次に、B3ドメインを持つ8つの情報伝達因子の候補が、研究チームが先行研究で発見したクレブソルミディウムのオーキシンに応答する遺伝子「KnLBD1」のプロモーター領域に影響して、下流にある遺伝子の発現を活性化するかどうかを検証したとする。すると、1つの候補でのみKnLBD1プロモーターの活性化が見られたとした。同遺伝子はRAV転写因子というグループに属していることから、KnRAVと命名された。

  • 8つの情報伝達因子の候補によるKnLBD1プロモーターの活性化。情報伝達因子を加えないコントロールサンプルに対して、KnRAVを加えたサンプルでのみKnLBD1プロモーターの活性化が見られた。

    8つの情報伝達因子の候補によるKnLBD1プロモーターの活性化。情報伝達因子を加えないコントロールサンプルに対して、KnRAVを加えたサンプルでのみKnLBD1プロモーターの活性化が見られた。(出所:東工大プレスリリースPDF)

KnRAV遺伝子によって生産されるKnRAVタンパク質が、KnLBD1プロモーターに結合して活性化していると考えられることから、同タンパク質が結合するKnLBD1の上流領域が決定された。すると、予想に反してRYモチーフではなく、2か所のCCTG配列に結合することが明らかにされた。

さらに、クレブソルミディウムで早期にオーキシンに応答する16遺伝子のうち、少なくとも2つはKnRAVタンパク質により転写が活性化されることから、KnRAVタンパク質はクレブソルミディウムのオーキシン応答に関わる情報伝達因子であると考えられるという。これにより、核オーキシン経路を持たない藻類において、オーキシン応答に関わる情報伝達因子が初めて同定された。

  • 陸上植物の核オーキシン経路と、今回の研究で明らかにされたクレブソルミディウムのオーキシン応答に関わる情報伝達因子。

    陸上植物の核オーキシン経路と、今回の研究で明らかにされたクレブソルミディウムのオーキシン応答に関わる情報伝達因子。(出所:東工大プレスリリースPDF)

KnRAVタンパク質は、B3ドメインの他に、DNAに結合するAP2ドメイン、タンパク質相互作用に関わるPB1ドメインを持つ。B3ドメインおよびPB1ドメインも、陸上植物の核オーキシン経路で重要な役割を果たしており、このクレブソルミディウムと陸上植物の共通祖先の段階で、すでに陸上植物の核オーキシン経路の基盤となるようなシステムが完成していたことが予想されるとした。

研究チームは今後、今回発見されたKnRAVタンパク質をきっかけとして、クレブソルミディウムのオーキシン応答の全貌を明らかにし、クレブソルミディウムのみならず、さまざまな藻類のオーキシン情報伝達経路を比較していくことで、陸上植物の核オーキシン経路の起源と進化が明らかになっていくものと期待されるとしている。