全国でも、その文化を広げていきたいと考えています。すでに横浜や名古屋など、複数地域で開催予定ですが、私自身が「Fighters Crossover」を広めるために全国展開をしたいのではなく、全国各地にいる、「コミュニティイベントをやってみたいけど、やり方がわからない人たち」や「やっているけど苦労している人たち」をサポートする仕組みとして、「Fighters Crossover」がある感じですね。

なので、地方開催では必ず共同主催者がいます。私はその現地の共催者のレベルや実績に応じて必要なサポートをするだけです。やっぱり地元の人が主催したイベントであることが、コミュニティを根付かせるのに必要なことだと思っています。

イベントを開催すると、いろいろと手間がかかったり、面倒なことがあったりします。でも、せっかく楽しいことをするのにそれ以上に大変なことがあっては続かない。よくある苦労ポイント、つまずきポイントを回避したり対処したりするノウハウを共有して、できるだけ無駄を減らし、主催者も参加者も無理なく長く楽しく続けられるような仕組みやネットワークづくりをしていきたいです。

「Fighters Crossover」という取り組みを通じて、日本の『スト6』のコミュニティが1つに、とまでは言いませんが、全国各地で元気に活動できるきっかけが作れればいいと思っています。なので、すでに各地で活動しているコミュニティイベントの主催者たちにも協力していきたいというか、もっと楽をさせてあげたいんですよね。主催運営と参加者に分かれるんじゃなくて、ゲームが好きなコミュニティの中で、たまたまその役割になっているだけだから、もっとみんなが楽しく続けられるってことが大事だと思うので。だから僕ももっとゲームしたいです(笑)。

――ありがとうございました!

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対戦格闘ゲームのコミュニティは、かつてゲームセンターが中心だった歴史があります。しかし、『ストリートファイターV』から、主戦場がPCやコンソールゲームとなり、その存在が希薄になってきました。

当然、対戦を楽しむだけであれば、自宅からオンライン対戦をするだけで十分でしょう。オフライン会場にわざわざ出向く必要はないかもしれません。しかし、同じ趣味、同じものを好きな者同士が集まれば、より楽しめるようになるのは間違いありません。

ゆくゆくは、碁会所や将棋センターのような存在として、対戦会場が各地にできれば、ますます盛り上がりを見せるだけでなく、次世代のスターの発掘も加速するのではないでしょうか。