記念すべき30回目を迎えた今年の全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園」は、昨年の覇者・大阪府立生野高等学校が584校の頂点に立ち、見事2連覇を達成して幕を閉じました。ちなみにその生野高校写真部、吉田監督が着任した2011年には廃部から数年が経っていたそうです。しかし、面識もない前任の顧問が書いた写真甲子園のチャレンジシートを発見。異動したら何かに挑戦しようと思っていた吉田監督は、そこから写真甲子園を目指し、ポスターを作って同好会の参加者を募集。当初は廊下で活動していた小さな同好会が、今では36名の部員を擁し、写真甲子園への出場は6回を数えるまでになりました。

  • すべての撮影が終わった7月28日の午前10時、カウントダウンとともに選手が一斉にジャンプ!

    すべての撮影が終わった7月28日の午前10時、カウントダウンとともに選手が一斉にジャンプ!

写真甲子園で圧倒的な勝率、沖縄県勢の強み

高校野球では、ときたま地方の小さな公立高校が甲子園で話題を集めます。2018年夏の準優勝・金足農業(秋田)や、2022年春に奄美大島から選ばれた大島(鹿児島)などがそうです。一方の写真甲子園では、たとえば第20回(2013年)優勝の埼玉栄のように、野球や相撲などあらゆる部活動で活躍するような高校も目立ちますが、一般にはほぼ無名な公立高校が強豪として全国の写真部員から目標とされることもあります。近年では、2017~2019年に3連覇した神島(和歌山)でしょうか。

また沖縄県勢が強く、29回中8回、計4校が優勝。準優勝も7回を数えており、“勝率”でいえばすごい結果です。優勝したのはすべて県立高校なので、監督(顧問)の異動が影響した面もありますが、総じて沖縄県勢は色彩や明暗に対する感覚が鋭いように感じます。一枚一枚の質も高く、それでしっかりとストーリーを編める構成力もあります。

かつて、審査委員長の立木義浩氏が「同じ風景でも、沖縄の人たちには違って見えているのではないか」と評したこともありました。ある常連校の監督は「沖縄は陽が長いから、放課後にたくさん写真が撮れる。だから上手になる」という説を唱えていました。写真部の活動は地理や風土、気候の影響を受けるので、あながちないとはいえません。

  • 今回沖縄からやってきたのは、3年ぶり10回目出場の浦添工業。デザイン科やインテリア科を有する美術寄りの工業高校だけあり、過去2回の優勝を誇る。今回は優秀賞を獲得

小さな規模の高校も写真甲子園では大活躍

離島や分校などの小さな高校が活躍するのも写真甲子園の特徴。今治北高等学校大三島分校は、全校生徒が80人ちょっとの小さな高校ながら、3年ぶり3回目の出場。写真部員は9名で、髙橋寛監督は「生徒の1割以上が写真部員ということですね」と笑っていました。髙橋監督も今年4月に赴任したばかり。異動や退職で顧問の先生が代わると、ピタッと本戦出場が途絶える高校と、変わらず本戦に進出する高校があります。後者は生徒が自主的に動き、先輩から後輩へのバトンタッチがうまくいっている証拠。普段は近くの海を撮影したり、のびのびと活動しているそうで、髙橋監督に聞くと「競争の激しい四国ブロックを勝ち抜くくらいだから、部員はたくさん写真を撮ってるんでしょといわれますが、そんなふうには見えないんですよね」。いやいや、顧問に隠れてたくさん撮っているのかもしれません。これまで本戦に出場した先輩の背中を(たとえ在籍は重なっていなくても記録などで)見て、いいところや必要なことを吸収しているのだと思います。他にも、今回は八丈島にある八丈(東京)が2年連続2回目の出場を果たしています。

  • 美容院の中を撮影させてもらう大三島分校の選手たち。「愛媛から来たんです」は、北海道ではパワーワード。ほとんどの人が「遠くから来たねー!」と優しくしてくれる

海外にルーツを持つ選手は珍しくありませんが、全員が中国からの留学生でチームを編成しているのが3年連続3回目の出場となる翔凜(千葉)です。学校自体も留学生が多い国際色豊かな高校。楊珠玲監督もそんな選手たちと同様、もともと中国から留学で来日したのだそうです。今回は男子3名のチームですが、みんなとにかく明るく、そして本当にカメラや写真が好きなようです。僕が高校生だった30年以上前は、高校写真部といえばこんな男子ばかりだったなぁ……と懐かしくなりました。写真甲子園も一時期は女子選手ばかりで、男子選手は数えるほど……という時期もありましたが、今回は57名中21名。少しずつ男子も勢いを取り戻しているようです。

