米国の警察車両や国内外の空港など過酷な現場で採用されている、パナソニック コネクトの頑丈PC「TOUGHBOOK」。ハンドヘルド型で-20度~50度、タブレット/PC型で-10度~50度の低温・高温に耐え抜く本体は、猛暑が続く夏の車内でも“熱過ぎて動かない”ことがないようになっている。
筆者より遥かに頑丈なTOUGHBOOKだが、今回「カタログには書ききれなかった」というタフな秘密がパナソニック コネクトの説明会で明かされたのでご紹介したい。
「TOUGHBOOK」は、ビジネス向けモバイルPC「レッツノート」で知られるパナソニック コネクトが製造する“現場業務”向けの端末だ。
警察や消防、空港など物理的な保安が必要な場所だけでなく、製造や物流、建築・インフラの現場など、普通のPCには動作が厳しい環境で使われることも多く、耐衝撃や耐振動、防塵/防滴に関しては独自、あるいは米軍の調達基準MIL規格に沿った試験を重ねている。ただしこのあたりの試験内容はカタログに普通に掲載されている話。
衝撃を緩和する工夫あれこれ
TOUGHBOOKが持つ頑丈性の秘密の多くは、その内部構造にある。「耐落下・耐振動」「耐水・耐温度」「長期使用」の3つの特徴を支える注目のトピックを紹介していこう。
まず耐落下・耐振動を実現するための施策の1つが、コーナーに埋め込まれた緩衝材だ。落下時に最も衝撃が集中しやすいコーナー部には、強度を高める樹脂パーツと、ゴムを二色成形で組み合わせている。
次のポイントは、コネクタを浮かせた状態にしておく「フローティング構造」。本体が落下したり振動したりした場合、各パーツのコネクタが基板にしっかり固定されていると損傷につながってしまう。
あえてコネクタを固定せず、少し浮かせた(ゆとりがある)状態にしておくことで、衝撃を逃す効果がある。フローティング構造のコネクタは、バッテリーや液晶部、ユーザーが換装できるパーツ(タフブックの一部はモジュラー構造を採用し、DVDドライブやスマートカードリーダーなどユーザーが必要な機能を自分で追加・交換できるようになっている)などに採用されている。
ちなみにフローティング構造の派生として、液晶割れを防ぐ工夫もある。液晶部の周りにはクッションを配置し、天板から液晶を浮かせたフローティングで、前面・リアキャビネット(液晶裏カバー)の衝撃から保護。また、リアキャビネットの裏側にもリブを付けて補強している。
そして「バックフリップタイプコネクター」。これは、落下や振動があったときの耐久性を向上させる工夫で、幅広のフレキケーブルをレバーで固定する際にケーブルを接続している方向(バック側)にレバーを倒して固定するコネクタだ。以前はフロント側にレバーを倒して固定するフロントフリップだったが、衝撃が加わるとレバーの固定が解除され、故障につながるケースがあったため改善された。
耐水・耐温度に関するタフなポイント
耐水・耐温度についてもタフなポイントがあるという。1つ目はDCジャックのスライドカバーだ。
少し前のモデルでは本体とつながったゴム蓋を採用していたが、ケーブルをつなぐ際に邪魔になったり、使っていくうちに千切れたりする問題があった。
これを本体内部から引き出すスライド式蓋に変更し、長期使用でも壊れにくくしている。このスライド式蓋は設計難度が高く、組み立て工場の検査では裏側から光を当てて耐水性をチェックするという(光が漏れたら隙間があるということ)。
2点目は、カバー周囲に巡らせられたシーリング。耐水・耐熱・経年劣化にも強いシリコンで外周を縁取り、本体にかかった水が内部まで侵入するのを防いでいる。TOUGHBOOKが1996年に発売されて以来続く仕組みで、ノウハウを重ね最適なシリコンを採用している。
さて、シーリングは急カーブや高低差がある溝に一定の厚さでシリコンを塗布しなければいけない。隙間があったり厚みに差があったりすると、水濡れにつながる。
シリコンの状態は湿度や温度でも変わり、硬化まで一定の時間もかかるため、高低差があれば当然低い部分にシリコンが溜まってしまう。また、開始点-終点の重なり処理も難しいポイントだ。同社ではロボットを使い、傾斜時には速度を速めたり量を調整したりすることで、複雑な形状でも一定の厚さで塗布している。
「ファイアウォール」をバッテリーに内蔵
長期利用に必要なバッテリーの安全設計にも注目だ。TOUGHBOOKシリーズのバッテリーは、セル間に防火材(雲母断熱材)を組み込んだ設計になっている。
万が一バッテリーが発火した際、バッテリー間の延焼を防ぐための、本物の「ファイアウォール」だ。UL94V-0燃焼性規格の7倍以上の不燃性を持っているという(※安全試験/製品検定証明機関であるULによる、難燃性を示す等級の1つ)。
また、発火時は素早く熱を逃さないといけないが、かといってバッテリー周りを風通しよくしてしまうと、TOUGHBOOKの特徴である耐水性に影響がある。
これを解決するのが、底面に設けたスリットを、防水シートで覆う仕組みだ。この防水シートは一定の熱で溶けるようになっており、バッテリーが発火すると溶けてスリットから熱いガスを排出できるようになる(ユーザーも発火が臭いでわかるようになる)。同社の特許取得技術だ。
10年ほどは余裕で使えるのではないかと思ってしまうTOUGHBOOKシリーズの買い替えサイクルは、意外にも一般的なPCと同じ4~5年ほど。内部/外部パーツの寿命や故障、またはスペック更新や機能追加などの理由から、そのくらいのスパンで買い替え依頼が来るという。
パナソニック コネクトでは、実際の使用シーンからフィードバックされた1,000以上のチェックリスト項目を作り、TOUGHBOOKの頑丈設計を進めていると紹介。今後増えるであろうチェック項目から生まれる、新しいタフな話に期待したい。