2024年の完成を目指して東京・銀座で建設中の、新しい「Ginza Sony Park」。その完成に向け、すぐ側の地下にある「Sony Park Mini」でさまざまな活動が行われていることをご存じでしょうか。
7月11日にはSony Park Miniと、そこから200m以上離れた「ソニーストア 銀座」の2拠点を結び、リアルとバーチャルを融合させた「XRキャッチボール」を楽しむプログラムがスタート。新しいテクノロジーを使った遊びを通して、「誰もが参加できる、より自由な遊びがある社会のあり方」を考えるきっかけを提供していくそうです。開催日時は7月11日から25日までの各日11時~19時(予定)。
ソニーが今夏仕掛ける、新しい遊びのねらいを聞いてきました。
Sony Park Miniとは何か
本題に入る前に、まずはSony Park Miniという場所について。
2013年にスタートしたソニービルの建て替えプロジェクトでは、一般的なビルの建て替えとは異なり、跡地をいったん「公園」に作り替えるというプロセスを踏みつつブランド化する、という試みが行われてきましたが、いよいよ来年2024年に新しいGinza Sony Parkが完成する予定です。
ソニー企業の永野大輔社長は、かつて「Sony Park展」(2021年)の報道陣向け説明会の中で、「Sony Parkはひとつの“商品”。普通の商業ビルやショールームを作るつもりはない。“(平面な)公園をタテに伸ばす”のがコンセプトだ」と語っていました。数寄屋橋交差点に面する工事現場は現在仮囲いで覆われており、地上部からは一部の駆体(建物の構造部分)のみで全貌はまだ見えませんが、完成時にどのような姿になるのか、今から楽しみにしている人も多いことでしょう。
Sony Park Miniは、建設工事中の新Ginza Sony Parkに隣接する「西銀座駐車場」の地下1階に、10坪(約30平方メートル)ほどのスペースを間借りするかたちで展開されています。ここではブック・コーディネーターや出版社、音楽アーティストらなどと手を組み、ソニーの枠組みだけにとらわれない幅広い活動が繰り広げられてきました。
旧ソニービルには、かつて創業者である盛田昭夫氏が“銀座の庭”と呼んだ、「ソニースクエア」と名付けられた10坪ほどの三角形の公共スペースがあり、ここでは毎年夏に沖縄美ら海水族館監修の屋外大水槽が設営されるなど、周辺の通行人をも楽しませる取り組みが為されてきました。現在のSony Park Miniは地下にあり、カタチも四角形ではありますが、同じ10坪のスペースということで関係者の間では共通性を感じる部分があるようです。
ちなみに、旧ソニービルに入っていたショールーム/ストアの機能は、数寄屋橋交差点から200m以上離れた銀座4丁目交差点角にある複合商業施設「GINZA PLACE」内に場所を移し、4~6階で営業中。筆者もたびたび取材で訪れている場所ですが、銀座におけるソニーの拠点としてすっかり定着したように思います。
明日7/11(火)からは、「Sony Park Mini 夏の三部作」の第一弾である『パークラボ EXPT.07 キャッチボールは遊びの垣根を越えるのか?』を開催!
— Sony Park(ソニーパーク) (@ginzasonypark) July 10, 2023
本日7/10(月)は展示スペースはお休みですが、#西銀座駐車場コーヒー は通常通り営業中。
明日7/11(火)は、西銀座駐車場コーヒーも11時オープンとなります。 pic.twitter.com/9YxfcIs4W0
【本日7/11(火)から25日まで限定開催✨】
— ソニーストア 銀座 (@SonyStoreGinza) July 11, 2023
「Sony Park Mini」と「#ソニーストア銀座」でキャッチボールとは…⚾️❕❔
どんなものなのか気になりますよね…👀❔
参加無料です😌
是非ソニーストア銀座4階フロアにお越しください🙌@SonyStoreGinza @ginzasonypark
詳細➡️https://t.co/Dwiz1iCe1o https://t.co/TDNyUsfLZs pic.twitter.com/deEsXk3hmm
シンプルだがハマるXRキャッチボール
Sony Park Miniで遊べる「XRキャッチボール」は、ひと言で言うと「実際のキャッチボールのようにテンポ良く、仮想のボールをやりとりする体験」です。
ソニーの映像/音響/センシング技術や、ソニーから独立したMUSVI(ムスビ)が持つテレプレゼンスシステム「窓」を活用し、音を頼りにしながら仮想のボールをやりとりする仕組み。今回はふたつの大型ディスプレイと複数台のスピーカー、スマートフォンを組み込んだコントローラーを使い、Sony Park Miniとソニーストア 銀座の4階特設コーナーを結んでバーチャルなキャッチボールを楽しもう、というわけです。Sony Park Miniとソニーストア 銀座をつないで同じ体験を共有する試みは、今回が初めてとのこと。