  • 翔凜は優秀賞のほか、選手投票による「選手が選ぶ特別賞」にも輝いた

  • 「選手が選ぶ特別賞」はライバルから認められた証拠で、励みになる結果だ

今回の大会での最多出場は、八代白百合学園の12回目(2年ぶり)。中西琢也監督はなんと写真部の顧問を務めて38年! 写真甲子園には初回から欠かさず応募しており、参加賞を30回分コンプリートしているのが監督のプチ自慢だそうです。異動のない私立高校には、そんな名物監督がいる、というのは野球と似ているかもしれません。今回も「写真部に入って中西先生に教わりたいから、八代白百合に入学しました」という選手がいました。

  • 八代白百合学園の選手たちと中西監督。なんだか険しい雰囲気に写ってしまったが、そんなことはなく暑さでバテ気味なだけ(とくに監督)。高校生でもハードなスケジュールは、ベテラン監督の体力を奪う。先生たちも戦っているのである

新興の写真部でも実力さえあれば出場できる

その一方で新勢力も。2年連続2回目の出場となる逗子葉山(神奈川、昨年は合併前の逗葉高等学校として出場)は昨年春、女子3名が写真部を作りたいということで、逗葉に来たばかりの“英語の鬼頭先生”に相談。実は、鬼頭監督は国内外で写真を学び、その後大学などで教えていた写真家。昨年度教員に採用され、その初任校が逗葉だったのです。いい先生に巡り会えた女子3名は写真同好会を立ち上げ、その勢いで写真甲子園にも出場。今年度は晴れて部に昇格したそうですが、まだ予算がなく、今回出場した3名は初戦の応募作品をスマートフォンで撮影。レンズが交換できるカメラを本格的に使うのは、この本戦が初めてだったそうです。逗子葉山の校長先生、どうか写真部をよろしくお願いします。

  • 逗子葉山の選手たちと鬼頭監督。初めてカメラを使うのが楽しかったそうで、勢力的に撮影しているのが印象的だった

初出場の静岡聖光学院も写真部がなく、今回出場した選手たちも所属はサッカー部など。美術部の顧問である中村麻佑監督が「写真甲子園」を知って、普段学校行事などを撮影していた写真好きの生徒3名に呼びかけたのだそう。応募作品を撮り始めたのも4月に入ってからで、締め切りギリギリに完成。それが競争の激しい東海ブロックを勝ち抜き、とにかく驚いたそうです。「トントン拍子で、選手たちはちょっと戸惑っていたようで……。こちらに来たら女子も多いし(※静岡聖光学院は男子校)緊張していたんです。でも、彼らが他校の選手たちと仲良くなっていったり、日に日に成長していくのを見て、応募して本当によかったと思います。全員2年生なので、もし悔しい結果になっても、来年に向けて奮起してくれればうれしいです」(中村監督)。

  • 発表作品をセレクトする静岡聖光学院の選手たちと中村監督。作品は荒削りな部分もあったが、審査員の公文健太郎氏からは「ちょっとタイミングがずれたおもしろさがあり、そこにユーモアが隠れているのもいい」、立木義浩氏からは「来年も来られるだろ? 頼むよ、審査員を困らせるんじゃないよ」と立木流の激励が

「写真甲子園」に出場したことで新しい将来の夢が生まれ、考えてもいなかった写真の大学や専門学校に進むことになった選手も過去たくさん見てきました。最近は時代を反映しているのか、高校生の進学先は就職に結びつきやすい堅実な分野に人気が集まっています。写真の大学・専門学校は少子化も相まって、競争の激しかった20~30年前よりだいぶ入学しやすくなっているのが実情。しかし、何が何でも写真を学びたい生徒にとっては今がチャンスともいえます。

今回写真甲子園に参加したのは、冒頭で触れた通り過去最多の584校。対する野球の甲子園は、この夏3,486校が挑んでいます。写真部と野球部、ちょっと比較するのは適当ではないかもしれませんが、身近さでいえば写真は野球に負けていないはずです。写真甲子園にももっとたくさんの高校が挑戦してほしいと思います。