Metaの新SNSサービス「Threads」、マーク・ザッカーバーグ氏によるとサービス開始からわずか5日で1億人を突破するなど、予想以上の反響となっています。順調の船出といえるThreadsですが、これで完成という印象はまったく受けず、今後もさまざまな変化を続けていくのは間違いありません。ThreadsがどんなSNSになるのか、個人的に考えてみたいと思います。
Instagramとは違う使い方ができるか
MetaのSNSとしては、おなじみFacebookがあり、Instagramがあります。MessengerやWhatsAppというメッセージングサービスもあり、VR向けのMeta Horizon Worldサービスも提供しています。
SNSとしては、Facebook、Instagramに続く3つ目になりますが、名称としては「Threads, an Instagram app」という名称で開発元もInstagramになっていることから、Instagramのサブサービスというような位置づけです。FacebookにおけるMessengerみたいなもの、ということかもしれません。
アカウントやフォロワー、基本的なUIなど、Instagramと共通点は多く、Instagramに慣れ親しんだ人であれば特に違和感なく使えそうです。
つまり、第一のターゲットはInstagramユーザーではあるのでしょう。では、なぜわざわざもう1つのSNSサービスを立ち上げたのか。もちろん、このタイミングになったのは、イーロン・マスク氏の買収により混乱の極みにあるTwitterの現状があるでしょう。
Twitterの混乱に乗じて、SNSの覇権を握ろうと考えたのかもしれません。ただ、それだけの考えで提供するには、Twitter風サービスの運営は簡単ではありません。第一義的には、きちんとした存在意義が必要です。
Instagramユーザーをターゲットにするからには、これまでのInstagramに不足した機能があるはずです。そこでThreadsで用意されたのは「テキストベースのコミュニケーション」です。
Instagramの場合、もともと写真(最近は動画も)中心のSNSで、投稿した写真に対してフォロワーがいいねやコメントを残して交流していきます。ただ、どちらかというと「一方通行」に近いというか、Twitterのように交互にテキストでコミュニケーションを行うことを想定したものとはいえないように感じています(そう思ってあまり使っていないからそう感じるのかもしれません)。
これに対してThreadsは、最初の投稿(スレッドといいます)自体はテキストだけでも構いませんし、フォロワーはそれを見て返信をしたり、リツイート的な「再投稿」をしたり、いいねを付けたりができます。
Thread(スレッド)という名詞は、一般的にひとかたまりの話題のつながりの総称を意味します。写真や動画に対して複数の人がコメントを寄せるInstagramに対して、1つの話題に対して次々と会話をつなげていくのがThreadsでしょう。画像や動画である必要性はありません。こうしたテキストベースのコミュニケーションを行うSNSがThreadsです。
まあ、それがこれまでのTwitterそのものなわけですが、実際、Instagramには存在しなかった機能ではあります。写真や動画を中心にフォロワーがいいねやコメントをするInstagramは、いわば舞台俳優に喝采をするファンのようなものです(ごく個人的な見解です)。
Threadsでは、同じことをする必要はありません。1枚写真を載せて、あとはコメントやいいねを待つだけならInstagramを使えばいいだけです。面白いネタを呟いたり、日常を切り取ってみたり、ただ壁打ちのように心情を吐露したり、社会への怒りを表明してみたり。本来はコミュニケーションすら必要ないのです。
それがTwitterだったのですが、Threadsはそんな世界を目指しているのでしょうか。Instagramと連携してフォロワーを連携できる点からは、Instagram上での関係性をそのまま継続させようという考えにも見えます。
とはいえ、「Instagramアカウントごとに1つのプロフィールをThreadsで作成できる」という公式見解なので、複数のInstagramアカウントで複数のThreadsを作成すれば良いわけです。「匿名のThreads用Instagramアカウント」を作成して、既存のInstagramとは独立させれば、TwitterのようにThreadsを使うというのも可能です。
もう1点、Threadsで気になるのが、アルゴリズムを優先としたタイムラインになっている点です。後期にはTwitterも導入して、結局いまだに成功したとは思えないこのタイムラインですが、時系列にもなっておらず、フォローしていない人の投稿も紛れ込んで、自分で選んだタイムラインにはなりません。
Threadsは、これをさらに強めているように感じます。かなりの数の「フォローしていない人のスレッド」が流れてくるため、「Instagramが望むタイムライン」が透けて見えます。正直なところ、私自身には合わない考え方です。
サービス開始当初は利用者も多くないので、にぎやかしぐらいのスタンスで多めにフォロワー以外のスレッドを流しているのか、本気でよかれと思っているのかは不明ですが、せめてTwitterのように「Instagramお勧めタイムライン」と「フォロワーのみの時系列タイムライン」という2種類を用意してほしいところです。
Instagramを使わなかった人が、なぜ使わなかったのか。Threads開発者の中でどのような理解になっているのかは興味深いところです。
分散型SNSとThreadsの関係
Threadsは、Twitterが捨ててきたものをいかにカバーできるか、するつもりがあるかという点もポイントでしょう。Twitterはもともと、機能をAPI化して公開することで、一般開発者がクライアントアプリを作成したり、連携サービスを開発したりして成長してきました。
10年以上サービスを提供し続けられたことから決して失敗とは思えませんが、それが結局は足りなかったということでしょう。どんどん機能を削減し、サードパーティアプリを排除し、連携サービスを失い、APIを有料化して、結局ユーザーが「次」を探す事態に陥っています。
つまり、ThreadsはAPIを公開し、サービスの連携を促して、開発者をどんどん呼び込みつつビジネスを成立させれば、Twitterの代替として成り立つ可能性が高まります。「Twitterに対抗する」ことが狙いならば、その路線を目指してほしいところです。
その点でいうと、Threadsが今後「分散型SNS」になるというのは大きなポイントかもしれません。
Threadsは、ほかの分散型SNSと相互接続できる「フェディバース」に組み込まれる予定としています。アクティビティパブプロトコルに対応する予定で、これによってMastodon、Misskeyといった分散型SNSと接続できるようになる見込みです。
このプロトコルに対応するということは、サードパーティアプリでも利用可能になるかもしれません。実際、MastodonやMisskeyに対応したクライアントアプリは存在します。もちろん、Threads自体のAPIの公開も必要になるのですが、Threadsのヘルプには「他のフェディバースプラットフォーム上の利用者とのコミュニケーションを可能にしたいと考えています」と表明。積極的な対応を期待したいところです。
そうすれば、アプリ側で「フォローのみ、時系列表示」ということも可能かもしれません。Windows PCやブラウザでも見やすいクライアントが登場するかもしれません。さらにもう一つ、Instagramが厳しかった「センシティブなコンテンツ」に対する許容度で、他の分散型SNSと連携することで、Threadsユーザーでもアプローチできるようになれば、Twitterにさらに近づけるでしょう。ごった煮で雑多で自由な表現の場の構築ができるなら、一気にユーザー数を増やしたThreadsをきっかけとして、分散型SNSの隆盛が始まるかもしれません。
とはいえ、「Instagramの雰囲気をテキストベースのコミュニケーションでも実現」することが狙いであるなら、私が継続することはなさそうですし、Twitterが過去の栄光を取り戻す可能性もあります。Threads単体だけでなく、SNSの今後を占う意味でも今後の動向が注目されます。