片方の⼿から離れた仮想のボールは、3つの⾳を鳴らして相⼿の元へ⾶んでいきます。この⾳のリズムを頼りに、相手はタイミングよく仮想のボールをキャッチ。腕の振り方や速さによって仮想ボールの位置を示す音のリズムが大きく変化し、キャッチする側もコントローラーを操作するタイミング次第で歓声に包まれたり、逆に薄い効果音しかなかったりと、さまざまな反応がインタラクティブに返ってきます。
ちなみにMUSVIの担当者によると、離れた場所を映像と音でつなぐために使用しているテレプレゼンスの「窓」は片道150ミリ秒、双方向でだいたい300ミリ秒ほどの遅延が発生するそうですが、認知心理学などを応用して遅延をあまり感じさせないような工夫を盛り込んだとのこと。感覚的には、オンライン会議ツールの「ZOOM」(ズーム)と同程度の遅延になるようです。個人的にはそれほど音ズレなどを気にすることなく、キャッチボールを楽しめました。
体験している人を外から眺めるだけだと、ビジュアル的な派手さには欠ける印象。ですがこの遊びに体験者として参加してみると、シンプルながら意外とハマります。
画面に映っているのは相手の全身の動きのみで、仮想のボールは一切表示されません。ボールが飛んでくるのを示すのは、体験者の手前に並べられたスピーカーから流れてくる3つの⾳だけ。この間隔で音が鳴ったら、手元にボールがくるのはこのくらい……とタイミングを見極めてコントローラー(スマホ)のボタンを押すことで、ちゃんと“キャッチできたか”を示す効果音が流れます。外した場合は薄い反応しか返ってきません。うまくキャッチボールできた、と実感できるまで何度も試すうち、気がつけば数分が経過していて、ちょっとした運動にもなりました。
XRキャッチボールでは仮想ボールを視認する仕掛けは用意されないので、究極的には目が見える状態でなくても遊べます。試しに目をつぶって体験してみたところ、操作に慣れてくるにしたがって「このタイミングでコントローラーのボタンを押せば、飛んできたボールをいいタイミングでキャッチできるな……」と、だんだんコツがつかめてきました。単純な遊びではありますが、アクセシビリティ(さまざまな人にとっての利用のしやすさ)を考慮してデザインされていることもよく分かりました。
“誰もが参加できる、自由な遊びのある社会”を
XRキャッチボールは、もともとはソニーグループのインハウス デザインチームであるクリエイティブセンターが、視覚障がいのある人たちとともに開発したもの。2021年7月に実施した、インクルーシブデザイン(障がいのある人をはじめとした多様なユーザーを含めて、お互いを理解しながら一緒にデザインする手法)のワークショップからスタートしたそうで、開発の直接のきっかけは「(目が見えづらくても)子どもとキャッチボールがしたい」という声だったそうです。
ソニーグループのWebサイトに開発の経緯がまとまっているので詳細はそちらに譲りますが、Sony Park Miniにはこのプロジェクトに携わった、ソニーグループ クリエイティブセンターの反畑一平氏が来場しており、話を聞くことができました。
XRキャッチボールの開発にあたってはさまざまな人に体験してもらって調整を重ねたとのこと。ソニーグループ内の介護施設「ソナーレ」に入居するお年寄りや体の不自由な人のほか、子どもたちにも体験してもらって細かな改善を行い、周りの人も一緒に楽しめるよう音の演出などを調整・チューニングしていったといいます。確かに、スマホを振りまわしたときやボールが飛んでいくリズムを表す音は聞き取りやすくなっていました。「プリミティブな方法だけど、実はこれが一番良かった」(反畑氏)のだそうです。
また、キャッチボールという言葉を冠してはいますが、腕を大きく振りかぶったりしなくても仮想ボールをリリースすることはできるため、「こうやっても投げられるんじゃない?」「こうやったら面白いんじゃない?」と、集まった人の間で試行錯誤が始まり、イマジネーションが広がっていく効果も期待できる、と話していました。
この記事の写真を見て気付いた人もいるかもしれませんが、ここで使われているのはソニー製のプロダクトだけではありません。「インタラクションを遠隔地で連携させる」ことをテーマに掲げ、やりたいことから発想して優先度をつけるという手法を用いて、“プロダクトありき”ではなく“体験ありき”で開発を進めていった結果として、今回は市販製品を多用したシステムになったのだそう。
XRキャッチボールの開発段階では、ハプティクス(実際にモノに触れているような感触をフィードバックする技術)を盛り込んだ新しいガジェットを新規で起こすアイデアもあったようで、個人的にはちょっと見てみたかった気もしますが、「XRキャッチボールという体験をデザインする」という過程においては優先度が高くなかった……ということなのでしょう。
Sony Park Miniはストア銀座と違い、より公共性の高いエリアにあることもあって、ソニーにそれほどなじみのない人も多数やってくることが見込まれます。担当者によれば、20~40代を中心に幅広い世代の人が訪れるそうですが、今回のような「誰もが参加できる、自由な遊びがある社会」というテーマは、大人だけでなく子どもにも興味関心を持ってもらえるのではないか……と感じました。ここで体験したことを、夏休みの自由研究の取っかかりにしてみるのもよさそうですよね。